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軽減税率導入後のレシートと仕訳 キャッシュレス還元の経理処理はどうなる?

私が勤務している税理士法人では最近とてもバタタバタしておりまして、今頃になって消費税法改正の対応に本腰を入れようかというところ、職員研修の資料を私が準備しております。


軽減税率とは、実に馬鹿げた制度。先に更新した記事に続き、今後この制度について語る際には、必ず枕詞としてつけてやろうなどと思っております。今回の記事もその理由を示すのに十分でありましょう。

目次

セブン-イレブンの増税後のレシートのイメージ

新聞に増税後のセブン-イレブンのレシートのイメージが掲載されていまして、それをtwitterに載せましたら、若干バズっております。


引用画像は、中日新聞9月5日朝刊からです。


別の方が、ファミマとローソンのレシートも掲載しておられましたのでこちらをご覧いただきたいと思います。

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消費税法改正後の区分記載請求書等保存方式に則った表示ですが、表示の仕方を見ると各社各様。一番ギョッとするのがセブンのレシートでして、原則税抜き表示で商品価格を記載しつつ、タバコは税込み、非課税の切手も載せているため、小計欄が4段に渡り、合計金額を集計した後、8%と10%を区分して税込対価、税額を表示。その下でキャッシュレス還元額を引いてnanacoの決済金額が来るという感じになっております。
ファミマとローソンは税込み表示で、ファミマのみ、キャッシュレス還元後の金額で消費税額を計算しているのがわかります。ローソンは、大書きされている合計額の記載がシンプルでいいんですが、キャッシュレス還元を引いた後の実際の支払金額が埋もれるのでいまいちだと思います。


税率毎に区分して経理することが要求される改正後において、会計専門職が見てもうんざりして、気をつけないと間違えてしまいそうな各社バラバラの表示、帳簿を自分で付ける一般の事業者においては、混乱必至です。


仕訳を起こすとどうなるか

上記、セブンのレシートを仕訳に起こすとどうなるか、やってみましょう。タバコやネイルが経費になるのか疑問はありましょうが、とりあえずここでは経費になるものとして進めます。
消費税は税抜経理。前払式支払手段たるnanacoは、前払金を使います。(nanaco勘定を設けても良いでしょう。)

(課税8%)
 会議費270   /前払金291
 仮払消費税等21 /
(課税10%)
 消耗品費300+446=746 /前払金820
 仮払消費税等30+44=74 /
(非課税)
 通信費50   /前払金50

切手は、原則の処理では非課税ですが、消基通11-3-7(郵便切手類又は物品切手等の引換給付に係る課税仕入れの時期)を適用して購入時に課税仕入れにするのが簡便で良いでしょう。

税込経理で行った場合の仕訳は以下です。

(課税8%)
 会議費291   /前払金291
(課税10%)
 消耗品費820  /前払金820
(課税10%)
 通信費50   /前払金50

キャッシュレス還元は雑収入か、値引きか?

問題はキャッシュレス還元をどう扱うかです。処理として2つ考えられます。一つは、ポイントを収益認識して雑収入として扱う。その場合、消費税は国からの補助金であり対価性がないので不課税です。(消基通5-2-15(補助金、奨励金、助成金等))もう一つは、還元額がキャッシュレスの支払額に応じて戻ることから、値引きと考える処理。消費税は仕入対価の返還と考えます。(消基通12-1-2(事業者が収受する販売奨励金等)


(不課税)
 前払金22 /雑収入22

(課税8%)
 前払金6 /会議費6        22/(291+820)*291=6
(課税10%)
 前払金16 /消耗品費16      22/(291+820)*820=16


ここでキャッシュレス還元の位置付けを確認しておきます。

良い説明があったので、引用します。

経産省が主導する「キャッシュレス・消費者還元事業」は19年10月から9か月間、中小事業者を対象にキャッシュレス決済時のポイント還元を支援するもの。原則として5%、フランチャイズ(FC)傘下の場合には2%が消費者に還元されるが、具体的な還元方法については、各事業者に委ねられていて、値引きも「例外」として認められる。

もうすぐ1か月を切るタイミングだが、8月下旬になってようやく、コンビニ大手3社の動向が報じられた。コンビニ各店では、FC傘下の「2%還元」がメインで、直営店は制度の対象ではないが、本部が2%負担すると伝えられている。

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経産省のキャッシュレス事業、ポイント還元を受けるときの注意点 - BCN+R


還元率は基本5%、コンビニ等のFC加盟店では2%となります。


キャッシュレス還元の会計処理についてしばらく考えていました。クレジットカード等を使って、後日ポイントが付与され、引き落とし時にポイント分が差し引かれる場合、これは、買い物時に総額で「仕入等/未払金」を費用計上し、同時にポイントを「未収金/雑収入」で収益認識するべきではないか、と考えていました。ところがここに来て、コンビニやamazonが買い物時の即時還元を行う方針を発表しています。

10月の消費増税に合わせて始まるキャッシュレス決済のポイント還元策でセブン―イレブン・ジャパンなどコンビニエンスストア大手4社は、消費者の購入額から還元対象の2%分を支払時に差し引く。発生したポイントをその場で使えるようにし、後日ポイントが戻るよりも消費者にメリットが分かりやすいと判断した。アマゾンジャパン(東京・目黒)や一部スーパーでも即時還元を始める計画で、こうした動きが主流になる可能性がある。


消費税ポイント、「値引き」で還元 コンビニ4社 :日本経済新聞


コンビニで即時還元の扱いをする場合は、雑収入(不課税)で受けるのではなく、値引き(仕入対価の返還)扱いが妥当ではないかとの結論に至りました。特に、コンビニの場合、FC加盟店は国のキュッシュレス事業で2%還元の対象ですが、本部直営店は(中小企業者でないため)対象にならないので独自に2%還元をやることになっています。*1つまり完全にコンビニ運営会社負担の値引きであり、後日付与でもないので、ポイントを収益認識するよりも値引きとして処理するのが妥当と思えます。



私論をまとめると、以下の通りです。

コンビニ等の即時還元:値引き(仕入対価の返還)
クレカ等のポイント付与:雑収入(不課税)



※ 本記事の検討の続きを以下で行なっています。

実務上の対応

以上の結論を基にすると、上記のレシートの例では、値引き後の金額で区分表示している、ファミマのレシートが一番妥当ということになります。セブンやローソンの場合、キャッシュレス還元額を入力するときに電卓を叩いて8%と10%に按分しなれけばなりません。こんな面倒なことはありません。


課税上の問題点として、雑収入にするにしても値引きにするにしても、所得課税(所得税、法人税)では利益は同じになるので問題ありませんが、消費税では課税とするか不課税とするかで納税額が変わってきます。キャッシュレス還元ポイントを付与する方法がキャッシュレス事業者により異なることから、会計処理も統一的にできないことは、混乱を招くでしょうね。



税法に忠実な、正しい処理は何だろうかという、信念から以上の論考をまとめましたが、最後にひっくり返すようなことを言います。実務では入力のし易い方法でやっていればどちらでもいいんじゃないでしょうか。少額不追及でしょう。


税理士の吉澤大先生も、税務署がそこまで正確な処理を求めて来るとは思えない、という趣旨のことを言っておられます。

ポイントについては「正しくは付与された時に雑収入、使った時に必要経費。面倒だったら、付与されたときも支払った時もなにもしない」でいいのではないでしょうかね。


キャッシュレスポイント還元の経理処理|ポイントを利用したら課税されるのか? | あなたのファイナンス用心棒 吉澤大ブログ

もう一度言いますが、実に馬鹿げた政策をやってくれました、国は。




 今回のポイント還元策は、消費税率が8%から10%に引き上げられることによる消費者の負担を和らげ、中小の店舗の売り上げの落ち込みを防ぐ狙いだ。
 政府は今年度予算で約2800億円を計上し、投じられる税金は9カ月間で約4千億円になりそうだ。これは参加店舗が全体の2割ほどと想定した金額だ。

キャッシュレス決済のポイント還元、参加店舗は3割:朝日新聞デジタル

事業者以外の個人が得たポイントの課税



お知らせ

私は、前回増税のあった後に会計事務所の仕事に就いたので、増税対応は初めてでドキドキしているところです。
ところで、ここでお知らせです。私の務めている税理士法人では、幹部職員の求人募集をしています。私と一緒に働いて頂けるという方は是非ご連絡ください。




※この記事は法解釈の一事例を示したものであり、閲覧時点での有効性を保証するものではありません。
※ご自身の申告にあたっては、資格と十分な能力を有した税理士にご相談ください。

*1:そして、直営店か、FC加盟店かを、レシート上の表記で区別する手段はありません。