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税法の判例評釈の書き方

税法を学ぶ大学院で、最も重要なことの一つと言えるのが、判例について学ぶことです。これが2年間で完成させる税法修士論文の基礎にもなります。先日ゼミで、早速、「判例評釈を書いてくるように」と課題が出されました。教授が、ある判例について雑誌『判例時報』のコピー数ページを配り、簡単にどんなことを書けばいいのか説明してくださりました。


私は、これまで法学部で専門的に学んだ経験はありません。*1ですが、既にこのblogでも、税理士試験に関する判決や裁決について自分で調べ、要点や解説を書くというようなことをやってきました。恐らく、これは判例評釈の真似事のようなものになっているのではないでしょうか。


しかし、自分の思い込みで勝手なことを書いては、大きく方向性のずれたものになりかねません。今回は判例評釈とは何か、その書き方についてまとめておきます。前半でざっくりと、後半で詳しく資料の当たり方について書きます。
(この記事は、税法について学習中の身である私が書いたものです。後日、加筆修正予定です。)


目次

判例評釈とは

大雑把に言えば、重要な判決についての概要とそれについての批評をまとめたもの、と言えるでしょうか。

ある資料には、こうあります。

判例評釈は,ある判決(決定・命令を含む)について,意義やその判例が適用される範囲,問題点などについて述べたものとされる。判例評釈のほかに,判例研究や判例批評,判例解説とも呼ばれるが,判例解説というときには,執筆者の私見を抑えた客観的な説明が多いようである。


金澤 敬子「研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第8回 判例評釈を探す」『情報管理』56 巻 (2013) 2 号, pp.102-107


判例評釈は、法律専門誌や大学紀要等に収録されています。CiNiiで本文も見られるものを検索すると、以下のように出てきます。


ただ、私もちゃんと調べようと思っていろいろ見ていて思ったのですが、最初から本格的に書かれた論文をいくつも読むのは大変です。とりあえず課題レポートとして書くためには、簡潔に書かれたものを一つ見るのがいいのじゃないでしょうか。ネットでサクッと見られる見本として、すらたろうさんのblogから一つ紹介しておきます。選んだ題材に深い意味はありません。


私の書いた判例評釈はこちら。

判例評釈の書き方

構成

書き方によっていろいろあるでしょうが、概ね次のような構成を取るようです。

  1. 判決日、事件番号、事件名(著名な判決の場合、通称名)、収録雑誌
  2. 事案の概要(前提事実)
  3. 争点
  4. 参照条文(関係法令)
  5. 原告の主張
  6. 被告の主張
  7. 裁判所の判断(判決要旨、判旨)
  8. 評釈(解説、研究、考察、問題点、判決の意義)

何を書くか

「判決日」等は、判例が特定できるよう、一定の書式に従って書きます。略し方や表記の順番、どこまで書くかは、書物等によって幅があるようです。
「概要」として、どういう事案なのか、裁判の内容をまとめます。裁判で認定された事実、争いのない事実、裁判の経緯などを要約します。
「争点」は、裁判で当事者が争った肝となった論点です。
「参照条文」は、本文中に埋め込んであって項目として独立していない場合もあります。
「 原告の主張」「被告の主張」は、争点と一緒にくくってあることもあります。税務訴訟では、原告が課税処分に異議を申し立てた納税者、被告が課税庁(税務署長)となります。
「裁判所の判断」には、判決から重要部分を抜き出します。基本的に文章の前後を繋ぐため接続詞を整える以外は、「」でくくって、引用するのがいいと思います。
「評釈」の部分には、自分の意見を書きます。ここが評釈の本体です。判決に賛成なのか反対なのか。部分的にどの点には賛成(反対)なのか。その理由を書いていきます。この判決から論点となるべき点が他にあれば書きます。さらに、他の文献・周辺資料を調べることができたら、「先例としての価値(判決のもたらす影響)」についても書くと、より良い評釈になるでしょう。

判例評釈を行う意義

判例を学ぶことの意義は、逆説的ですが、裁判は必ずしも真実に迫った結論を出すとは限らない、ということがわかることにあるのじゃないかと思います。裁判は当事者の主張に基づき(当事者主義/弁論主義)、裁判官が得た心証によって決まります(自由心証主義)。日本の裁判官は税法の専門家ではないことが多いので、時にはおかしな判決が出ることもあります。租税判例の中にも、研究者からの批判が強く聞かれるものもあります。

また、解釈の難しい論点では、三審制で争うことにより、裁判所(裁判官)によって、結論がひっくり返ることも多々あります。判例を学ぶことを通して、論理立てて主張することの大切さや、多様な解釈のできる柔軟性を身につけることができるのではないかと思っています。

もちろん、過去にどのような論点が問題になり、どういった判例が出されてきたか、その潮流を知ることは、税務実務上も役立つ場面があるのではないかと思います。

いわゆる「生きた法」である判例は,今後の裁判,ひいては一般社会に影響を与えることがある。したがって,その判例の主旨や判例・学説との関係,問題点や今後の予測を行う判例評釈は,裁判実務にも参考になるものである。「時としては,その判例に対する学者の側からの説得力のある批評が最高裁判所の考え方を動かし,判例変更を促すこともありえないではない」とされ,新たな判例を生み出す力になることもあろう。


金澤 敬子「研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第8回 判例評釈を探す」『情報管理』56 巻 (2013) 2 号, pp.102-107


学生が学習課題として書く判例評釈が社会を動かすことなど皆無でしょうが、先日、私が歓迎会の後に酒場で同席させて頂いた教授は、判決に影響を与えたと思われる論文を発表された経験があるそうです。そのような領域にたどり着くまでに、どれほどの学習を積まなくてはいけないのか想像もつきませんが、私もそこに一歩でも近づけたらいいと思います。


判例の調べ方

参考となる文献

租税判例百選 第6版 (別冊ジュリスト228号)
中里 実, 佐藤 英明, 増井 良啓, 渋谷 雅弘
有斐閣 ( 2016-06-29 )
ISBN: 9784641115293

有斐閣の判例百選シリーズは、学生の学習用の判例集として、重要なものを一通り押さえることができます。基本的に見開き2ページ程度に収まっているのでコンパクトですが、紙面の制約上、説明が足りないところもあるように思います。

判決原文

主要な判決の原文は、裁判所のサイトで検索できます。裁判日等で検索して全文をPDFでダウンロードできます。

「税務訴訟資料」は、租税関係行政・民事事件裁判例のうち国税に関する裁判例を収録したものです。

国税不服審判所の裁決事例集です。

*1:とはいえ昔から法学に興味はあり、大学の教養課程や、単位互換制度で法学部の授業を取った経験はあります。