Markの資格Hack (税理士試験)

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「出題のポイント」から分かる法人税法歴代試験委員のやる気・力量

税理士試験「出題のポイント」について記事を2つ書いてきました。既に書いてきたように、国税徴収法は、ほぼ模範解答レベルの詳しい内容でしたが、科目・年によっては、問題文に書いてあることを繰り返しただけで何の参考にもならない代物であることもあります。文量や形式は試験委員の裁量に任されていると考えられ、力の入れようも当該の委員次第です。つまり、品質に非常にバラツキが見られます。今回はこれを問題にします。


法人税法の「出題のポイント」を遡って見ていたら大変興味深いものを見つけたのです。

目次

「出題のポイント」はいつから公開している?

昔は「出題のポイント」なんてものもなかったと聞きますが、いつから公開が始まったのでしょうか。最も古いものとして、平成14年度(第52回)のものがwebarhiveで確認できます。(ただし閲覧できたのは見出しのみ)

税理士試験情報|調達・その他の情報|国税庁

税理士試験情報|調達・その他の情報|国税庁


税理士試験についても定めている税理士法の改正が平成13年に行われ、平成14年4月1日から施行されました。タイミングが丁度一致するため、「出題のポイント」の公表も、この平成14年度が初めてだったのではないかと思われます。

国税審議会令の一部改正

税理士法改正に伴う国税審議会令及び国税審議会議事規則の一部改正|第3回 国税審議会 説明資料 目次|国税庁

第3回 国税審議会 議事録(2)

 ここで、その審議会令の改正の理由につきまして御説明申し上げます。
 まず、第二条の3項のところでございますけれども、改正前の「作成及び採点」というところを、「作成若しくは採点」に変更いたしております。今般の税理士法改正によりまして、一定の基準を満たす専門学校卒業者に対しまして受験資格を認めるなど、受験資格が緩和されております。これらに伴いまして受験者数が増加することが予想されておりますので、採点のみを行うための試験委員の任命を可能にいたしました。

 同じ3項でございますけれど、その後のところに「又は税理士法第七条第二項若しくは第三項に規定する認定のための審査」という文言が追加になっております。これも税理士法改正によりまして、税理士試験免除の一形態でございます修士学位による試験科目の免除規定に対しまして、提出された修士論文の研究内容が一定の学問領域、具体的には税法に属する科目又は会計学に属する科目等、そういった一定の学問領域に属するか否かを、この審議会において認定していただくということになりましたので、この認定を行う試験委員の任命根拠を設けております。

( 中略 )

 さらに、第三条の2項に、「実務経験のある者及び」というところが追加になっております。従来から懲戒審査委員の要件につきましては、実務経験のある者及び学識経験のある者と定められておりまして、試験委員の要件につきましても実態を踏まえまして懲戒審査委員の要件と平仄を合わせたという改正でございます。


第3回 国税審議会 議事録(2)|審議会・研究会等|国税庁

この改正に合わせ行われた国税審議会令の改正では、税理士試験の試験委員について、「学識経験のある者のうちから任命する」とされていたところに、「実務経験のある者」が加えられました。今は税法科目の計算問題を実務家(税理士)の試験委員が作成していますが、昔は試験委員は課税庁の職員だけだったと聞いています。慣例的に、法人税法・消費税法の実務家試験委員は、近畿税理士会の役員から選ばれているようです。

法人税法「出題のポイント」を分析する

ここからは、法人税法の「出題のポイント」を、計算問題の試験委員に着目して見ていきたいと思います。試験委員の情報は、本人の公開しているプロフィール、予備校の予想等を基にしています。最近の試験委員経験者から聞いたという複数の証言により、計算問題の作成・採点を実務家委員が担当しているという前提によります。


(引用部分の強調表示は筆者による。)


1999-2001 (H11-13) 宮口定雄

試験委員

宮口 定雄(みやぐち さだお)

昭和16年        大阪市生まれ
昭和39年        関西学院大学商学部卒業
昭和44年        税理士登録 近畿税理士会会長、日本税理士会連合会副会長などを歴任
平成11年度・平成12年度 ・平成13年度 税理士試験委員
平成16年        黄綬褒章受章
平成23年        旭日小綬章受章  
平成26年12月      逝去      

税務ハンドブックのコントロール社−著者について

僕、税理士が好きなんです
相間 宏章, 秦 雅彦, 榮村 聡二
清文社 ( 2017-07-10 )
ISBN: 9784433638276

この本は、宮口定雄先生の発言の口述筆記で書かれています。税理士制度、近畿税理士会の内部事情を調べるのにいい資料です。この本は、後日記事にする予定です。


2002-2004 (H14-16)  杉田宗久

試験委員

杉田 宗久(すぎた むねひさ)

昭和30年2月 大阪府富田林市に生まれる
昭和48年3月 大阪府立天王寺高校卒業
昭和52年3月 京都大学経済学部卒業
昭和52年4月 帝人株式会社入社
平成1年5月 税理士登録
平成2年4月 大阪市西区に税理士杉田宗久事務所開設
平成11年9月 日本税理士会連合会税制審議会専門委員
平成14年1月 税理士試験試験委員(平成14~16年度)
平成15年7月 近畿税理士会常務理事
平成15年7月 日本税理士会連合会常務理事 調査研究部長
平成21年7月 近畿税理士会専務理事
平成25年7月 近畿税理士会副会長
平成27年8月 日本税理士会連合会専務理事


杉田宗久税理士事務所 所長紹介

平成15年度(第53回)

[第二問]

 次の事項を中心に申告書別表を作成させ実務能力を問う。ポイントは次のとおり。

(1) 前期の修正申告と当期におけるその受入れ処理

(2) 収用の代替資産を二事業年度にわたり取得する場合の圧縮記帳と圧縮特別勘定の処理

(3) 税務上売買とされるリース取引の処理

(4) 使用人兼務役員・みなし役員の判定と過大役員報酬・役員賞与の損金不算入

(5) 受取配当等の益金不算入と所得税額控除の基本的な処理

(6) 固定資産の取得価額に算入された交際費等の処理

(7) 償却の方法を、定率法から定額法へ変更した場合の処理

(8) リース税額控除の基本的な計算

(9) 寄附金の損金不算入額の基本的な計算

(10) 利益積立金額の計算明細書の作成


所得税法 出題のポイント|平成15年度(第53回)税理士試験出題のポイント|国税庁

問題で問うた論点を列挙しただけですので、あまり有益な情報はありません。


平成16年度(第54回)

〔第二問〕

 法人税の課税所得は、企業会計における純利益を基礎として、これに法人税法等に定める「別段の定め」による調整を加えて計算することとされており、また、各事業年度の課税所得のうち留保される金額は利益積立金額となることから、「別段の定め」による調整額に基づき利益積立金額も変動することとなる。したがって、法人税の課税所得及び利益積立金額を正しく計算するためには、「別段の定め」を正確に理解しておく必要がある。
 そこで、本問は、法人の確定した決算に基づき、申告書別表一(一)(法人税額の計算)及び別表五(一)(利益積立金額の計算に関する明細書)を作成させることにより、法人税法を総合的に理解しているかどうかを問うものである。主なポイントは次のとおり。

(1) 法人税、地方税等の租税公課の処理は適正に行われているか。

(2) 退職給与引当金の取崩しに伴う益金算入額の計算が正しく行われているか。

(3) 貸倒引当金の繰入れに伴う損金算入額は正確に計算されているか。

(4) 減価償却資産の償却限度額等の計算が正しく行われているか(中小企業者等の機械等を取得した場合の特別償却の計算を含む。)。

(5) 特定の資産の買換えを行った場合及び国庫補助金等で固定資産を取得した場合の圧縮記帳の計算が正しく行われているか。

(6) 有価証券の譲渡損益やデリバティブ取引の期末評価損益の処理が適正に行われているか。

(7) 広告宣伝用資産を贈与したことにより生ずる費用は繰延資産に該当することを理解しているか。

(8) 利子配当等の所得税額控除の計算が正しく行われているか。

(9) 試験研究費の額が増加した場合等の税額控除の計算が正しく行われているか。

(10) 情報通信機器等を取得した場合の税額控除の計算が正しく行われているか。


出題のポイント|平成16年度(第54回)税理士試験出題のポイント|国税庁

前年に比べ、より具体的に、総合問題の方向性が示されました。


2005-2007 (H17-19)  植田卓

試験委員

植田 卓(うえだ たかし)

平成11~13年 日本税理士会連合会常務理事制度部長、平成13~15年 日本税理士会連合会常務理事調査研究部長、平成9~11年 近畿税理士会常務理事研修部長、平成11~15年 近畿税理士会常務理事調査研究部長、第55~57回(平成17~19年度)税理士試験・試験委員などを歴任。
平成19年3月立命館大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得。
現在、近畿税理士会税務審理室審理員を務めるほか、日本税法学会、税務会計研究学会、租税訴訟学会の各学会に加入。平成28年より立命館大学法学部客員教授。

植田 卓|税務システム研究会|セミナー&研修会|株式会社ミロク情報サービス

中小会社の会計基準と税務
植田 卓, 藤井 明, 佐藤 裕之, 上西 左大信, 西口 安雄, 三浦 正人, 堤 昌彦, 石原 健次, 中島 嘉文
清文社 ( 2003-07 )
ISBN: 9784433257231

この本の著者には、歴代の試験委員が名を連ねています。

平成17年度(第55回)

〔第二問〕

【基本方針について】

 税理士には、法令が規定している本質を理解する能力と、事実関係を分析していく能力と、課税関係を総合的に確認していく能力とが要求されている。
 そのためには、法人税法等の条文をよく読むことが必要であり、課税関係の判断に必要なデータを自分で探し出す努力が必要であり、法令が具体的に適用されていくプロセスを重視する姿勢が必要である。
 そこで今回の設問は、以下のような方針のもとに作問した。

1 全体として、まず資料を一通り読みこなした上で、その中から課税所得の把握と税額の計算に必要な事項を抽出していく過程を重視した。

2 基本的な法令の理解やその解釈を問う比重を高めた総合問題として構成した。

3 処理すべき項目や計算量を少なくし、考えるための時間を確保した。



【具体的な設問内容について】

1 法人税法の出題範囲は「租税特別措置法、国税通則法など当該科目に関連する他の法令に定める関係事項を含む。」とされ、特に国税通則法は、各税法に共通して基礎となる事項を定めた法律であることから、「納税義務の成立」「税額の確定」「納付義務の承継」についての確認を行った。

2 事業年度が1年未満になるケースは、設立、解散、事業年度の変更、組織再編、連結納税の適用など、実務面では決して少なくない。また、課税所得や税額の計算に関して、月数は重要なファクターを占めていることから、その理解についての確認を行ったものである。

3 適格合併に該当するのかどうか、減価償却資産の事業の用に供した日はいつか、仮払交際費は交際費課税の対象になるのかどうか、未払役員退職金は損金の額に算入されるのかどうか等の設問は、具体的な事例に対する法人税法の適用関係について、その理解と応用とを問うたものである。

4 税理士は、通常では予期しないような事案にも専門家としての対応が求められ、特に、法人税法第22条における益金の額と損金の額の本質的な理解は重要である。また、過去の重要な判例等についての知識も必要である。過年度電力料金の返還は、このような観点から問うたものである。

5 組織再編については、適格・非適格をはじめ、法人税法がどのようなプロセスを念頭に置いて規定しているのかの理解が必要である。そこで、法人税法の観点から見た合併仕訳と解散仕訳を問うことにより、その確認を行ったものである。


出題のポイント|平成17年度(第55回)税理士試験出題のポイント|国税庁

全ての試験委員にとってお手本となる「出題のポイント」

近年の簡素な「出題のポイント」しか知りませんでしたから、これを初めて見たときには驚きました。植田先生は、相当な意気込みを持って問題の作成に当たられたのではないかと思わされれます。
まず、基本方針として、税理士とは、から入ります。そして、受験生がどのように問題を解くべきか、道筋を示してくださっています。問題を通して受験生とコミュニケーションを取ろうとしている姿勢が感じられます。中でも基本方針3に、「処理すべき項目や計算量を少なくし、考えるための時間を確保した。」としているのは、非常に重要なことだと思います。いたずらに量を与えて単純な処理能力の優劣で決まる問題でなく、じっくりと考えさせ法令の応用能力を有しているかを判定する問題を志向しています。これは、法人税法に留まらず、全ての税理士試験科目の試験委員が根底に持っておくべき理念として共有されているべきだと考えます。
また、法人税法の出題範囲を確認し、国税通則法からアプローチしたことは、植田先生が基本に忠実にあろうとし、問題作成に真摯に向き合ったことがわかります。


平成18年度(第56回)

〔第二問〕

【基本方針について】

 税理士の使命を規定する税理士法第1条は、「税理士は税務に関する専門家として」で始まっているように、税理士は、税務すなわち税の実務に関する専門家として法的に位置付けられている。
 したがって税理士は、実務に直面する上において、法令が規定している本質を理解する能力と、事実関係を分析していく能力と、課税関係を総合的に積み上げていく能力とが要求されている。
 そのためには、法人税法等の条文をよく読むことが必要であり、課税関係の判断に必要なデータを自分で探し出す努力が必要であり、法令が具体的に適用されていくプロセスを重視する姿勢が必要であることから、以下のような方針のもとに作問した。

1 全体として、まず資料を一通り読みこなした上で、その中から課税所得の把握と税額の計算に必要な事項を抽出していく過程を重視した。

2 基本的な法令の理解やその解釈についての比重を高めた総合問題として構成した。

3 処理すべき項目や計算量を少なくし、考えるための時間を確保した。



【具体的な設問内容について】

1 法人税法のもっとも基本となるべき規定は、法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)各項の規定であり、法人税法の考え方はこの規定に集約されているといっても過言ではない。今回は、このうち第2項に規定する益金の額の範囲について、その理解の確認を行った。

2 法人税法上、損金の額に算入するものについては、損金経理を要件とするものが少なくない。今回は精算表の作成を通じ、損金経理を要件とするものについては、確定した決算において費用または損失として経理したかどうかの確認を行った。

3 課税要件に該当するかどうかの判定時期は、必ずしも事業年度末とは限らず、その行為や事実があった時点で判定しなければならない場合もある。そのためには、事実関係を時系列に把握し、四次元的な視点で捉えることが必要である。今回の問題では、Aを中心とする株主グループとBを中心とする株主グループとは、もともと親族関係を異にする別グループであったが、事業年度途中において双方の関係者が結婚したために同一のグループとなった事例であり、そのことが、あらゆる面での判定に影響を与えていることの理解を問うたものである。

4 税制は毎年改正されるため、税理士は常に知識を更新し続けなければならない。平成18年度の改正は、個人事業的な色彩の強い同族会社に対して適用される事項が特に多く、今回は、このような法人を設問の対象に選び、その確認を行ったものである。

5 税理士は過去の重要な判例等についての知識も必要であるが、税制改正によって、その位置付けが変化することにも留意する必要がある。現物の給付による退職金の処理については、損金経理要件をめぐる最高裁判例があるが、平成18年度改正を踏まえた上での理解を問うたものである。


出題のポイント|平成18年度(第56回)税理士試験出題のポイント|国税庁

前年からさらに発展させ、税理士法1条から入ってきました。単なる問題解説の域を超え、税理士たるもの・・・と説いていく様は、やり過ぎな感すらありますが、重要なことを伝えています。「事業年度途中において双方の関係者が結婚した」株主グループの事例とは、聞くからに複雑そうですが、四次元的な視点で捉えるとは、高度なことを仰います。

平成19年度(第57回)

〔第二問〕

【基本方針について】
 税理士の使命を規定する税理士法第1条は、「税理士は税務に関する専門家として」で始まっているように、税理士は、税務すなわち税の実務に関する専門家として法的に位置付けられている。
 したがって税理士は、実務に直面する上において、法令が規定している本質を理解する能力と、事実関係を分析していく能力と、課税関係を総合的に積み上げていく能力とが要求されている。
 そのためには、法人税法等の条文をよく読むことが必要であり、課税関係の判断に必要なデータを自分で探し出す努力が必要であり、法令が具体的に適用されていくプロセスを重視する姿勢が必要であることから、以下のような方針のもとに作問した。

1 全体として、まず資料を一通り読みこなした上で、その中から課税所得の把握と税額の計算に必要な事項を抽出していく過程を重視した。

2 基本的な法令の理解やその解釈についての比重を高めた総合問題として構成した。

3 法令の条文を資料として提供し、その読解によって解答を導き出す方法も採用した。

4 処理すべき項目や計算量を少なくし、考えるための時間を確保した。



【具体的な設問内容について】

1 法人税は、事業年度ごとに税額を求めることから、収益及び費用の帰属事業年度が重要なポイントとなり、その原則と特例とを基本的に理解していることが求められる。今回は、工事の請負に関する収益及び費用の特例と、課税の繰延べである圧縮記帳を通じて、その確認を行った。

2 法人税法における資本は、株主等が実際に払い込んだ資本金等の額と、過去の所得を原資とする利益積立金額とから構成される。また、会社法も、資本取引と損益取引との区分を、従来の商法よりも厳格にしている。しかし、法人税法と会社法とでは、その考え方が必ずしも一致しているわけではない。今回は、減資による資本の払戻しを行った場合について、その処理の確認を行った。

3 資本金等の額に関する法人税法の規定は複雑であり、条文の読解力と応用力とが必要とされることから、上記?の設問では、資本金等の額に関する法令の条文を資料として提供した上で、設問に示された事実関係と法令の規定とを、具体的に関連付けて解答することを求めた。

4 税制は毎年改正されるため、税理士は常に知識を更新し続けなければならない。今回も、減価償却に関する制度が大きく改正されたことから、その理解についての確認を行った。

5 税理士は、常に基本的な視点に立って考えることが重要である。例えば、契約を履行した後に相手方から値引きを要求された場合、それは、合理的な理由による契約金額の変更なのか、それとも、相手方への利益の供与なのかを、整理して検討することが必要である。また、このような事案について、値引きを寄附金として認定した判決もあるなど、過去の重要な判例等についての知識も備えておく必要がある。


出題のポイント|平成19年度(第57回)税理士試験出題のポイント|国税庁

植田先生の意欲的な姿勢は3年目にして止まらず、「法令の条文を資料として提供し、その読解によって解答を導き出す方法も採用」しました。単に暗記したものを吐き出すのでなく、未知のものに対しても読解力と応用力を発揮することを求めていることがわかります。


2008-2010 (H20-22)  山田俊一

試験委員

山田 俊一(やまだ しゅんいち)

1947年 京都市生まれ
1972年 中央大学卒業
1982年から税理士業務の傍ら、東京地方税理士会や日本税理士会連合会で、専門家責任、租税裁判を巡る業際問題、中小企業会計指針の作成などの会務に携わりつつ、租税法と家族法の接点に関心を持ち、1993年から1995年に横浜国立大学国際経済法学研究科で租税法、2002年から2008年には成城大学法学研究科博士後期課程で家族法の研究を行う。
2008年〜2010年 税理士試験委員
現在は、同じフロアに弁護士、司法書士、税理士が揃ってワンストップサービスを提供する事務所の代表税理士、早稲田大学法科大学院での租税法講師、東京地方税理士会税法研究所主任研究員、横浜商工会議所税制改正要望委員会委員などを務めている。

ぎょうせいオンライン / 税理士実務必携 難問事案のさばき方

珍しく、近畿税理士会所属ではない先生です。法科大学院で租税法を教えてもおり、判例好きの先生として知られていました。私も山田先生の講演を聞く機会がありましたが、税法を習得するには論理構成を理解することが重要だと仰っていました。答案作成は綺麗に丁寧に、と呼びかけていらっしゃったのも印象的です。採点上も結論を導く過程を重視していたのではないかと言われています。

平成20年度(第58回)

〔第二問〕
〔基本方針について〕

与えられた数値に基づいて計算問題を解く技術だけでなく、提示された資料から事実を読み取り、その検証をして合理的な決算を確定するとともに、法人税法等の規定に事実関係を当てはめて正しい申告調整を行う能力を有するかどうかを試す問題とする。したがって、単に知識があるかどうかではなく、確定決算のベースとなる企業会計への正確な理解と法人税法等の的確な解釈など、専門家として備えておくべき法的な素養が試される。



〔個別の項目について〕

(1) 同族会社に当たるかどうかは、みなし役員の判定や事前確定届出給与に関する届出の提出の要否を判断する基礎となることから、同族会社判定の裏付けとなる知識とその理解を試すこととした。なお、会社法により種類株式の発行が認められていることに法人税法も対応しており、本問では、無議決権株式を発行している会社の同族判定を株式数と議決権数で行えるかどうかの確認を行った。

(2) 法人税法の最も基本となる第22条の規定に関し、無償による資産の譲受けによる益金の額とその修正である損金の額の認識について試すこととした。既に確定した判決により、遺贈について減殺請求があった場合は、具体的に価額弁償額が決定されて受贈益の減少があった時の損金の額に算入することとされている。本問では、このような基礎的な法的素養と、土地を有する代表者及び法人間でよく見られる形態である、相当地代方式の賃貸借に係る法人税法上の取扱いの理解を問うこととした。

(3) 平成14年度の法人税法改正により退職給与引当金制度が廃止され、繰入額の損金算入を認めず、資本金1億円以下の法人については退職給与引当金残高の10年間にわたる取崩しを求めている。他方、企業会計では退職給付に係る会計基準が定められており、将来の給付額を認識して貸借対照表に計上することとされている。本問では、この税法と企業会計との調整と、実際の退職給付支出についての損金の認識を試すこととした。

(4) 収益及び費用の認識と計算について生じた誤りは、企業会計及び法人税の計算上で是正する必要がある。企業会計で過年度に計上した収益に誤りがある場合には、法人税の計算上、是正すべき事業年度は当期あるいは過年度のいずれか、是正の方法などをどのようにするかという理解を試すこととした。

(5) 平成19年度税制改正により、減価償却資産に対して行った資本的支出の取得価額及び所有権移転外リース取引により賃借人が取得したものとされるリース資産の償却について、新たな規定が設けられた。税理士は常に新しい税制に通じていることが求められ、これらの改正内容についても十分理解している必要がある。また、リース資産については企業会計と法人税法の取扱いが異なる場合があり、本問ではその調整に関する理解を試すこととした。


法人税法|平成20年度(第58回)税理士試験出題のポイント|国税庁

植田委員からの流れを受け、最初に基本方針を示しています。個別の問いについて、なぜそれを出題したかの趣旨を述べるとともに、解答から何を見ようとしているか論点を説明しています。


平成21年度(第59回)

〔第二問〕

 法人税の申告に際し、法人税法等の的確な解釈と判断の下、当該事業年度に企業が行った取引等の事実関係を法令等の規定に当てはめ、適切な計算を行い、申告調整を正しく実施する能力を有するかどうかを試す問題とする。特に、我が国企業を取り巻く経済情勢や国際化の進展を踏まえ、企業再生や国際間の資本政策に対応した法人税法等の規定が正しく理解されているかどうかの問いかけを行っている。

    
〔個別の項目について〕

(1) 会計上、その他有価証券については、期末に時価評価を行い、評価差額を洗替方式に基づき、純資産に直入する処理を行うこととされている。更に、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければならないこととされている。他方、法人税法上は、資産の評価損は原則として損金の額に算入されないが、上場有価証券の価額が著しく低下した場合、すなわち、期末時の価額が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合には、評価損を損金の額に算入することが可能となっている。設問では上場有価証券4銘柄について、具体的な数値を与え、法令等への当てはめの能力を試している。

(2) 会計上、期間損益計算の立場から、営業債権の回収リスクについては貸倒引当金を設定することとされており、法人税法においても、一定の繰入限度額に達するまでの金額の損金算入が認められている。設問では、会計上の繰入れ及び戻入れの経理処理に関する基本的な理解に加え、債務者企業に民事再生法が適用された企業再生において、その有する金銭債権の一部が切り捨てられ、一部の弁済が猶予あるいは賦払によりなされる場合の当該金銭債権の法的な取扱いが正しく理解されているかどうかを試している。

(3) 法人税法上、長期大規模工事の請負については、工事進行基準の方法により計算した各事業年度の収益の額及び費用の額を益金の額及び損金の額に算入しなければならないこととされている。他方、平成19年12月に公表された「工事契約に関する会計基準」では、その進捗部分について成果の確実性が認められる工事の場合には工事進行基準を適用し、それ以外の工事の場合には工事完成基準を適用することとされている。この会計基準を踏まえ、平成20年度税制改正において、本制度の適用対象にソフトウエアの開発の請負が追加されるとともに、長期大規模工事の範囲が拡大されるなどの整備が行われた。設問では、これらの改正事項を理解した上で、工事進行基準の方法により収益の額及び費用の額が正しく計算されるかどうかという基本的な知識を試すこととしている。

(4) 景気の悪化等の局面において、役員給与を減額する企業が多く見られる。このように、役員給与は経済情勢の変化の影響を受ける会社経営の重要な費用項目であるが、法人税法上は、一定の事由により定期給与の額を改定した場合に限り、損金算入の対象としている。どのような事情があれば損金算入の対象となる「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」(業績悪化改定事由)に該当するのか、事実の認定と法令等への当てはめ能力を試すこととしている。

(5) 我が国の資本政策上の観点から、海外子会社利益の国内還流に向けた環境整備のため、平成21年税制改正において、外国子会社配当益金不算入制度が導入された。設問では、この制度の基本的な知識を試している。また、在外支店の活動に対して外国で課された租税について、二重課税を排除する仕組みの理解についても問うこととしている。


法人税法|平成21年度(第59回)税理士試験出題のポイント|国税庁

基本方針の言葉はなくなりましたが、山田委員が試験問題を通して問おうとしていることが何であるかが伝わってきます。最新の税制改正に対応した知識を有していることは勿論、事実の法令等への当てはめができるかを見ようとしていることがわかります。


平成22年度(第60回)

〔第二問〕

 企業が行う経済活動や企業が社会経済情勢から受ける影響に対して、法人税法等の規定をどのように当てはめるかを問うものとし、正確な計算と適切な申告調整を行って、課税標準である所得金額及び納付すべき法人税額を算出する能力を試す問題である。
 化学薬品及び食品の製造販売業を営む資本金1億円の内国法人を例にして、次に挙げる8項目を出題した。


1 平成21年度税制改正により、中小企業者等がその不適用措置の対象から除外された欠損金の繰戻しによる還付請求制度の適用による法人税の還付金額、繰り越された欠損金の取扱い
2 企業の研究開発活動を税制面から支援するために、平成21年6月の経済危機対策関係の税制改正により拡充された試験研究費に係る法人税額の特別控除制度への当てはめ、控除税額の算出
3 社員の不法行為に伴って生じた損失と、社員に対する損害賠償請求権の取扱い
4 役員が監督責任を問われて、その職務内容に変更があった場合の役員給与の取扱い
5 企業の行う事業関係者に対する接待、供応などに要する費用の取扱い
6 固定資産の有姿除却の取扱い、企業会計における減価償却費の額と法人税法における償却限度額の調整
7 企業再生に伴って株主の責任を問われたことにより、有価証券が消却された場合の取扱い
8・9 資本関係のある法人に対する固定資産の移転損益の取扱い


 以上いずれも単純な計算問題ではなく、問題に記載した事項に基づいて事実関係を読み取り、それに即した解釈と判断を要する。したがって、法人税法のみならず、益金及び損金算入に関する基礎的な企業会計や関連する法規を含む幅広い知識を試している。
  なお、事実関係の読み取りとそれに即した解釈・判断を問うことに主眼を置いた問題とするため、計算書類等を省略して、所得金額と納付すべき法人税額の計算に必要な資料のみを与えている。また、解答に当たり、判断の根拠と計算の過程の記述を求めることとしている。


法人税法|平成22年度(第60回)税理士試験出題のポイント|国税庁

2011-2013 (H23-25) 上西左大信

試験委員

上西 左大信(うえにし さだいじん)

1957年大阪市生まれ
80年京都大学経済学部卒業
上西左大信税理士事務所所長、税理士、米国公認会計士
日本税理士会連合会・調査研究部部長、同・税制審議会専門委員、政府税制調査会特別委員、法制審議会民法(相続関係)部会委員、償却資産課税のあり方に関する調査研究委員会委員(以上、現任)、事業承継協議会・相続関連事業承継法制等検討委員会委員、政府税制調査会・専門家委員会特別委員、税理士試験(第61回・第62回・第63回)試験委員、中小企業政策審議会臨時委員


上西左大信プロフィール | 松下政経塾

経営に役立つ中小企業会計要領の実務対応
永橋 利志, 友松 悦子, 藤田 隆大, 近江 清秀
ぎょうせい ( 2012-11-30 )
ISBN: 9784324094969

監修が左大信先生、共著者に次の試験委員の名前も登場します。


平成23年度(第61回)

〔第二問〕

〔基本方針〕

 法人税の申告実務を行うに際して必要となる基礎的な事項を中心に作問した。
 内国法人は、確定した決算に基づいて申告書を作成しなければならない。その申告書の作成は、会計上適正な計算書類の作成と並行して行われるのが通例である。その観点から、申告調整と同時に行われる決算修正事項も重視した。また、会社法及び隣接する税目と関係する事項も問題に取り入れた。


〔個別項目〕

1 減資
 無償減資を題材に、減資の法人税法上の取扱い、減資法人の処理、親法人の処理及び関連する中小企業税制について幅広く問うものである。

2 完全支配関係がある法人間の取引
 土地の売買を題材に、完全支配関係がある法人間の取引を問うものである。併せて、実務上必要となる法人税法上の手続や留意事項も問題に含めた。

3 交際費等及び寄附金
 交際費等及び寄附金は法人税実務に必須の項目であることから、法人税申告書別表の形式での解答を求めた。また、二重課税となっている状態の解消についての基本的な考え方も質問項目とした。

4 控除対象外消費税額等
 法人が消費税について税抜経理方式を採用している場合において、消費税の課税売上割合が95%未満であるときは、控除対象外消費税額等(仕入税額控除ができない仮払消費税等の額)が生じる。この控除対象外消費税額等の法人税法上の取扱いを問うものである。

5 「法人税、住民税及び事業税」及び租税公課
 「中小企業の会計に関する指針」に基づいた処理を題材にして、法人税申告書別表五(二)の基本的な構造を理解しているかどうかを問うものである。

6 貸倒引当金、減価償却
 事業年度をまたがる事例を題材にして、貸倒引当金の繰入限度額及び減価償却費の償却限度額の計算に関する基礎的な知識を問うものである。


法人税法|平成23年度(第61回)税理士試験出題のポイント|国税庁

平成24年度(第62回)

〔第二問〕
〔基本方針〕

 法人税の申告実務を行うに際して必要となる基礎的な事項を中心に作問した。
 内国法人は、確定した決算に基づいて申告書を作成しなければならない。その申告書の作成は、会計上の適正な計算書類の作成と並行して行われるのが通例である。その観点から、会計上の仕訳と申告調整との関係も重視した。


〔個別項目〕

1 自己株式の取得等
 自己株式の取得等を題材に、取得した法人における会計上及び税務上の処理並びに譲渡した法人における税務上の処理を問うものである。

2 完全支配関係のある法人間の取引
 完全支配関係のある法人間における資産の移転を題材に、取引の形式ごとに異なる会計上及び税務上の処理を問うものである。

3 役員給与
 事業年度の中途において役員に就任した者に対して支給される役員給与の額が損金の額に算入されるために必要な手続を問うものである。

4 交際費等及び寄附金
 交際費等及び寄附金は、法人税実務に必須の項目であることから、法人税申告書別表の形式での解答を求めた。また、寄附金については、その種類・区分ごとの損金算入限度額の概要と寄附金に該当しない場合のその理由も質問項目とした。

5 リース取引
 所有権移転リース取引と所有権移転外リース取引の区別及びリース資産に係る償却限度額等の計算に関する基礎的な知識を問うものである。

6 有価証券と受取配当
 有価証券の期末評価及び受取配当等の益金不算入額の計算に関する基礎的な知識を問うものである。併せて、受取配当の処理に係る複数の方法について、それぞれの計算構造を理解しているかどうかも問題に取り入れた。


法人税法|平成26年度(第64回)税理士試験出題のポイント|国税庁

平成25年度(第63回)

〔第二問〕

 法人税の申告実務を行うに際して必要となる基礎的な事項を中心に作問した。
 内国法人は、確定した決算に基づいて申告書を作成しなければならない。その申告書の作成は、会計上の適正な計算書類の作成と並行して行われるのが通例である。その観点から、会計上の仕訳と申告調整との関係も重視した。


〔個別項目〕

1 株式の発行法人への譲渡等
 株式を発行した法人への株式譲渡等を題材に、譲渡した法人における税務上の処理を問うほか、資本準備金等の資本金への組入れがあった場合における会計上及び税務上の処理を問うている。

2 欠損金の繰戻し還付請求
 欠損金の繰戻し還付請求の手続き、適用要件などを問うものである。

3 試験研究費の税額控除
 試験研究費の税額控除について、その適用条件、具体的計算方法を問うほか、当初申告要件及び適用限度額制限に関する基礎的な知識を問うものである。

4 貸倒引当金等
 金銭債権がどのような状態にある場合に、貸倒引当金を繰り入れ又は貸倒れ処理できるか、実務上、必要な知識を問うものである。

5 特定事業用資産の買換え特例
 本特例の適用要件のほか、具体的な圧縮限度額の計算、会計処理方式の違いに応じて異なる税務調整の方式などの知識を問うものである。


法人税法|平成25年度(第63回)税理士試験出題のポイント|国税庁

2014-2016 (H26-28) 永橋利志

試験委員

永橋 利志(ながはし さとし)

昭和59年関西学院大学商学部卒業。平成12年永橋利志税理士事務所開設。現在、近畿税理士会常務理事調査研究部長、日本税理士会連合会理事調査研究部副部長、日本税理士会連合会中小企業会計研究会委員

法人税の試験委員として、とても有名になった永橋先生ですが、あまり情報は多くありません。前述の共著以外に単著が一冊。

平成26年度(第64回)

〔第二問〕

問1

 本問は、日常業務の中で取り扱う基本的な項目について、与えられた資料から、的確に判断し、かつ、正確に処理することができるかどうかを問うものである。
 特に、法人税は、企業会計上の利益(損失)を基に課税所得金額(欠損金額)を求めることが前提となっているので、法人が作成した計算書類に示されている金額等をどのように読み解くかが解答のポイントとなる。


問2

 本問は、三角合併において、合併法人が所有する親法人株式数が、対応すべき株式数に満たない場合の処理を問うものである。
 なお、本問合併が適格合併であるための要件の記述については、適格組織再編の基本的な3要件及び被合併法人の株主に対する対価の支払い方法について、簡潔にまとめたいところである。


法人税法|平成26年度(第64回)税理士試験出題のポイント|国税庁

永橋委員になって、一気に簡素化されました。まず、作問の基本方針のようなものがなく「的確に判断し、かつ、正確に処理することができるか」など抽象的で当たり前のことしか書いてありません。具体的に説明されている個別論点も少ないです。解答用紙の形式が独特で、幅広い記述が可能だったにも関わらず、答案作成上何を重視しているのか、読み取るのが難しかったようです。この回の問題に対する評判は非常に悪いです。

どうやら、受験生にとっては阿鼻叫喚の問題だったようで・・・。新しい試験委員の1年目というのは難しいものだなぁと改めて感じました。解答用紙が独特で、各科目について計算過程を示したうえで加算・減算・あるいは調整不要の理由などを回答欄に記載させた上、別表四の作成も要求。どこまで書いたらいいのかすごくわかりづらいフォームだったと思います。さらに問題文も資料が非常に読み取りづらかったようですね。


第64回税理士試験雑感その2 | これでも税理士ですの

平成27年度(第65回)

〔第二問〕

 本問は、平成27年度以降に取扱いが変わる繰越欠損金や受取配当等の益金不算入(控除負債利子の取扱いを含む)等、法人税の実務において頻出する論点を中心に基本的な理解ができているかを問うものである。
 また、過年度の税務調査に係る修正処理による当期の課税所得に与える影響や、消費税を税抜経理としている法人に係る別表四及び別表五の申告調整処理が適正にできるか、さらに償却超過に係る前期及び当期の処理については確実に得点したいところである。


法人税法|平成27年度(第65回)税理士試験出題のポイント|国税庁

説明内容がさらに簡素化されました。

平成28年度(第66回)

〔第二問〕

 本問は、近時の改正項目を含めた法人税実務において頻出する基本的な処理を問うものである。
 諸税の納付状況の別表からの読み取り、中古資産に係る修繕費の取扱い、貸倒引当金の個別評価と一括評価のそれぞれの損金算入限度額の計算、受取配当金の益金不算入処理等正確な計算処理が求められる。
 また、完全親子会社間の取引についても基本的な処理を求めるものである。


法人税法|平成28年度(第66回)税理士試験出題のポイント|国税庁


「正確な計算処理が求められる」として挙げられた論点について、問題中に矛盾した資料がある等、試験問題として破綻していました。問題を作りっぱなし、書きっぱなしで、自ら検証もしていないのではないでしょうか。「出題のポイント」が公表されても正解が何であるかわからないという、委員の無責任さが全体に滲み出ています。

2017- (H29-) 近藤雅人

試験委員

近藤 雅人(こんどう まさと)

昭和37年生まれ。昭和60年、立命館大学産業社会学部卒業。平成11年、税理士登録・開業。平成15年7月〜平成19年6月、近畿税理士会調査研究部員。平成19年7月〜平成23年6月、同副部長。平成23年7月〜平成25年6月、同会研修部副部長を経て、現在、日本税理士会連合会理事、調査研究部副部長、税制審議会専門委員、近畿税理士会常務理事、調査研究部長、同税務審理員、同志社大学法学研究科講師。

ぎょうせいオンライン / 必要経費判定事典[改訂版]

新任の近藤雅人先生は、左大信先生との共著のプロフィールを見ると、昭和60年から平成4年まで滋賀県警察官という異色の経歴。出向がないのを見るとキャリア官僚ではなさそうです。国税庁サイトに掲載された税務訴訟資料に、近江八幡税務署長を相手にした、所得税更正請求に対する通知処分取消請求控訴事件の補佐人税理士として、名前が登場するのも興味深いです。

個人事業者のための必要経費判定事典[改訂版]
近藤 雅人, 川口 昌紀, 松田 昭久, 田中 俊男, 佐々木 栄美子
ぎょうせい ( 2013-12-20 )
ISBN: 9784324097625

最近(2013年)の出版は、近畿税理士会調査研究部での共著です。

平成29年度(第67回)

〔第一問〕


 問1は、法人税法の基本的かつ重要な制度の一つである青色申告制度について、帳簿書類の記録、保存を求めている制度の意義、適用要件を正しく理解しているかを問うものである。
 また、問2は、取引のグローバル化に伴い、多くの法人が国際取引を行う現状を踏まえ、国際課税の諸制度(1外国子会社配当等益金不算入制度、2外国税額控除制度、3外国子会社合算税制)の内容が正しく理解できているかを問うものである。


〔第二問〕

 本問は、建設業を営む法人が法人税の申告実務を行うに際して、必要となる基本的な事項を問うものである。解答には、単に税務調整すべき金額を算出するだけでなく、その理由を正しく理解しているか求めることとした。
 特に、長期大規模工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度及び貸倒引当金の対象となる金銭債権の正確な理解、減価償却資産の特別償却に係る計算処理及び別表への正確な記載、その他建設業に頻出する事象についての正しい知識を問うものである。


法人税法|平成29年度(第67回)税理士試験出題のポイント|国税庁

前委員からの流れを受けてか、今年の法人税法「出題のポイント」は、第一問を合わせて歴代でトップクラスの短さです。これで全文です。あまりに簡潔。受験生にとって、もっと知りたいことがたくさんあると思います。これはよくない傾向です。


試験がどうあるべきかを真剣に考えて欲しい

以上、法人税法歴代の「出題のポイント」を見てきました。熱を感じるほど意欲的なものもあれば、薄っぺらいものもありました。試験委員が「出題のポイント」をいつ作成しているのかわかりませんが、その力の入れ方は、問題作成への熱意を反映しているように思います。

実際の問題と照らし合わせて比較したわけではありませんが、試験委員が「出題のポイント」ではっきりと抑えるべき論点を打ち出しているものは、試験問題を見てもそれがわかるように作ってあるように思います。逆に「出題のポイント」でも方針を示していないものは、問題を見ても何を問おうとしているのか、はっきりしないのではないでしょうか。それは言って見れば、ルールを公表しないまま試合を行っているようなものです。採点次第でどうにでもなるような問題を作ること自体があるまじきことです。


今までに何度も私は書いてきましたが、試験委員一人の資質に依拠し、このように品質がバラバラであっていいのでしょうか。最低限維持しなければいけない一定のレベルがあるはずです。少なくとも一つの問題を作るのに複数の試験委員で共同して、極端に傾向の偏った問題にならないようにするべきですし、問題にミスがないようにチェックするのは当然のことです。司法試験では、一つの科目の問題を何人もの考査委員で合議して作っていますし、適正な問題であったか検証する委員まで置かれています。

植田卓先生の「出題のポイント」を私は賞賛しましたが、その基本方針、特に「処理すべき項目や計算量を少なくし、考えるための時間を確保する」というのは、全ての税理士試験科目に共通の理念として共有されているべきだと考えます。お願いですから、国税審議会は、試験がどうあるべきかを真剣に考えてください。



本文中に加えるべき情報や、問題の解説がありましたらお寄せください。確認した上で追加します。