【軽減税率】みりんが10%で「みりん風調味料」が8%なのは「脱法みりん」だから 酒税法と租税回避
軽減税率は非常に問題が多くわかりにくい制度ではあるけど、みりんとみりん風調味料は、特に迷うことはない。
— Mark / まあく (@mark_temper) September 28, 2019
みりんはもともと酒(アルコール分一度以上の飲料をいう=酒税法2条)で、酒税を逃れるための「脱法みりん」として「みりん風調味料」なるものが作られたことを知っていれば当然なのである。 pic.twitter.com/iLpRaBVhk4
上記引用は今朝の中日新聞より。
— Mark / まあく (@mark_temper) September 28, 2019
①飲食料品(酒類を除く)が軽減税率の対象である。
②みりんは酒類である。
③みりんは軽減税率の対象から除かれる。
極めて単純な法的三段論法である。
ツイート1つ分で終わる話でしたね(笑)。せっかくなのでblogでは、もう少し掘り下げたいと思います。
目次
酒税法とみりん
みりんは、もち米、米麹にアルコールを加えて作る、酒の一種です。通常、アルコール分を14%程度含みます。
蒸したもち米に米麹を混ぜ、焼酎または醸造用アルコールを加えて、60日間ほど室温近辺で熟成したものを、圧搾、濾過して造る。
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ちなみに、酒税法には、みりんの定義規定が以下のようにあります。面白いですね。
酒税法
第三条
十一 みりん 次に掲げる酒類でアルコール分が十五度未満のもの(エキス分が四十度以上であることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)をいう。
イ 米及び米こうじに焼酎又はアルコールを加えて、こしたもの
ロ 米、米こうじ及び焼酎又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの
ハ みりんに焼酎又はアルコールを加えたもの
ニ みりんにみりんかすを加えて、こしたもの
対して、「みりん風調味料」は、みりんにかかる酒税を避けるために、アルコール分を1%未満に抑えつつ、みりんの代用品として作られた、いわば「脱法みりん」です。宗教上の理由でアルコールが飲めない人向けなど、今ではその存在意義はあるでしょうが、もともとはアンチ酒税商品として生み出されたものです。また、みりん同様のアルコール分を含みつつも塩を加えることで酒として飲用できなくすることで酒税の課税がされない「発酵調味料」というカテゴリもあります。
みりん風調味料
酒税のかからない1%未満のアルコールに、みりんの風味に似せてうま味調味料や水飴等の糖分その他を加えたもの。
発酵調味料
5-14%程度のアルコールを含むが、不可飲処理(1.5%以上の食塩を加えるなど)しているため飲用と扱われず、酒税のかからないもの。
現代では調味料のイメージの強いみりんですが、もともと酒として楽しまれていました。
元来は飲用であり、江戸期に清酒が一般的になる以前は甘みのある高級酒として飲まれていた。現在でも薬草を浸したものを薬用酒として飲用する(屠蘇、養命酒など)。
三州三河みりんの角谷文治郎商店さんへの取材記事で興味深いことが書かれていました。かなり高率の酒税がかけられていた時代があったのです。
みりんはもともと戦国時代のころに武士や貴族の飲みものとして生まれました。
そして戦争がはじまります。みりんは米をたくさん使うぜいたく品として製造が8年間禁止されて、戦後に再開できたたときも非常に高い酒税がかけられたんです。かけそばが一杯30円だった時代に、みりんは一升瓶が千円。現在に換算すると1万円ぐらいです。その千円のうちの762円を酒税として国に納めていました。
戦後、酒税は減額されていきましたが、まだまだ高かった。みりんを作りたくても作れない蔵が、どうやったらみりんを作れるかと考えて、それで今スーパーに並んでいる『みりん風調味料』が生まれたんです。糖化液に化学調味料やアミノ酸液などを加えたもの。最初は新みりん、塩みりんとして世に出てきて、昭和50年にこれではわかりづらいということで『みりん風調味料』と呼ぶことになったのです。
米1升からみりん5升までつくっても本みりんと呼んでいいことになっています。そんななかで私たちはこの碧南で、1910年の創業以来ずっと『米一升、みりん一升』を守っています
記事の続きを読んでいたら飲みたくなって、注文してしまいました。
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みりんを焼酎で割った「本直し」という飲み方もあります。
本直し(ほんなおし)は、みりんに焼酎を加えたもの。直しとも。江戸時代の風俗をまとめた『守貞漫稿』によると、みりんと焼酎をほぼ半々に混ぜたものを上方では「柳蔭(やなぎかげ)」、江戸では「本直し」と呼び、冷用酒として飲まれていた。
時代が下って、調味料として酒税が低くなったみりんが、今度は安い酒として利用されていた時期があったんだそうです。これは今回ググって初めて知りました。
この本みりんにアルコールや焼酎を加えたお酒が、1990年代末に大量に売れました。
有名なのが、福岡県久留米市にある酒造「鷹正宗」の本直し「いっぱいどう大」(25度)です。1999年7月に4リットル1300円前後で販売すると、瞬く間に売れ、他社もあとを追いました。税率がみりん扱いだったので、安くできたのです。
1990年代にWTOの勧告により、ウィスキーの酒税が下がる一方で焼酎の酒税は上昇したが、料理酒と同一視された本直しは看過され、相対的に低い税率に抑えられた。そこで一部の焼酎・みりん製造業者は、発泡酒同様の「節税焼酎」として本直しに着目、1990年代末期には飲用酒としての販売量が急激に増加した。
しかし大蔵省(現・財務省)はこれを見逃さず、2000年の酒税改正において、焼酎を多く加えた飲用みりん(アルコール分23度以上、またはエキス分8度未満)については焼酎と同じ税率となり、直しへの需要は急激に廃れた。現在の本直しは、比較的限られた業者が製造・販売している。
税金のあり方一つで市場ができたりなくなったりする。酒税が酒の製造・消費に与える影響は、斯くも大きいのです。
酒税法と租税回避商品
酒税を逃れるために租税回避商品として作られたみりん風調味料をわかりやすく「脱法みりん」と呼びましたが、俗に「第3のビール」と呼ばれている、あれも要は「脱法ビール」なわけです。酒税法上の酒類には違いないので酒税がかかります(従って軽減税率の対象外)が、「ビール」よりも税率が低いです。
ビールはもともと日本の酒税法では断トツに高税率(1kl当たり22万円)
↓
メーカーが「脱法ビール」として発泡酒を開発
↓
国税庁が発泡酒の税率を増税
↓
メーカーが「第3のビール」を開発
という流れがありました。
そのあたりの話は、以前にここに書きました。
ちなみに、お酒の雑学については、独立行政法人酒類総合研究所の出しているこちらの新書本がオススメです。カラー刷りでお酒の製法、歴史等がコンパクトに学べます。
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元になった情報誌が、サイト上でPDF公開もされているようです。
税法と租税回避
ついでに、「租税回避」の概念をビールで説明しておきます。
ビールなのにビールじゃないと偽るのが「脱税」(違法)
ノンアルコールビールで我慢するのが「節税」(課税庁が想定した行為、合法)
開発費を投入し第3のビールを作るのが「租税回避」(異常又は変則的な態様を利用して課税要件の充足を免れる行為、脱法)
租税回避の正確な定義は、金子先生の『租税法』(第23版)を参照ください。
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