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日弁連「税理士試験は実定法の解釈技術の能力を試す試験となっていない」

日本税理士会連合会は、平成24年9月26日付で、国税庁長官及び財務省主税局長に「税理士法に関する改正要望書」を提出しました。要望書の中で、税理士資格について、税理士法では弁護士及び公認会計士(平成26年改正前)に無条件で税理士資格を付与していることに関し、「弁護士は会計学に属する科目に,公認会計士は税法に属する科目に合格することを原則とするなど,税務に関する専門性を問う能力担保措置を講じるべきである。」としました。

日税連の要望書に対し、両士業団体は反論の意見書を発表し、会計士協会とは激しいバトルが勃発したことは以前の記事でも紹介しました。


今回の記事では、日弁連の意見書から税理士試験の本質について考えることとします。

目次

日弁連の意見書

日本弁護士連合会の意見書は、税理士試験について次のように述べています。

日本税理士会連合会「税理士法に関する改正要望書」(平成24年9月26日付)に対する意見書
2013年(平成25年)2月14日
日本弁護士連合会

日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:日本税理士会連合会「税理士法に関する改正要望書」(平成24年9月26日付)に対する意見書

6 税理士試験(会計科目)を課す必要性・必然性を欠いていること

そもそも,弁護士たる税理士以外の税理士は,憲法,行政法,民法等,税法の解釈・運用の前提となる又はこれと密接に関連する基本的な実定法の解釈技術のトレーニングを受けていない者が大部分であり,税理士試験もそのような能力を試す試験制度とはなっていない。すなわち,税理士試験の税法科目の内容及び目的は,税法解釈上,見解の分かれうる論点等に関する法的思考能力を問うものではなく,専ら行政解釈等に則した税額の正確かつ迅速な計算能力が試されるものとなっており,このようなことから,税理士の行った不服申立ての記載が,一部の例外を除き,上記基本的な実定法を踏まえた税法解釈に基づくものにはなっていない例が多々見受けられる。

これに対し,弁護士は,裁判官と共に,実定法の解釈・運用技術の高度な能力を有することを担保する司法試験に合格し,かつ,司法修習を経て法曹資格判定試験に合格した者である。弁護士たる税理士以外の税理士とは異なった見地,水準において税理士業務を行う者であり,上記のとおり,今後ますます,重要な地位を占めることが期待されている者である。日本税理士会連合会の平成22年5月31日付「税理士法改正に関する意見(案)」の「2.税理士の資格取得に関する規定(1)税理士の資格【理由】隣接職種の資格者等に対する能力担保措置」においても,弁護士を「租税に関する法令等についても一定の学識及び応用能力を有していると思料される」としているところ,税理士たる能力としては,それで必要かつ十分である。

会計知識は,例えば資産税や国税徴収法等の領域においては特段必要とされていないばかりでなく,上記のとおり,そもそも会計は自由業務であり,税理士法上も付随業務とされているに過ぎず,税理士業務の本質(税法領域における法律事務)をなすものではない。

税理士業務に従事する弁護士においては,自己研鑽,法科大学院における講義,あるいは当連合会等の主催する研修等により実務処理に必要なものを修得しているものである(当連合会の研修は今後,更に充実させる予定である)。

弁護士は,上記のとおり,法律理論に関する学識及び法律知識並びにその高度な応用能力を有しているところ,それのみに止まることなく,現に,例えば,倒産処理や企業合併・買収業務においても財務・会計の知識を活用しているし,医療過誤事件においては医学知識を,建築紛争については建築学の知識を,特許紛争においては理工学等の知識を,著作権紛争においてはコンピューター・プログラムや美術・音楽等の知識をそれぞれ法律事務の処理の必要に応じて修得し,これらの業務を行っており,裁判官もこの点は同様である。これらについて,何らの不都合も疑問もない。

日本税理士会連合会の主張は,会計学の知見がなければ税務を行うに不適であるとするものであるが,これは租税法務の概念を極めて狭小に捉えるものである。そもそも,「ある分野の法律事務を行うためには,その分野の科目の試験を経ていなければならない」との論理は成り立たない。このことは,上記のとおり医師,建築士等の試験を経ていないにもかかわらず,その分野の法律事務を弁護士・裁判官が現に支障なく行っていることから明らかである。

なお,税理士試験に会計科目が課されているのは,税理士制度において,税務代理において争点となる事項が法解釈ではなく計算にかかわる問題である場合も多くあり,また,税務書類の作成や税額の計算に関する事項の相談など,税務の分野では計算に強い専門家のニーズが高いと思われることから,計算についての高度の専門能力を有する専門家の資格制度を設けたものと考えられること,このことから,会計の専門家である公認会計士以外に,税理士が会計に関する一定の事務を付随業務として認められたと考えられる。


https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_130214_4.pdf

現在の税理士試験の本質

さすが弁護士の書く文章は説得力があると思わされます。私はこの意見には全面的に賛同します。

税理士業務の本質は、税法領域における法律事務であるとしていますが、これは税理士法2条(税理士の業務)、そして税理士会が誇りにする無償独占について定めた52条からも明らかです。会計は自由業務であり,税理士法上も付随業務として定められているに過ぎません。つまり、帳簿記帳や会計処理は税理士業務の前段階として付随的に行っているだけであって、ご存知のように誰が行っても法律上の制限はありません。税理士という職業の本質は、税法という分野における法律のエキスパート(専門家)であり、税理士はその資質を備えていることが求められているわけです。

しかしながら、現在の税理士試験について、「専ら行政解釈等に則した税額の正確かつ迅速な計算能力が試されるもの」との指摘は、的を射たものと思われます。多くの税理士試験受験経験者が感じているように、税理士試験は、税法や通達をひたすら暗記しそのまま吐き出すような形式であり、あるいは如何に早く正確に電卓を叩き答案用紙を埋めるか、という職人芸を競う試験になっています。「見解の分かれうる論点等に関する法的思考能力を問うものではなく」、こうした試験を経て苦難の末に税理士となった者が、法律解釈の能力に優れているはずもなく、ただ通達を行政の指導の通りに当てはめるだけの、モノを考えない税理士を量産しているのでしょう。

「税理士の行った不服申立ての記載が, 〜 基本的な実定法を踏まえた税法解釈に基づくものにはなっていない例が多々見受けられる」という指摘は、具体的にどういったことかここでは詳しくわかりませんが、弁護士から見れば法律の常識的な形式に沿っていない不服申し立てを税理士が行っているということでしょうか。専門家として、税理士業界が恥ずべきことですが、当の税理士が何を言われているのか理解すらしていない可能性があります。

この意見書は、税理士業務を弁護士は当然に行えるべきであるとする意見表明であると同時に、現行の税理士試験の内容についての痛烈な批判でもあると見ることができます。

税理士会は税理士試験に真剣に向き合うべきである

そもそも税理士会が、税理士試験の内容、本質に踏み込んだ意見を表明しているのを見たことがありません。私が税理士会の出す文書をつぶさに見ておりますと、過去に税理士法の改正議論において、税理士試験について意見を交わしているものもありました。しかし、そのほんとんどが科目の改廃、免除制度についてが中心で、試験制度や問題が適切であるのか、試験内容から将来の税理士にどのような能力を求めているのかといったことは、全く見えてきません。

弁護士会が上記意見書のように、税理士試験について冷静に分析しているのに対し、税理士会は税理士試験の内容について真剣に検討したことがあるのでしょうか。私が税理士試験制度について一年以上かけてあらゆる資料を調査してきて感じる印象を遠慮なく書いてしまえば、税理士会にとっての関心は無償独占業務を守ることであり、試験はその手段でしかないのではないでしょうか。ですから、現在の税理士の利益を守る為、如何に絞ることにしか関心がなく、試験制度が如何に不合理で受験者にとって負担の大きいものであっても関係ないのでしょう。司法試験や会計士試験が、2000年代の試験制度改革を経て、どういった試験であるべきか、真剣に議論を繰り返し変化を続けているのに対し、税理士試験は議論すら行われず60年以上根本を変えないスタイルを貫いており、もはや伝統芸の域です。

先頃、私は直近の税理士試験試験委員経験者の方と直接会ってお話をする機会を得ました。そのことは改めて記事にしたいと思っていますが、その方は他の試験委員とは直接顔を合わすことも意見を交わすこともなかった、と仰っていました。試験委員を任されたその一人の資質に全てが委ねられている、異常な試験の姿です。そうやって、細々と繋いできた伝統芸は、受験者の急減という答えをもって、その限界を見せようとしているのではないでしょうか。今こそ、税理士会が税理士試験に真剣に向き合わなければ衰退の流れは止まらないと考えます。(つづく)