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税理士試験免除の論文審査にはどれくらいかかる?どんな場合に不認定となる?院免除制度解説

私の元に、メールでご質問を頂いていました。今年の春に大学院を修了したという方で、国税審議会に免除申請のため論文を提出したものの、なかなか通知が来ないということでした。今回はこの質問にお答えする形で、税理士試験の院免除制度の解説も書いていきたいと思います。

目次

質問

税理士を目指す若輩者様、メールの内容をこちらに転載してよいか、ご連絡ください。

Mark様


はじめまして、こんにちわ!
ブログを拝見させていただきました。一つご教授いただきたく、失礼だとは思いましたがメールする決心をしました。

当方、          です。
税理士試験の突破を目指していたのですが、事務所の税理士が高齢や病気もあり
どうしても事業承継しなければならないため、税理士試験の突破を諦めて、大学院に入学し、苦労の末、なんとか今年3月に論文を書き上げて修了することができました。
その修了式当日には、国税審議会に全部免除の申請を出しているのですが、11月半ばとなるのに、まだ通知が来ません・・・
ここにきて、まさか不 認定ではないのか?という不安がよぎります・・・
しかし、論文については不正なんていうのは当然になく、指導教授にしこたましごかれながら、死ぬ思いで書き上げました。
自分なりに最善の論文になったと思ってます。

そこでお聞きしたいのですが、不認定になる場合はどのような場合かご存知でしょうか?
事前伺いもなく、いきなり不認定通知がくるのでしょうか?
今年は、インターネットを拝見すると、まだ大半の人が来ていないように見えますが、通知が来てる人も事実いるようです。(当方は田舎のため、周りに論文を出した人は一人しかいません。)
ちなみに国税庁受理は3月20日です。
7月頭や10月頭に来てる方がいるのに、こうも差がでるのか意味がわかりません・・ ・

このようなことをMark様に申し上げてもなんの解決にもならないのは重々承知しておりますが、もしなにかご存知であれば、ご教授ください。



税理士を目指す若輩者 より

修士の学位による税理士試験の科目免除(大学院免除)制度

こんにちは。メールいただいてからお返事が大変遅くなり、申し訳ありません。
免除決定の通知がなかなか来ないということでしたが、もしかするとこの間に届いているかもしれませんが、私の分かる範囲でお答えします。

院免除制度の簡単な説明

税理士試験は、通常、会計学に属する科目2科目と、税法に属する科目3科目の計5科目の合格が必要です。

修士の学位による科目免除を受けようとする場合は、大学院(通常2年間)を修了し修士の学位を授与された上で、研究指導に基づく修士論文等の写しを提出し、国税審議会から研究認定を受けます。免除制度は、会計学、税法の分野それぞれ別で、試験で最低1科目合格した上で認定を受けると残りの科目が免除されます。会計学、税法の両分野で免除を受けるには、大学院を2回修了しそれぞれ論文の認定を受ける必要があります。

研究認定(論文審査)はどのように行われるか

論文審査をどのように行っているかについて、私が行った開示請求で開示された国税審議会の会議資料により、「研究認定担当試験委員」が数名、国税庁から任命されていることがわかっています。

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新しい試験結果通知書、採点担当試験委員の存在、史上最年少合格者など新事実が判明 - Markの資格Hack (税理士試験)


税理士試験の試験委員は毎年官報に官職と氏名が公表されていますが、研究認定担当の委員についてはその存在も含め、公表されていません。
(研究認定担当の委員の氏名も開示するよう、審査請求を行い、現在係属中です。)


専修大学の増田英敏教授は、過去にご自身が論文審査担当に任命されたことがある、とお書きになっていました。


提出された論文のテーマの分野毎に、これら数名の大学教授から成る認定担当の委員に割り当てられ、審査が行われているのではないか、と言われています。

論文審査にはどれくらいの期間がかかる?

5ちゃんねるのスレッドにまとめられている情報によると、過去に免除を受けた人からの報告で、免除決定通知書の発布があった日付は以下のようになっています。

762 150 2019/12/04(水) 12:16:04.53 id:dsHew8Rr0 >>764

H27.1.6⇒H27.5.15⇒H27.7.9⇒H27.9.14
H28.2.19⇒H28.7.5⇒H28.8.24⇒H28.9.28⇒H28.11.28⇒H28.12.16
H29.3.1⇒H29.4.27⇒H29.6.29⇒H29.8.8⇒H29.10.10⇒H29.11.21⇒H29.12.15
H30.1.12 ⇒30.2.27(会計)⇒H30.4.17⇒H30.6.19(会計)⇒H30.9.4(会計)⇒H30.10.29⇒H30.11.7⇒H30.12.14
H31.3.27⇒R1.6.10⇒R1.7.3⇒R1.9.25⇒R1.11.18



税理士 免除通知来ましたか?(転載禁止)Part2
http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/exam/1541399517/


早い場合は申請から3ヶ月くらいで決定があったようですが、近年では半年以上かかることが珍しくなくなっており、平成30年と今年は3月に提出して11月に決定という例があったようです。blogで報告されている方を何名かご紹介します。

(松井 元様)平成29年3月21日提出→平成29年6月29日決定

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(大浦 智志様)平成30年3月23日提出→平成30年10月29日決定

(リュウ様)平成30年3月22日提出→平成30年6月19日決定

(脇田 弥輝様)平成22年3月30日提出→平成22年7月29日決定

(3月21日くらいに出した友人は1ヵ月ほどで届いたようです。
私と同じように30日くらいに出した人達は4ヵ月かかりました。
提出の10日の違いで、全国から申請がくるのでしょうね。)

ちなみに、こちらは5科目合格で免除申請をされた方の免除決定通知書です。*1

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どんな場合に不認定となる?

さて、ご質問の「不認定になる場合はどのような場合か?いきなり不認定通知がくるのでしょうか?」という点について、私の知り得る情報をお答えします。

国税庁ウェブサイトのQ&Aに公表されている認定の基準は以下の通りです。

 平成14年4月1日以後に大学院に進学し、そこで授与された修士の学位等により税法に属する科目又は会計学に属する科目の試験免除を受けようとする方は、それぞれ平成14年4月1日から施行された税理士法第7条第2項又は第3項に基づき、自己の研究が税法に属する科目等又は会計学に属する科目等に関するものであることについて国税審議会から認定を受ける必要があります。
 研究の認定を受けるためには、次の条件を満たす必要があり、満たしていない場合には不認定となります(これまでも一定数が不認定となっています。)。

(1) 税法に属する科目の認定を受けるためには、大学院において所得税法や法人税法などの税法に属する科目等(学問領域は問19~問20参照)の研究により学位を授与されていること。
(2) 会計学に属する科目の認定を受けるためには、大学院において簿記論や財務諸表論などの会計学に属する科目等(学問領域は問21~問29参照)の研究により学位を授与されていること。
(3) 申請する分野(税法に属する科目又は会計学に属する科目)の試験科目のうち、1科目の試験で基準(満点の60%)以上の成績を得ていること(いわゆる一部科目合格していること(問5参照))。


2 修士の学位等による試験科目免除(研究の認定を含む。以下同じ。)について〔税理士法改正後〕|国税庁

問12  研究の認定についての基準は何か。

(答) 国税審議会は、平成13年12月25日の国税審議会会長名の公告により、認定の基準を次のとおり定めています。

 国税審議会は、税理士法第7条第2項及び第3項に規定する認定については、当該認定の申請のあった研究について、次に掲げる事項に該当しているか否かを審査した上で、それらの結果を総合的に判断して行うものとする。

1. 単位の修得
税理士法第7条第2項又は第3項に規定する認定(以下「研究認定」という。)を申請する者が、当該申請に係る科目(同法第7条第2項に規定する研究認定の申請においては同項に規定する税法に属する科目等、同条第3項に規定する研究認定の申請においては同項に規定する会計学に属する科目等をいう。以下同じ。)を内容とする単位を4単位以上修得していること。
ただし、学位論文の作成指導に係る演習を受けること又は学位論文の審査及び試験に合格することにより修得する単位は含まない。

2. 学位論文
研究認定の申請をする者の学位論文又は大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第16条に規定する研究の成果が当該申請に係る科目に関するものであること。


2 修士の学位等による試験科目免除(研究の認定を含む。以下同じ。)について〔税理士法改正後〕|国税庁


見て分かる通り、基準は非常に大雑把なものであり、結局のところ「総合的に判断して行う」と曖昧になっています。

論文の内容については「申請に係る科目(税法又は会計学)に関するものであること」という点が重視されています。この点、平成13年の税理士法改正前の免除制度では、税法に限らず法学に関する研究で学位を取ってさえいればよかったため、例えば刑法について研究した者であっても申請すれば税法免除となったようです。

 税理士法改正前の免除制度の概要は次のとおりです。

(1) 税法に属する科目の免除
 大学院において「法律学」又は「財政学」に属する科目に関する研究により修士又は博士の学位を授与された場合には、国税審議会に対して免除申請することにより、税法に属する科目の試験が免除されます。

(2) 会計学に属する科目の免除
 大学院において「商学」に属する科目に関する研究により修士又は博士の学位を授与された場合には、国税審議会に対して免除申請することにより、会計学に属する科目の試験が免除されます。


1 税理士法改正前の試験科目免除について|国税庁


現行の制度になってからの論文審査の肝はこの点にあるようです。即ち、論文の巧拙については問わないが、論文の中心的内容が税法(会計学)に関するものであるか否かはシビアに見ており、過去に私がネット上で見聞きした情報によると、税法について扱った論文であったものの、中心的内容ではないとして不認定となった事例があると聞いています。また、論文の内容に疑義がある場合は、指導教授の元に問い合わせがある場合があるようです。

ちなみに、私の大学院の教授陣は、「法律学の論文とは、法解釈を行うものであり、税制のあり方などを問うものは財政学の分野となるので、税法論文としては不認定となる」ということをしきりに言い注意していました。しかし私は、現行の税法解釈を論じた上で改正案を提言するものは、税法論文に含まれると考えています。

国税庁Q&Aでは、以下のように説明されています。

問20  租税についての経済分析や政策を研究したが、認定が受けられるのか。

(答) 租税制度の経済的な側面あるいは政策的な側面の研究については、それらが我が国の税法を基礎としたものであり、かつ、税法に属する科目等と密接に関連するものである場合は、税法に属する科目等に関する研究に該当することになると考えています。
 なお、研究の主たる関心が税法に属する科目等にあるとはいえないような場合(例えば、数学的処理や統計的処理に主たる関心を置いた研究等)は、税法に属する科目等と密接に関連するものであるとは認められず、認定の対象となる研究領域に含まれません。
 また、税法以外の法律学(例えば、民法上の親族・相続制度の研究、金融商品取引法上の有価証券店頭デリバティブの研究等)や税法以外の財政学(例えば、年金制度の研究、地方自治体への財源委譲の研究等)、又は外国の租税制度あるいは我が国の過去の租税制度の研究(例えば、米国所得税法の研究、租庸調の研究等)は、それに関連する現行の税法が存在するというだけでは、税法を研究対象としているとはいえず、認定の対象となる研究領域には含まれません。
 いずれにしても、税理士試験の免除制度の趣旨は、税理士法第1条に定める税理士の使命の実現のために、その税理士業務を適切に行い得る能力(試験合格者と同等の学識及びその応用能力)を十分に有していると認められる者について、試験科目の分野ごとに試験を免除することにあるところ、税法(又は会計学)に属する科目等に関する研究かどうかの判断に当たっては、こうした免除制度の趣旨に鑑み、研究の名称にとらわれることなく、研究内容について個別的に審査されます。


4 「税法に属する科目等」の学問領域について|国税庁

このページを2017年頃に確認した際には、「税法に属する科目等に関する研究」の例として、以下の記述がありましたが、現在ではなぜか削除されています。

具体的な例としては、「国際的な電子商取引に対応した消費税制の研究」や「キャッシュフローと法人課税の研究」などが考えられます。


それから、当然ながら、論文に剽窃が見つかった場合は不認定となります。*2

「私はこうして不認定となった」

論文審査で不認定になった経験があるという現税理士の方に、ツイッターでお話を聞くことができました。お名前を出すことができませんが、貴重なご経験として後進のために収録させて頂きます。
この方は、消費税をテーマに書かれましたが、海外の制度と比較した部分の比重が高くなってしまい、税法を免除する論文と認められないと判定されてしまいました。その際は、国税審議会から、税法に関する論文に該当せず財政学という指摘が電話であり、指導教授とも確認、見解の提出をしましたが、申請の自主的な取り下げという形になったそうです。その後この方は別の学科に入り直して再度2年間通い、論文を書いたそうです。「横道にそれて税法から脱線することがないように」気をつけて欲しいとのことです。

令和元年7月22日(令和元年度(行情)答申第124号)「平成29年度における税理士法7条2項及び3項による認定結果等が分かる文書等の一部開示決定に関する件」

以上のように、論文は形式的な要件を満たしていれば基本的にほぼ全て免除される、と聞いていますが、極稀に不認定となる場合があるようです。どのような場合に不認定となるのかは私にとっても重要な関心事でした。

税理士試験の科目免除(研究認定・論文審査)の認定基準は、試験の合格基準同様、客観的に公正妥当なものでなければなりませんが、「総合的に判断する」と曖昧なものになっています。何件の研究認定の申請があり、何件が認定となったのか、不認定となった場合にはいかなる理由で認定されなかったのか、について公にすべき情報と考えます。また、研究認定は税理士資格を得られるかどうかに直結することから、行政処分に該当するものと考えられますが、不認定となった場合に不服申立の手段はあるのか、という点も気になります。

以上の理由から開示請求を行いました。


私の開示請求に基づき開示された「試験免除の申請等」という文書は、全面黒塗りでした。本件対象文書の不開示とした部分には、以下の項目が記載されているとのことです。

税法に属する科目等に関する研究と認定することに疑義があると認められた者に関する氏名,生年月日,年齢,申請年月日,学位取得大学院等の名称,取得学位,論文題目,指導教授,合格科目,申請後のやり取りの状況,具体的な研究内容及び当該研究内容を踏まえた研究認定担当試験委員の審査意見等


国税庁は不開示理由として、「特定の個人を識別することができるものであり,法5条1号本文前段の不開示情報に該当する」としました。私は、「氏名、生年月日等を除いた部分は、特定の個人の識別ができるものではなく、不開示情報に該当しない」と抗弁しました。この点について、情報公開審査会の答申では、私の主張を何ら具体的に検討することなく、国税庁の主張をそのまま受け容れる判断をしました。

また、「研究認定申請の数と不認定となった件数がわかるように開示を求めるものであるので,仮に上記の主張が妥当とされなかった場合においても,改めてその件数がわかるように開示を求める。」と書いたのですが、この部分には全く触れることなく審査は終結しました。

結論として、不開示は妥当として私の審査請求を棄却する答申、裁決となりました。情報公開・個人情報保護審査会のサイトで、答申の全文が公開されています。


全くの不当裁決であると考えており、訴訟によって争う余地もあると考えていますが、今私の状況がそれどころじゃないので棚上げになっています。(本件の出訴期限は令和2年2月19日となります。)


長くなりましたが、以上になります。このメールの内容は、blog記事としても掲載したいと考えております。よろしくお願いいたします。

*1:5科目合格の免除者については、以下記事の第5項参照。税理士試験受験者は激減だが、税理士の数は減っていない - Markの資格Hack (税理士試験)

*2:日本経済新聞2007年8月30日夕刊「論文盗用で学位、税理士試験合格、元大学院生資格取り消し。」