事前確定給与の届出期限、ネットの記事の多くが間違っている(税法上の日数の数え方)
「事前確定届出給与に関する届出書」を作ろうと思って、届出期限のところにいつの日付を書けばいいのか、わからなくなってこのページにいらっしゃった方、こんにちは。そして、おめでとうございます。あなたは正解にたどり着きました。
確かにこの届出期限、とてもわかりにくいのです。で、ネットでググってみるも、出てきたページの解説が堂々と間違っていることがあって、それはもう悲しいことになっています。
事前確定届出給与の届出期限を間違って理解してる人多すぎワロタ。ネットで出てくる税理士が解説してる記載例も間違いだらけです。
— Mark / まあく (@mark_temper) August 20, 2018
「総会決議の日から1月を経過する日」あなたは正しく答えられますか? pic.twitter.com/AUbuRltaof
この記事は2018年3月に書きかけたのですが、その後アップせずに放置していました。次に更新する予定の記事の説明の前提としてこの記事を出しておく必要が出てきたので急遽アップすることにしました。この記事は書きかけなので後ほど追記します。*1
目次
ネットの解説記事の大半が間違っている
冒頭の私のツイートで画像を載せた、届出書の記載例を解説したあるページでは、平成29年5月20日に株主総会の決議を行った場合の届出期限は平成29年6月19日と解説しています。しかし、これ間違っています。あるページではコメント欄に「間違いですよ」と指摘があって訂正されたそれが間違っているという、地獄のような光景でした。当該サイトの名誉のために直リンクは避けますが、税理士が名前を出して公開しているページでも間違っているものがあります。検索して上位に出てくるページの解説の多くに間違いが含まれています。(2018年8月現在)
事前確定届出給与の届出期限
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/201601h063.pdf
届出期限は届出書にも書いてあるのですが、こういった正確な定義を調べる際には、法律の条文の原文にあたるべきです。
事前確定届出給与は法人税法34条1項2号イに定められており、その届出期限は法人税法施行令69条4項1号に定められています。
(役員給与の損金不算入)
第三十四条 内国法人がその役員に対して支給する給与( 略 )のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 略
二 その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式( 略 )略……を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(略……次に掲げる場合に該当する場合にはそれぞれ次に定める要件を満たすものに限る。)
イ その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与(同族会社に該当しない内国法人が支給する給与で金銭によるものに限る。)以外の給与( 略 )である場合 政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること。
条文を大幅にカットしましたが、それでもまだ難解です。
法人税法施行令
(定期同額給与の範囲等)
第六十九条
4 法第三十四条第一項第二号イに規定する届出は、第一号に掲げる日(第二号に規定する臨時改定事由が生じた場合における同号の役員の職務についてした同号の定めの内容に関する届出については、次に掲げる日のうちいずれか遅い日。第七項において「届出期限」という。)までに、財務省令で定める事項を記載した書類をもつてしなければならない。
一 株主総会等の決議により法第三十四条第一項第二号の役員の職務につき同号の定めをした場合における当該決議をした日(同日がその職務の執行の開始の日後である場合にあつては、当該開始の日)から一月を経過する日(同日が当該開始の日の属する会計期間開始の日から四月( 略 )を経過する日(以下この号において「四月経過日等」という。)後である場合には当該四月経過日等とし、新たに設立した内国法人がその役員のその設立の時に開始する職務につき法第三十四条第一項第二号の定めをした場合にはその設立の日以後二月を経過する日とする。)
以上の条文をまとめると、届出書のこの表現になります。
イ 次のうちいずれか早い日
(イ)①②のいずれか早い日から一月を経過する日
①株主総会等の決議をした日
②職務執行開始の日
(ロ)職務執行開始の日の属する会計期間開始の日から四月を経過する日(四月経過日等)
ロ 設立の日以後二月を経過する日
問題は、それぞれの日が具体的にいつになるかですが、以下でそれを見て行きます。
日数の数え方は国税通則法に従う
税法で期間計算(日数の数え方)が出てきたら、その基準となるのは国税通則法10条です。
国税通則法
(期間の計算及び期限の特例)
第十条 国税に関する法律において日、月又は年をもつて定める期間の計算は、次に定めるところによる。
一 期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。
二 期間を定めるのに月又は年をもつてしたときは、暦に従う。
三 前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、最後の月にその応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
2 国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出、通知、納付又は徴収に関する期限(時をもつて定める期限その他の政令で定める期限を除く。)が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもつてその期限とみなす。
この解説としては、税大講本に目を通しておくべきです。税大講本は、国税庁の職員が研修で使用する教科書で国税庁のサイトで無料で公開されています。税理士試験のテキスト等もこれを参考にしています。
国税通則法(平成31年度(2019年度)版)の該当ページはこちらです。
この国税通則法10条は、民法138条から143条の規定をほぼ踏襲しています。一般法として民法は私法・公法を問わず広く適用され、他の法律に規定がない場合は民法の期間計算の方法が類推適用されるというのが通説です。*2
民法
(期間の計算の通則)
第百三十八条 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。(期間の起算)
第百三十九条 時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
(期間の満了)
第百四十一条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。第百四十二条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
(暦による期間の計算)
第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
このような法律の基本的な理解を深めるには、内閣法制局長官であられた林修三氏のこちらの本がとても参考になります。初版は1958年、私は2010年の第3版37刷を持っています。
- 作者: 林修三
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 1958/11/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 7人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
初日不算入の原則、「経過する日」と「経過した日」
初日不算入
期間計算で覚えておくべき最も重要なことが、「初日不算入の原則」です。ある日から日数を数えるとき、初日は算入しないで、翌日を起算日とします(国通10①一本文)。
1月1日から10日以内
初日算入
例外的に初日算入となる場合があり、「期間が午前0時から始まるとき」と言われているのですが、これよくわかりませんよね。午前0時から始まらない日があるのか、っていう(笑)。私の理解では、「AのBからC」と規定してある場合のBのことを言います。(AのBからC方式。今名付けました。)
終了の日(A)の翌日(B)から2月以内(C)(法法74①)
開始の日(A)以後6月を経過した日(B)から2月以内(C)(法法71①)
他に、初日を起算日とすると書いてあればその通り(初日算入)とします(国通10①一ただし書)。
督促状を発した日から起算して10日を経過した日(国通40)
「経過する日」と「経過した日」
期間が月又は年をもって定められているときは、暦に従って計算する(国通10①二)となっていますから、1月であれば1日に始まって31日に終わります。 4月であれば1日から30日です。
月初からでない場合は、翌月における起算日に応当する日(応当日)の前日をもって満了します(国通10①三)。4月3日から起算した場合、5月3日(応当日)の前日(5月2日)をもって1月となります。年の場合も同じです。
「経過する日」とは、期間の末日(満了日)のことを言い、「経過した日」とはその翌日(期間を超過した日)です。
2月16日から1月を経過する日
2月16日の1月後応当日である3月16日は、「経過した日」であり、その前日である3月15日が「経過する日」です。
問題
ここで問題。
国税通則法では日数計算を厳密に学習するのだけど、意外と混乱する。
— Mark / まあく (@mark_temper) March 24, 2018
では問題。次はそれぞれ何日のことか。全問正解できたらすごい。
①1月1日から10日を経過する日
②1月1日から起算して10日を経過する日
③1月1日の翌日から10日を経過する日
④1月1日の翌日から起算して10日を経過する日
これは日本語の常識で考えると間違えます。え?これとこれが何で同じ意味なの?と思いますよね。
正解はなんと、①③④が同じ日になり、11日。②のみ10日。
— Mark / まあく (@mark_temper) March 24, 2018
一応、根拠らしきものも貼っておく。 pic.twitter.com/HOsKKt4nmH
引用しているチャートは、上記の税大講本に収録されています。
ズバリ、事前確定届出給与の届出期限はいつ?
以上を踏まえて、具体的な事例に当てはめ、届出期限がいつになるか見ていきましょう。
設例は、以下の通りとします。
会計期間:平成31年4月1日~令和2年3月31日
株主総会決議日:令和1年5月25日
職務執行開始日:令和1年6月1日
(イ)①総会決議日と②職務執行開始日のいずれか早い日から一月を経過する日
①総会決議日と職務執行開始日のいずれか早い日は → 総会決議日=5月25日
②初日不算入により、起算日は → 5月26日
③5月26日の1月後応当日は → 6月26日
④その前日は → 6月25日
(ロ)職務執行開始の日の属する会計期間開始の日から四月を経過する日(四月経過日等)
①職務執行開始の日は → 令和1年6月1日
②令和1年6月1日の属する会計期間開始の日は → 平成31年4月1日
ここで先ほどと同じ考え方をすると間違います!ここは「AのBからC」方式です。
③初日算入により、起算日は → 平成31年4月1日
④平成31年4月1日の4月後応当日は → 令和1年8月1日
⑤その前日は → 令和1年7月31日
イ(イ)と(ロ)のいずれか早い日
(イ)令和1年6月25日、(ロ)令和1年7月31日より、届出期限は → 令和1年6月25日
届出書の記載例
以上が、正しい計算方法になりますが、ヒジョーーにややこしいですね。特に「総会決議日から1月を経過する日」が1月後応当日なのに、「会計期間開始日から4月を経過する日」が4月後応当日じゃないあたり、混乱を極めます。これは、法律上の期間計算の方法を完全に理解した上で条文を読んで、初めて理解できるのです。なので税理士でも間違える人が出てくるのでしょう。中途半端な知識のまま考えようとすると余計間違えます。まぁ、実務上は、期限に余裕を持って出せば何も問題ないですが、プロとしては正しく書いて出したいものです。
理屈はいいから手っ取り早く覚える方法だけ知りたいという方は、こちら。ザックリ言うと、総会決議日(又は職務執行開始日)に+1月、期首から4ヶ月目の末日、と覚えておけばよいことになります。
この記事は信用できるの?
ネットの解説記事は間違いだらけです。えっ、じゃあこの記事も間違っているかもしれない?私の上記の説明が正しいと言える根拠はあるのか、って?しょうがないですね。そういう不届きな方でも納得できるものをお見せしましょう。
国税庁が配布している「事前確定届出給与に関する届出書」の裏面の説明をご覧になりましたか?
ほら、ちゃんと書いてあるじゃないですか。