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水道料金は12月から消費税10%になる理由 明細に正しい税額が表示されない場合も

連日、消費税増税に関する話題が飛び込んできて、私の関心も奪われています。先日、家に届いた水道料金改定のお知らせを見ていたら、おや、と思うことが書いてありました。

目次

問題:9/25〜11/25に使用した水道料金の消費税率は?

さて、今回も問題からです。あなたはこの問題、わかりますか?



twitterでアンケートしてみたところ、270人ほどの回答は見事にばらけました。正解率は10%もないと思っていたので思ったよりも高いです。正解できた方は経過措置について相当勉強されていると思います。


正解は、、、「2/3が8%、1/3が10%」です。直感的には何とも理解し難いです。なぜこのようになるのでしょうか?


電気料金等の経過措置

消費税の原則では、資産の譲渡等を行った時期の税率が適用されます。本来は、9月中に役務提供を受けた電気、ガス、水道等については8%、10月以降に役務提供を受けた電気等については10%の税率が適用されることとなります。しかしながら、現実に、電気等の使用量というのは、月単位で正確に把握することができません。電力会社等から委託を受けた検針員が定期的に各家庭や事業所を回って、メーターの使用量を測定し、料金を確定させています。この方式では月末に一斉に各家庭の使用量を確定させることは困難ですから、月中の実際に検針を行った日を料金の確定日としています。電力会社等の収益認識もこの「検針日基準」で行っており、これは出荷基準や検収基準と同様に慣行として認められた合理的な基準であり、法人税法や消費税法通達にも記載があります。(法基通2-1-4、消基通9-1-2)


そして、電気料金等には税率引き上げに伴う経過措置が設けられていますが、これも上記実務慣行に対応させるためのものと考えられます。


即ち、平成31年10月1日前から継続して供給を受け、10月31日までの間に料金が確定する電気料金等は8%の税率となります。


 
では、水道料金のように、通常2ヶ月に1回検針を行うこととなっており、10月31日後に増税後最初の検針が行われる場合、税率はどうなるのでしょうか?それは以下の算式で計算することになっています。

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平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A【具体的事例編】 p.13

よって、問題の答えを図示すると次のようになります。

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9月25日から2ヶ月を経過する日は11月24日ですので、11月25日だと1日超えることとなり、分母が1月切り上げて3月と計算されます。よって3分の2が8%ということになります。検針日が1日早く11月24日になっていれば2分の2で全額8%となるところでした。*1


名古屋市水道局は12月分から増税後の新料金とすると発表

消費税の経過措置については見てきた通りですが、ところが、名古屋市水道局のお知らせでは、10月分でも11月分でもなく、12月分から増税後の新料金とすると記載されています。

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https://www.water.city.nagoya.jp/file/34802.pdf


「偶数月に検針にうかがうお客さま」は、「令和元年11月‐令和元年12月分のご使用量の半分が旧料金、残り半分が新料金となります。」となっています。これはどういうことでしょうか?


名古屋市水道局の決定の背景は、恐らくこういうことでしょう。消費税法上の正しい税額計算では、経過措置適用により、奇数月検針(10−11月分)(前回検針から2月を超えない場合)の11月分は8%、偶数月検針(11−12月分)の11月分は10%となります。11月分については8%の家庭と10%の家庭が混在することになりますが、これでは混乱を招く可能性があるので(消費税法は無視して、)一律に11月分までは8%、12月分から10%の料金で行きますよ、ということでしょう。


同様に12月分から新料金となる東京都水道局のサイトにわかりやすい図がありましたので引用します。

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消費税率改定に伴う料金改定| 東京都水道局

令和元年9月30日以前から水道・下水道を継続使用いただいている場合には、消費税法上の経過措置により、10月以降最初の検針で確定する料金については、旧税率8%が適用されます。
 しかしながら、都では、お客さまの公平性の観点から、条例に経過措置を設けて12月分の料金から新税率10%を適用することとしています。
 このため、下図の赤色の破線で囲った11月分の料金の税率について、消費税法と条例で異なることになります。

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東京都では、「お客さまの公平性の観点」と説明しています。上記図中の赤色で囲った部分(偶数月・毎月検針の11月分)は、本来であれば10%の税率が適用されるはずですが、8%の料金を適用するということです。
東京都でも消費税法を無視して、都条例で新税率を12月分から適用すると宣言しています。ただこれは、正確な表現ではないと思われます。条例が法律に反する規定を設けることはできないはずですので、都条例で制定するのはあくまで水道料金の改定についてでしょう。確認していませんが、経過措置の適用されない偶数月・毎月検針の11月分は、利用者から徴収する水道料金は8%ですが、都が納税する消費税は10%で計算する(差額は都が負担)と思われます。そしてこの措置がさらにややこしい事態を引き起こすことになります。

明細に正しい税額が表示されない場合も

名古屋市水道局のお知らせを見ると、実に恐ろしいことが書いてあります。10〜12月分を含む「水道ご使用量のお知らせ(検針票)」や領収書に記載された消費税額は、正しく表示されていない可能性があるのです。

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https://www.water.city.nagoya.jp/file/34811.pdf

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「水道ご使用量のお知らせ」の記載内容 | 名古屋市上下水道局

税務申告にあたり、水道代を経費とする場合には、明細に正しい税額が表示されないから自分で再計算してくれ、ということです。


例えば、11月-12月分の水道料金は、半分が旧料金、残り半分が新料金で計算され明細にも税額が記載されていますが、実際の税率は全額10%ですので10/110で電卓を叩き直してください、ということです。
13/163というケッタイな数字は、まさに冒頭の問題で取り上げた「2/3が8%、1/3が10%」の場合ですね。(8+8+10)/(108+108+110)=26/326=13/163ですね。


フローチャートを見て消費税額を再計算して、8%と10%に区分して仕訳を入力して、・・・って一体こんなの誰がやるんでしょうね?!ああ、また、消費税に対する怒りが爆発したところで、今回の記事もお開きです。皆様の健闘を祈ります。


*1:日数計算については国税通則法参照。