Markの資格Hack (税理士試験)

資格試験に四苦八苦しないための資格Hack(シカクハック)情報 税理士試験のここでしか見れない情報を発信しています

キャッシュレスポイント還元は不課税か、仕入対価の返還か?

国が行う「キャッシュレス・ポイント還元事業」でコンビニ等が採用した「即時充当」方式の場合に、ポイント還元の部分は消費税法上、仕入対価の返還となるのか、不課税となるのかという問題について、以前の記事で触れました。

この問題について、改めて掘り下げます。


※ 追記
10月21日、私の投稿に対し、税務通信の編集部から電話をもらいました。ポイント還元の処理について「法律上規定はないので」と歯切れの悪い返事でした。本件に関しては読者からたくさん問い合わせが来ているそうですが、税務通信の記事はあくまで編集部の取材に基づく考えということです。

目次

「税務通信」は不課税との見解

「週刊 税務通信」No.3576(令和元年10月14日)は、「ポイントの即時充当 レシートの表示全額が仕入税額控除対象」という記事を掲載しました。


本記事では、「即時充当は割引券等の使用による値引きではないことから、レシート記載の税込価額がそのまま、仕入税額控除の計算の対象になるという。」とし、ポイント還元部分は不課税との見解を示しました。

権威のある専門誌の見解ですが、しかし、これを以ってポイント還元を不課税と言い切るには、根拠が薄弱であると感じました。

即時充当は購入時の支払金額にポイント還元制度のポイント相当額をその場で充当するものであり、商品価格の○%割引くような値引をしているわけではない。
したがって、次のような仕訳で表され、充当されたポイント相当額は雑収入(不課税)として計上されることになろう。

とありますが、商品価格の2%(or 5%)をその場で割引く値引に他ならないと考えます。

私論:仕入対価の返還ではないか

キャッシュレス・ポイント還元の、会計・税務処理について、私の導き出した結論は次の通りでした。

ポイントの後日付与:雑収入(不課税)
コンビニ等の即時還元:値引き(仕入対価の返還)


同じポイント還元事業からの還元でありながら、消費税の課税区分が異なることの整合性としては、次のように説明できると考えています。


後日付与の場合
①仕入側が販売側に支払う仕入対価の金額としては、ポイント還元前の価額が妥当であると考えられること。
②ポイントが使われずに失効する可能性もあることから、ポイント付与の原因となる支払との対応関係が確実とは言えないこと。


一方、即時還元の場合
①仕入側が販売側に支払う金額はポイント還元後の価額であり、これはクーポン等による値引きと変わらないから、仕入対価から直接減額することが妥当と考えらえること。
②ポイント還元額は支払額の2%(又は5%)と、支払額との対応関係が強固であり、対価性があること。
③ポイントは支払時に即時に消費されるため、別途収益として認識する必要性がないこと。



通達では、以下の項が不課税説を補強します。

(補助金、奨励金、助成金等)
5-2-15 事業者が国又は地方公共団体等から受ける奨励金若しくは助成金等又は補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第2条第1項《定義》に掲げる補助金等のように、特定の政策目的の実現を図るための給付金は、資産の譲渡等の対価に該当しないことに留意する。(平23課消1-35により改正)

第2節 資産の譲渡の範囲|国税庁


一方、仕入れ対価返還説は、以下の項の趣旨に合致すると考えます。

(事業者が収受する販売奨励金等)
12-1-2 事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先(課税仕入れの相手方のほか、その課税資産の製造者、卸売業者等の取引関係者を含む。)から金銭により支払を受ける販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還等に該当する。

第1款 対価の返還等の範囲|国税庁

キャッシュレス還元額は、キャッシュレス決済の支払額に応じて決まります。事業者(仕入側)が、販売促進の目的(経済対策)で課税資産の販売高に応じて、取引関係者である国からキャッシュレス決済事業者を通じて支払を受ける販売奨励金に類するものと言えます。


キャッシュレス還元を不課税とする場合の問題点

キャッシュレス還元が不課税であるとすると、実務上、次の問題点が浮上します。

問題点1 直営店が行う独自の還元との区別がつかない

コンビニの場合、FC加盟店は国のキュッシュレス事業で2%還元の対象ですが、本部直営店は(中小企業者でないため)その対象にならず独自に2%還元を行なっています。直営店が行う還元は、コンビニ運営会社負担の値引きであり国の補助金を原資とするものではないので、仕入対価の返還となり、処理が異なることとなります。しかし、直営店か、FC加盟店かを、レシート上の表記で区別する手段はありません。

問題点2 ポイント還元前の税率毎の合計額が表記されていないレシートがある

ファミマのレシートの表示方式(キャッシュレス還元後の金額を税率毎に区分記載する方式)では、区分記載請求書等保存方式での仕入税額控除の要件であるポイント還元前の「税率毎の税込対価の合計額」が表記されていません。税務通信の記事では、セブン、ローソンの表示方式(税率毎の区分記載後に、キャッシュレス還元額を表記する方式)を前提に、レシートの表示金額が仕入税額控除の要件を満たすため、レシートを受け取った側での追記が要らないと説明しています。しかし、逆に、ファミマのレシートでは、ポイント還元額を税率毎に按分計算してレシートに追記しておかなければ仕入税額控除を受けられないことになります。

f:id:mark_temper:20190908160745j:plain

前の記事に書いた通り、私は「不課税でもいい(許容される)」と考えているのですが、「不課税以外考えられない」と断定するには、根拠が不十分であると思っています。


ただでさえ、軽減税率の導入で混乱を招いているところに、キャッシュレスポイントの税務処理について国がガイドラインを示さないまま始動してしまったため、各社バラバラのレシート表記が飛び交い、ますます混乱を極めることとなりました。



※この記事は法解釈の一事例を示したものであり、閲覧時点での有効性を保証するものではありません。
※ご自身の申告にあたっては、資格と十分な能力を有した税理士にご相談ください。