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「税理士試験の模範解答は存在しない。」平成15年7月24日答申 平成15年度(行情)答申第208号

判例・裁決事例研究シリーズ。今回は、税理士試験に関するものとしてほぼ唯一の情報公開審査会答申*1となる「第51回税理士試験財務諸表論の模範解答及び採点基準の分かる文書の不開示決定(不存在)に関する件」を取り上げます。有名なものなので、ご覧になったことのある方も多いでしょうが、最近税理士試験に参入した方は、ご存知ない方もいらっしゃるでしょうか。


はっきり言って、この裁決、滅茶苦茶です。こんな無理のある弁解が罷り通るのか。重要部を抜き出しながら、解説(茶々)を入れていきますが、興味のある方は是非リンク先から全文をご覧になってください。


第51回税理士試験財務諸表論の模範解答及び採点基準の分かる文書の不開示決定(不存在)に関する件

目次

第51回税理士試験財務諸表論の模範解答及び採点基準の分かる文書の不開示決定(不存在)に関する件

概要

諮問庁:国税庁長官
諮問日:平成15年3月24日(平成15年(行情)諮問第132号)
答申日:平成15年7月24日(平成15年度(行情)答申第208号)
事件名:第51回税理士試験財務諸表論の模範解答及び採点基準の分かる文書の不開示決定(不存在)に関する件


答申書


第1 審査会の結論
第51回税理士試験財務諸表論の模範解答及び採点基準の分かる文書(以下「本件対象文書」という)について,不存在を理由に不開示とした決定は妥当である。



本件は、第51回税理士試験・財務諸表論を受験した異議申立人が、同試験の模範解答及び採点基準の分かる文書を国税庁に開示請求したところ、不存在を理由に不開示の決定が出たものに対し、不服申し立てをしたものです。結論は、上記の通り、国税庁の主張を全面的に認め、不開示妥当という判断が出ました。


16年前の開示請求の足跡を辿る

余談ですが、この異議申立人と思われる人物は、かつて「趣味としての情報公開」というホームページを開設していました。そこに掲載されていた情報によると、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)が施行された平成13年4月1日の直後から、税理士試験に関する本件開示請求以外にも、学校法人や行政機関等に対し多数の開示請求を繰り返し行っていました。私は以前からこのホームページの存在に気付き、自身で開示請求を行う前にこの人物にコンタクトを取ろうとしたのですが、ホームページの最終更新は10年以上前の日付で、残念ながらメールも届きませんでした。その後、そのホームページも、ホスティングしているプロバイダのサービス終了で削除されてしまいました。一部を保存しておいたため、今でもその記録を参照できるのですが、ギリギリのタイミングでした。

この異議申立人氏が財務諸表論を受験した第51回は平成13年度で、同年12月に合格発表、不開示決定が出たのが翌14年の1月8日、当時の法律では異議申立の期間が60日以内とされていましたので直後に行ったようですが、それから国税庁が理由説明書を書き、審査会に諮問するまでに1年以上かかりました。答申書の記述によると審査会が諮問を受理したのは平成15年3月24日です。異議申立人氏は1ヶ月ほどで意見書を書き上げ4月30日に送付。5月21日に審議が始まり、6月19日、国税庁から口頭説明の聴取、7月16日、補充理由説明書の収受、そして7月22日の審議で結論が出ました。


異議申立人氏のホームページには、8月1日の更新で次のように書かれています。

情報公開審査会の常識は世間の非常識か?

もう、一週間ほどになるが、内閣府情報公開審査会が税理士試験の模範解答等について答申を出した。当初の不存在決定は妥当だというのである。私は、審査会に出した意見書で幾つかの論点を指摘したが、特に問題にしたのは、17,000人も受験者がいるのに、採点基準となる者が無くてどうして採点が出来るのかという点だった。この点について、審査会は次のように判断している。

(中略)

記述式なら、ある程度頭の中にあるイメージだけで採点できるかもしれない。しかし、計算問題を何も見なくて採点できるとは到底考えられない。それに、試験委員が連絡を取り合いながら採点しているというのは、返って煩雑になっていると考えられる。そして試験委員は非常勤であり他に本職を持っていることを考えれば17,000人の受験生の採点をきちんと出来るとはおもえない。

 常識で考えればおかしいことは明らかだ。審査会の行政よりの姿勢が最近強まっているのではないか?


私が相談に行った二人目の弁護士に、この答申書を見せて意見を求めましたが、その方も「無理のある結論だ」と言いました。「不開示の結論ありきで書いている。行政を擁護する立場で書かれたものだ」、と。これを見た誰もが、そう感じると思います。
16年前の異議申立人氏が「常識で考えておかしい」と憤った、答申書の中身をご覧ください。


答申書

まずは、異議申立人の主張、続いて諮問庁(国税庁)の主張です。

第2 異議申立人の主張の要旨

(略)

試験問題を具体的に検討すると,用語数を決められた問題の字数制限や計算問題の数値など試験委員が模範解答等を作成していると考えるのが自然であり,諮問庁の説明は不自然きわまるものである。
試験問題と同時に模範解答をも作成しなければ問題自体が作成できないことは明らかであり,作成していないと言う諮問庁の説明は全く矛盾している。また模範解答作成も試験委員であれば容易にできる。
各設問の配点が決まっているはずであり,答案ごとに配点を変えるようなことがあれば公正な試験とは言えなくなることは明らかである。

第3 諮問庁の説明の要旨

2 本件文書の存否について

(略)

試験委員は,豊富な実務経験と学識経験を有した者が任命されており,採点に当たっては,その公平性及び妥当性が確保されるよう十分留意しながら行っているものであるが,各試験委員は,試験問題を作成するとともに採点まで行うことから,模範解答や採点基準といったものを作成した上で行っているわけではない。また,試験委員間において,採点の公平性及び妥当性を確保し,独断的な採点になることを防止するため,採点の過程において密接に連絡を取り合いながら,行っているところである。

国税審議会においては,試験委員が作成した試験問題案が試験問題として適切かどうかを審議・決定しており,採点については正解は一義的ではなく,また,試験委員に委ねられているものであることから,国税審議会として,試験委員に対して模範解答及び採点基準の作成は求めていない。
なお,税理士試験は上記のように実施されているところであるので,国税庁においても,模範解答及び採点基準といったものは作成していない。


3 試験問題作成と採点の具体的な流れについて

(1)問題作成の過程について


税理士試験は,毎年,8月頃行われており,財務諸表論の試験委員は,例年,2月上旬から4月上旬にかけて数回程度,国税庁に集まり,試験問題を作成している。
試験委員が試験問題を作成する過程においては,各試験委員が持参した資料を基に他の試験委員とともに検討を行っている。
例えば,計算問題についてのチェックに際しては,試験問題が解答不能ではないか又は複数の解答が出ないかなどを検討するための解答例が担当の試験委員から提示される場合もあり,これら検討過程における資料は,検討のたびに修正され変更されていくものであり,秘密漏洩を防止する観点から,試験問題の審議終了後は,各問の担当試験委員限りの備忘的なものとしており,他の試験委員に配布した資料はその都度回収し,直ちに廃棄している。
このように作成された試験問題の案について,例年6月頃,国税審議会が試験問題として適切かどうかを審議・決定している。
なお,国税庁長官官房人事課は,国税審議会の庶務を担当していることから,試験問題を審議する場においては試験委員の要請に従い,試験委員が持参した資料をコピーして他の試験委員に配布することはあるが,国税庁人事課としては秘密漏洩を防止する観点から,当該資料は一切保有しない。


(2)採点の過程について


財務諸表論については,第1問から第3問まであるが,それぞれの問いごとに1人又は複数の試験委員が試験問題を作成するとともに,採点まで行っている。
採点に当たっては,8月頃から10月頃まで約3カ月かけて,試験問題を作成した試験委員自らが,自己の専門的知見に基づき,個々の答案について,単に結果のみではなく,解答を導き出す思考過程や計算過程なども十分に考慮し,その公平性及び妥当性が確保されるよう十分留意しながら行っている。
財務諸表論の各問によっては,複数の試験委員で試験問題の作成及び採点を行うことから,試験委員の間において,採点の公平性及び妥当性を確保し,独断的な採点になることを防止するため,必要に応じて,採点の過程において相互に密接に連絡を取り合うなど,細心の注意を払ってきている。
なお,試験問題の採点は,あくまでも試験委員の専門的知見に基づいて行われるものであり,国税庁人事課が試験委員の行った採点内容をチェックする必要はなく,現に行っておらず,国税審議会の庶務を担当している国税庁人事課において,試験問題に対する解答や採点基準が存在しなくとも,全く支障はない。


以上の主張を通じて、審査会の出した結論が以下です。

第5 審査会の判断の理由

2 本件対象文書の存否について


(2)試験問題作成及び採点について


諮問庁の説明によれば,財務諸表論の試験問題は3問あるが,その作成については,1問ごとに一人又は複数の試験委員が担当し,各試験委員が2月から4月にかけて約2カ月の間に数回,国税庁に集まり,試験問題の出題の趣旨や解き方などについて検討を重ねるとしている。
この検討過程において,財務諸表論を担当する試験委員の間において,出題,設問の趣旨や解き方及び採点についての共通認識が形成され,最終的に試験問題案として作成されるが,その際,模範解答や採点基準を定めた文書が作成されているものとは認められない。
試験委員によってこのようにして作成された試験問題案について,国税審議会税理士分科会が試験問題としての適否について審議し決定することとなるが,同分科会においては試験委員自らが担当した問題について説明しており,同審議会が模範解答や採点基準を定めた文書の提出を試験委員に求めているものとは認められない。
異議申立人は,本件試験は,17,000人以上の受験生がおり,それを数人の試験委員で採点するのであるから,何らかの模範解答や採点基準がなければ適正適切な採点ができないことは明らかであると主張する。
試験問題の採点は,それぞれの問題の作成を担当した試験委員が行うが,財務諸表論の問題数や約3カ月の期間をかけて採点を行うことからすると,当該科目を専門分野とする試験委員にとって,採点が不可能な期間であるとは認められず,また,採点は,答案を模範解答や採点基準の定めに形式的に照合して行うようなものではなく,その高度な知見に基づき試験委員が解答を導き出す思考過程を分析し,判断する知的作業であると考えられることから,問題作成者であり,同時に採点に当たる試験委員にとって各問に付与された配点のほかに模範解答や採点基準を定めた文書が常に必要であるとは認められない。更に一つの問題を複数の試験委員が作成し,採点についても分担して行っている場合においても,採点の公平性を確保するため必要に応じて試験委員が密接に連絡を取り合っているものと認められ,模範解答及び採点基準を定めた文書がないとしても,これを不自然と言うことはできない。
以上によれば,試験委員によって作成された模範解答及び採点基準を定めた文書は存在しないとする諮問庁の説明が不自然不合理であると言うことはできない。

国税庁人事課において模範解答を保有していない、というところまではいいとしましょう。本当は、ろくに記録を残していないということでそれも問題ですが。

試験委員は模範解答を作っているけど、「行政文書に該当しない」とか、「理由があって開示できない」とか、小賢しいことを言ってくるのかと思いきや、「最初から作成していない」と正面から突破してきました。税理士試験の問題を具体的に知っていたら、そんなことが可能であると考えられるはずがありません。特に計算問題において、膨大な数字の羅列を一つずつ突合することなく瞬時に判断できるというのでしょうか。3ヶ月の期間をかけているから採点が不可能ではない、とそんなことは問題ではないのです。1人目と、17,000人目で模範解答が無くて同じ基準で公平な採点ができますか?ということです。また、複数の試験委員が分担している場合にも、密接に連絡を取り合っているから公平にできる、と。試験委員は超人ですか?それはさぞかし高度な知見と能力をお持ちのようです。

(3)事務担当部局の役割について


諮問庁は,国税審議会の庶務を担当する国税庁長官官房人事課において,問題作成の打合せ会等についての必要な手配や準備はするが,試験問題の検討内容について記録を作成することはなく,検討過程の資料についても検討が終わり次第その都度廃棄することとしており,また事務当局として本件対象文書を作成し保有することもないと説明している。
国家試験である税理士試験の性質上,試験問題作成及び採点が試験委員の高い専門性と知見に全面的に委ねられていること及び試験問題作成過程の秘匿の重要性や秘密漏洩防止の観点からすると,このような説明は是認することができる。


(4)本件対象文書の存否について


以上のことからすると,試験問題の原案作成から採点に至るまで,全面的に試験委員に委ねられており,模範解答及び採点基準を定めた文書が作成され,これを諮問庁が保有していると言うことはできない。
したがって,本件対象文書が不存在であるとする諮問庁の説明は,是認することができる。


この答申から受ける印象はただ一つ。この審査会は、国税庁の説明をそのまま是認しただけのとんだ茶番であったということです。模範解答の存在を無くして、統一的な基準による公正で適正な採点が可能であるのかどうか、具体的に検討した様子は見られません。


今政権を揺るがしている加計学園問題と同じ匂いを感じます。行政文書は確認できない、担当部局がないと言っているから、ないのだ。調べる必要もない、と。


模範解答は存在せず感覚的に採点している

誠に信じ難い話ですが、仮に模範解答がないとしましょう。今度は、ないということそのものが問題であり、逆に、税理士試験の不透明性・不適正性を強調することになると考えられますが、そのようなことは微塵も心配しなかったようです。とにかくこの開示請求を不開示の結論に持っていくことだけを考えて理由付けをしたのでしょう。


この答申の事実認定を全て正しいものとすると、「俺たちは雰囲気で税理士試験の採点をやっている」と、言っているのと変わりません。全くふざけています。

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雰囲気で株をやっているジェネレーター

今提出を予定している審査会への私の意見書でも、この答申に対する批判を展開しています。国税庁と審査会は、14年の月日を経て、この答申に向き合うこととなるでしょう。


*1:税理士試験については他に免除申請に関するものが2件あります。気になる方はお調べください。