「会計士試験の解答は行政文書に該当し保存することが望まれる。」平成16年3月31日答申 平成15年度(行情)答申第751号
判例・裁決事例研究シリーズ。今回は、公認会計士試験で採点に使用した「解答」が行政文書に該当するため、試験を行う公認会計士審査会に保存するように求めた重要な事例を紹介します。この裁決事例(答申)が、その後の別の開示請求にも繋がっていき、実際の試験がより透明性をもって行われるように変わってきました。司法試験の成績開示について取り上げた記事でも書きましたが、こうした受験者からの真摯な訴えがあって初めて国の制度が変わるのです。税理士試験でも、今私のやっている開示請求によって変わっていくものと信じています。
目次
平成13年公認会計士第2次試験の合否決定に関する文書の一部開示決定に関する件
概要
諮問庁:金融庁長官
諮問日:平成15年3月28日(平成15年(行情)諮問第173号)
答申日:平成16年3月31日(平成15年度(行情)答申第751号)
事件名:平成13年公認会計士第2次試験の合否決定に関する文書の一部開示決定に関する件
答申書
第1 審査会の結論
平成13年公認会計士第二次試験の合否判定に関する別表の3欄に掲げる文書につき,一部又は全部を不開示とした決定について,短答式得点別一覧表(全国)は,開示すべきである。
別表の2欄に掲げる開示請求対象文書の④,⑤,⑧,⑨及び⑩について,不存在を理由に不開示とした決定は,妥当であり,また,⑥について,不存在を理由に不開示とした決定(以下,上記各決定と合わせて「原処分」という。)は,結果として妥当である。
本件の異議申立人は、「平成13年公認会計士第二次試験の合否判定資料(合格点,正解,配点,受験者の得点分布,それに対する受験番号による内訳,合格基準の決め方,論文式の各科目平均点の答案等が記載された文書)」の開示を求めました。
それに対し諮問庁(金融庁)は、短答式試験の合否判定資料(正解が記載された文書)については「短答式解答データ ダンプリスト」を、短答式及び論文式試験の合否判定資料(合格基準の決め方が記載された文書)については試験実施規則を特定し,その全部を開示しました。
別表に掲げる①から⑩の文書は、それぞれ別表の3欄に掲げる文書を具体的に特定したうえ、一部又は全部を不開示としました。別表の2欄の①(合格点が記載された文書)については、不開示としました。②及び⑦(配点)については、3欄に掲げる文書のほか、試験実施規則についても特定し、その全部を開示しました。③(受験者の得点分布が記載された文書)について、短答式得点別一覧表(全国)を、金融庁は不開示とすべきとしましたが、審査会の判断により開示すべきとされました。
別表の2欄に掲げる文書の④,⑤,⑥,⑧,⑨及び⑩については不存在を理由に不開示としました。このうち、⑥(正解が記載された文書)について、不存在を理由に不開示とした決定が「結果として妥当である」としている点がポイントです。
今後は「解答」を保存するよう求める異例の付言
公認会計士審査会は,公認会計士法35条に基づき金融庁に置かれた審議会等であり,その試験委員は非常勤の国家公務員であり,「解答」は試験委員が職務上作成し,又は取得したものであって,複数の試験委員が採点業務に利用していることから,「解答」は諮問庁において組織的に用いるものとして保有していたものと認められ,その存在する場所が諮問庁の庁舎外であったとしても,試験委員はその職務上,庁舎外で採点をすることが常態であることからすると,諮問庁が行政文書として保有していたものと認められる。
したがって,諮問庁は開示請求時点又は原処分時点においては,少なからぬ科目に関して正解を保有していたと認められることから,諮問庁の主張は,是認することができなく,当該文書を不存在を理由に不開示とした決定は,妥当であったとは言えないものである。
しかしながら,公認会計士法38条2項において,試験委員は試験の実施ごとに任命され,その試験が終わったときは退任することとされており,平成13年の試験委員は平成13年10月初旬の合格発表までが当該試験に係る任期とされていることからすると,遅くとも平成13年10月中にはその任期を終え退任したものと認められ,退任後に保有しているとしても,それは元試験委員として私的に保有していると見ざるを得ないことから,退任後は元試験委員のみが保有する当該文書についての行政文書該当性は認められない。
このことから,諮問庁の正解を保有していないとの説明は,現時点においては,結果として是認せざるを得ないものと認められる。
4「解答」の保存について
上記2(2)イ(ウ)において記したように,試験委員が「解答」を保有していたことが認められたものの,当該文書を試験委員のみが保有しており,試験委員の退任に伴いその行政文書該当性が認められないものとなっている。
「解答」は,試験制度上重要なものであることから,今後,その形式を検討するとともに,作成された解答は試験委員のみの保有とせず,その提出を求め,事務局で保存することとし,その保有期間は,短答式試験の解答のそれに照らし,少なくとも1年とすることが望まれる。
審査会では、試験委員の作成した「解答」が、開示請求の対象となる行政文書であるとした上で、開示請求時点又は原処分時点では存在したが、その後試験委員の退任に伴い行政文書ではなくなったため不存在となり、結果として是認せざるを得ないとしました。しかし、「解答」は、試験制度上重要なものであることから、今後は事務局において保存するようにとの付言をつけました。審査会が答申書においてこのような付言をすることは異例のことです。そして、これがその後の別の開示請求へと繋がっていくのです。
税理士試験の模範解答開示請求との比較
前回、紹介した税理士試験の模範解答・採点基準の開示請求に対する答申が出されたのが、平成15年7月24日。今回の答申が少し後の平成16年3月31日です。結論として同じ不開示となっていますが、その中身は全く違ったものであることがわかります。
会計士試験では、金融庁が模範解答や採点基準について、きちんと調査し具体的に文書を特定した上で開示しないという判断をしたわけですが、税理士試験では国税庁が端からその存在を否定し、審査会でもろくに調査をせず是認するという、不自然極まりない裁決が行われました。比較してみると税理士試験の異常性が際立ちます。そこまでして隠さなくてはいけない税理士試験には、一体どんな闇が隠されているのでしょうか。