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簡易課税の第1種と第2種の判定基準 卸売業の定義は通常の日本語の理解を超える

消費税の簡易課税について以前から疑問に思っていたことがあり、なんとなく流していたのですが、今回改めて調べてはっきりしましたのでまとめておきます。簡易課税の事業区分についてです。




目次

問題:次の取引は、第1種事業(卸売業)又は第2種事業(小売業)のどちらですか?

  1. 中古車販売店が軽トラック1台を農家に販売した。
  2. 新聞販売店が定期購読契約を結んでいる会社に新聞を販売した。
  3. 花屋が飲食店を営む者に花を販売した。飲食店を営む者はその花を自らの店に飾るために購入したものである。
  4. スーパーマーケットが、茶菓子を販売した。購入したのは近所の会社で、その会社は会議費として経理している。


即答できるでしょうか?


結論から言うと、(販売先が帳簿等で明らかになっていることを条件として、)全て第1種事業(卸売業)とすることができます。予備校で税理士試験の消費税法を学習したことがある方数人に聞いてみたところ、概ね第1種と答えましたから、常識的なことのようです。
しかし、消費は実務と大学院でやってきたのみの私には、この結論には違和感がありました。なぜなら、通常の日本語の理解として、「卸売」とは次のように使われます。

【卸売】
卸売業者が生産者や輸入業者から大量に仕入れた商品を小売業者に売り渡すこと。

三省堂「スーパー大辞林3.0」 iOS版

小売業者に販売するためのものが卸売です。上記の設例では、販売した先の事業者が(小売を行うためではなく、)自ら使用していますから、第2種事業(小売業)に該当するのではないかと考えるのが、日本語の常識的な理解に従ったところと言えます。

ところが、消費税法の実務では、「卸売業」について、特殊な定義をしているのです。


簡易課税(事業区分)の概要

丁度、今年(令和元年)の税理士試験で、簡易課税の事業区分について問われました。予備校の理論テキストではカバーしていなかったので、計算の知識を利用して作文して解答することが求められたようです。

第69回税理士試験 消費税法 第一問 問2 (2)

 簡易課税制度における消費税額の計算においては、事業の種類ごとの区分(事業区分)に応じた一定の控除割合(みなし仕入率)を用いるが、消費税法令に規定する各事業区分に該当する事業の意義及び各事業区分に適用されるみなし仕入率について述べなさい。


https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishishiken/shikenkekka/69/pdf/mondai_shouhi.pdf


上記に対する答えは、以下の表に引用する通りです。

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No.6509 簡易課税制度の事業区分|国税庁

簡易課税(事業区分)の定義規定

これが、条文にはどのように書かれているか見てみます。実は消費税法の本文には「簡易課税」という言葉は存在せず、法37条に「課税売上高が5千万円以下である課税期間について……百分の六十に相当する金額を……仕入れに係る消費税額とみなす」とだけ定められています。そして、そのかっこ書きで政令で定める率を乗じて計算、として政令で事業区分を規定しているのです。

(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)

第三十七条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
一 当該事業者の当該課税期間の課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)に係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の百分の六十に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあつては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)
二 当該事業者の当該課税期間の特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における第三十八条の二第一項に規定する特定課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額を控除した残額


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(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)

第五十七条 次項及び第三項に定めるもののほか、法第三十七条第一項第一号に規定する政令で定める事業は、次の各号に掲げる事業とし、同項第一号に規定する政令で定める率は、当該事業の区分に応じ当該各号に定める率とする。
一 第一種事業 百分の九十
二 第二種事業 百分の八十
三 第三種事業 百分の七十
四 第五種事業 百分の五十
五 第六種事業 百分の四十


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つまり、簡易課税のみなし仕入率は、第四種事業の60%控除が法律上のデフォルトであり、それ以外の事業区分とみなし仕入率を例外的規定として施行令に委任する形を取っているのです。この時点で、なぜこのような入り組んだ条文構造にしたのか、意味がわかりません。


そして、続く5項で、第一種は卸売業、第二種は小売業、とのみ定義しています。第6項に、ようやく卸売業とは何かが定義されています。

5 前各項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 第一種事業 卸売業をいう。
 二 第二種事業 小売業をいう。
 三 第三種事業 次に掲げる事業(前二号に掲げる事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。)をいう。
  イ 農業
  ロ 林業
  ハ 漁業
  ニ 鉱業
  ホ 建設業
  ヘ 製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)
  ト 電気業、ガス業、熱供給業及び水道業
 四 第五種事業 次に掲げる事業(前三号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。
  イ 運輸通信業
  ロ 金融業及び保険業
  ハ サービス業(飲食店業に該当するものを除く。)
 五 第六種事業 不動産業(前各号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。
 六 第四種事業 前各号に掲げる事業以外の事業をいう。

( 略 )

6 前項第一号の卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうものとし、同項第二号の小売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で同項第一号に掲げる事業以外のものをいうものとする。

「卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業」であり、事業者とは、消費税法では、第2条1項4号に「個人事業者及び法人」と定義されています。ここまで見て、やっと消費税法上の卸売業とは何かが明らかになりました。

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 三 個人事業者 事業を行う個人をいう。
 四 事業者 個人事業者及び法人をいう。

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法人に対する販売は全て第1種事業(卸売業)としてよいのか?

「他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業」で、事業者に対してするものが卸売業で、それ以外が小売業である、と。相手が事業者であればよく、相手の事業者(個人事業者・法人)が自ら消費するものであっても、第1種事業(卸売業)としてよいのか?念押しで確認しておきたいと思って実務書『図解消費税 平成29年版』を確認しましたがはっきりとは書いてありませんでした。(p.389の表に、個人事業者に対する茶、菓子等の販売は第2種で「購入された商品が事業用に供されることが明らかな場合は第1種」と記載がありました。一方、法人に対するものは第1種となっています。)



よりによって、法令でも通達ですらもなく、タックスアンサーに書いてありました。

(2) 第一種事業

 消費者から購入した商品を品質又は形状を変更しないで他の事業者に販売する事業も卸売業に該当することになります。また、業務用に消費される商品の販売(業務用小売)であっても事業者に対する販売であることが帳簿、書類等で明らかであれば卸売業に該当することになります。

No.6509 簡易課税制度の事業区分|国税庁

というわけで、冒頭の問題に対する答えが出ました。販売先が帳簿等で明らかになっていることを条件として、全て第1種事業(卸売業)とすることができるのです。


消費税法のあり方に疑問

一応、答えは出ました。しかし、この結論は、日本語の通常の意味と異なり、わかりにくいことから些か疑問を感じます。第2種が第1種になるのであれば納税者有利ですから問題はないかもしれませんが、逆であれば争いとなったでしょう。

私の大学院の教授で弁護士の先生がいらっしゃいます。歯科技工士が製造業(第三種)かサービス業(第五種)かが争われた税務訴訟で勝訴を得たご経験があり、話を聞かせて頂いたことがあります(なお、高裁で逆転敗訴・確定。)。簡易課税の制度自体、曖昧で問題であると感じます。

この事件は、消費税の簡易課税制度を選択している歯科技工所を営む有限会社が、70%のみなし仕入率が認められる製造業(第三種事業)であるとして消費税と地方消費税の申告をしたところ、原処分庁が第五種事業のサービス(みなし仕入率50%)と認定、更正処分してきたため、その取消しを求めた抗告訴訟。原処分庁は課税実務上、業種区分の判定は日本標準産業分類に従って事業の範囲を確定することに合理性があると主張。つまり歯科医師の医療行為に付随するサービス提供事業であるという解釈をしたわけだ。

 これに対して判決は、租税賦課の根拠になる法令等の用語は法令等に定義がある場合はそれに拠るのが当然だが、そうでない場合は日本語の通常の用語例による意味内容に拠るべきであると示唆する一方で、歯科技工士法からみた歯科技工士の職務内容(法律の制定経緯、規制内容)を整理。その上で、歯科技工士業の実態を調べ、有形物を給付の内容としていることが明らかであるから製造業に該当すると判定している。


日替り税ニュース


消費税は、これ以外にも法律上に曖昧にしか書いていなく、通達や運用でカバーしようとしている点が多いと感じています。これは租税法律主義に反するものであり、予測可能性を損なうことから問題であると考えます。



※この記事は法解釈の一事例を示したものであり、閲覧時点での有効性を保証するものではありません。
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