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税理士試験受験者は激減だが、税理士の数は減っていない

税理士試験の受験者が減り続けていることには税理士会も危機感を感じているようで、様々な施策を行なっています。特に日税連に現会長神津信一氏が就任してから精力的に行なっているように感じます。

しかし、税理士会は根本的な認識を誤っているのではないでしょうか?

目次

税理士試験の受験者は激減、特に若者の減少が顕著

以前にも示した通り、税理士試験の受験者は過去10年で3分の1減少し、最新の実績でもその漸減傾向に変わりはありませんでした。そして20代の落ち込み方は全体よりも顕著で、9年前からほぼ半減と、特に若者は税理士試験を受けなくなっているということを伝えました。

統計を踏まえた分析は下記の記事で行っていますので、こちらを見ていただくのがよろしいかと思います。

税理士会は税理士のイメージ向上策に躍起

税理士会でもこの点は問題視しており、数年前から対策に乗り出しています。日税連の機関紙に掲載されていたコラムを引用します。「税理士を目指す受験者の減少は税理士制度の弱体化につながりかねず、深刻な状況である。」としており、「現在、日本税理士会連合会では、社会全体における税理士・税理士会の認知及びイメージの向上を目的として対外広報に力を入れている。」とのことです。

『税理士界』第1356号

日本税理士会連合会機関紙『税理士界』第1356号(平成29年9月15日発行)より引用


日税連の行う税理士のイメージ向上キャンペーンが以下のリンク先にあります。学生向けの職業紹介パンフレットやウェブコミック、動画が公開されています。

受験者が減っている原因は何か?

税理士試験受験者の漸減傾向は日経新聞等の一般誌でも報じられていましたが、業界紙ではよりセンセーショナルです。『税理士新聞』第1565号(2017年8月15日号)に「業界の危機 受験者数の減少を止めろ!」と題した記事が1面に掲載されました。同紙では、少子化による人口減を上回る減少の要因として、ブラック業界という風評と、税理士試験の不透明さがあるとしました。

税理士新聞』第1565号(2017年8月15日号)

税理士新聞』第1565号(2017年8月15日号)
エヌピー通信社様の許諾を得て掲載。

都内で10人ほどの所員を抱える税理士のR氏は、「若いうちは汗をかいて当たり前。自分の頃は3日の徹夜も普通で、仕事以外の雑用も全てこなした。そうして一人前になっていく」と自身の経験を元に述べ、そのうえで給料については「仕事を覚えさせるのだから授業料をもらいたいくらいだが、労基法上の問題があるので給料を払っている。もちろん能力に応じてだから最初は最賃に近いものになる」と、安月給も理に適ったものだと語った。そのうえでT氏のような税理士の卵が抱える不安について、「資格だけで食っていけると思っているのが甘い」と一蹴した。

(中略)

さらに、こうした「ブラック」の風評以外にも、税理士試験を避ける原因になっているのが試験そのものの不透明さだ。

(中略)

税理士試験は各科目とも満点の60%が合格基準と言われているが、受験者は試験の正答も点数も採点基準も知ることができず、一方的に合否を伝えられるだけだ。Y氏は「税務署OBの一定枠を確保するために合格者数を調整しているのではないかと勘ぐってしまう。5年も10年も受験を続けている人がいるが、自分はそこまで続くかどうか分からない」と不満を述べる。情報公開がこれだけ進む時代に、税理士試験の不透明さは極めて珍しいシステムだ。2〜3科目合格したものの、途中であきらめてしまう人が多いというのも無理はないことかも知れない。


エヌピー通信社『税理士新聞』第1565号(2017年8月15日号)


ブラック業界という評判については、特に会計事務所の一職員であるうちは、傾向として低賃金・長時間労働にあるのは否めません。知識の蓄積を必要とする専門職でありながら、それに見合った待遇は小規模な会計事務所ではあまり期待できません。給与計算や決算を委託されている顧問先の会社の従業員の方が、指導をしているこちら側よりもいい給与をもらっているということを知ってしまう場面もあります。

試験の不透明さについての記述は、私がこのblogで繰り返し書いてきた論調を踏襲するものになっているようです。


税理士新規登録者の数は減っていない

さて、ここまで、「税理士試験の受験者が減っている ⇒ 税理士のなり手が減っている」という前提を基に話が展開されてきました。しかし、私はこの見方に異を唱えます。一体何を見ているんですか?あなた方の目は節穴ですか?


税理士試験の受験者数は近年激減(10年で3分の1減少)していますが、税理士に新規登録する人数はこの10年全く減っていません。こちらの統計を見れば一目瞭然です。

税理士新規登録者/試験合格者数

税理士登録している総合計の人数をこちらに示します。

年度末税理士登録者数

年度末税理士登録者数



税理士の数は、制度発足来一度も過年度を下回ったことがなく増え続けています。税理士業界は高齢化が進んでいますから、今後、新規登録者より抹消者の数が上回るようになり総計も減少に転じると予想されます。これは、社会全体の人口ピラミッドが偏っているからで当然の流れと思われます。

日税連登録調査部の報告(平成23年度登録事務事績)によると、「平成23年度の新規登録者数は前年度より318人増加し2716人(うち女性411人)となった。これは、平成22年度が税務署職員の退官時期の延長により新規登録者数が前年度比で244人減少したことの反動であると思われる。」としています。つまり、税理士登録者の数は、試験合格者の数云々よりも、税務署職員の退官人数に左右されるインパクトの方が大きいという構造になっています。試験受験者の数だけを見て税理士全体の話をしても意味がないのです。


試験合格から試験免除へのシフトが起きている

税理士登録するのに税理士試験合格以外のルートが多数あることは、業界の皆様ならよくわかっていることです。以下は、税理士登録者の資格別の内訳です。

税理士 資格別登録者数

平成28年度末(平成29年3月31日)現在での、全税理士に占める試験合格者の割合は45%ですが、平成28年度一年間での登録者に限って言えば30%を切っています。代わりに増えているのが試験免除者の50%、公認会計士の17.9%と弁護士の2.3%です。この通り、昔に比べ、時間をかけて税理士試験で5科目合格を取得しようという者は減り、大学院で学位を取得しての試験免除や、会計士試験へのシフトが起きているのは、統計からも明らかです。


その原因としては、現在の試験制度が科目合格制で競争率が過度に高いため負担が大きく、合格までにかかる年数が長過ぎること、試験の採点や合格基準が不透明であること、税理士としての能力を測るのに適した問題ではないこと、等が考えられます。詳しくは以下の記事で書いています。



最近6年間の新規登録者の内訳をグラフにしました。

税理士 資格別新規登録者数



上記の表の数字は、日税連に実際に登録がある数字ですから、数字としては正確ですが、実際の登録者の属性をわかりやすく反映したものにはなっていません。それは、試験免除の中に、大学院修士号取得による免除と、税務職公務員の勤務歴による免除が一緒になっているからです。修士号取得による免除の実数がどれくらいあるのか、公開されている統計はありませんが、独自の推計を試みました。

修士号免除による税理士資格取得者(推計)


『税理士実態調査報告書』により、試験免除等による一定の登録者の合計から、前職が税務職公務員であると回答した者の割合を引き算して、残りを修士号免除による税理士資格取得者と仮定しました。この推計によれば、平成6年には5%しかいませんでしたが、20年で3倍に急上昇し、平成26年には15%になったのではないかと考えられます。しかもこれは、古くから登録している全税理士総合計の中に占める割合です。近年、修士号免除者の割合が急増していることを考えれば、直近の単年度における修士号免除者の割合は、試験合格者の30%にかなり近い数字まで迫っているのではないかと予想されます。
(追記:免除者の内訳が国税庁への開示請求によって判明しました。下記リンク先参照。)


上記の日税連の登録による分類について、さらに付け加えると、試験合格者の中には一定数の試験免除者が含まれ、試験免除者にも試験合格者が含まれているため、結局正確な数値はわかりません。どういうことかと言うと、平成25年度登録事務事績の記載をそのまま引用しますが、「試験免除者は、税務官公署退職者や大学院修了者が一般的であるが、試験合格の場合もある。例えば税理士試験4科目合格者は、4科目について免除申請のうえ1科目を受験し合格すると試験合格者となるが、免除申請せず2科目以上受験して合格すると、後日、国税審議会に申請して試験免除者となる。また、税務官公署退職者が会計科目を試験合格し税理士登録すると試験合格者となる。このように税理士名簿の登録は、税理士試験合格証書か、免除決定通知書が添付されているかで分類している。」という実情があるのです。修士号免除者も、先に税法の免除を受けてから会計科目の簿財に合格すると、試験合格にカウントされます。ですから、試験合格者(5科目)と免除者の正確な割合がわかる統計は恐らくどこにも存在しません。


なお、税理士登録できる資格については、以下の記事でも詳しく解説しています。



関連して一つ言っておきたいのですが、税理士試験の受験者の中には、5科目試験合格することを正統派のように考えて、修士号免除(俗に「大学院免除」「印面」等と呼ぶ。)を下に見るような向きがあるようですが、全く意味のない拘りとプライドであると私は思います。その理由は、残念ながらこの試験に合格したことが税理士として優秀であることの担保には全くなっていないと考えられること、昔のダブルマスターが横行した時代と違い修士号免除でも一部の科目合格が必須であること、試験合格・免除により法律上・実務上も資格が区別されていないこと、等です。
ついでに言えば、5科目合格のことを俗に「官報合格」と言っていますが、試験免除者も官報に載りますからね(例年6月頃の官報に、前年度中に試験を免除された者の名前が一括して公告される。)。試験合格だけが「官報」かのように言いますが、厳密なことを言えば免除者も「官報」ですから、言葉を正確に使って頂きたいものです。


税理士会は方向性を誤っている

統計を見てわかるのは、税理士業界を目指す人が減っているということではなく(そのような事実は統計からはわかりません)、実際に税理士登録する人が減っているわけでもなく、多数あるルートのうち税理士試験というルートがその非合理性ゆえに敬遠されているだけという事実です。そんなことは、税理士の登録事務を行なっている日税連は、わかっているはずです。なぜ、この事実を見て見ないふりをして、明後日の方向に労力を投下しているのか、不思議でなりません。もし仮にこの事実に気づいていないのだとしたら無能としか言いようがありません。


「税理士試験の受験者が減っている ⇒ 税理士志望者が減っている」という仮説の立て方が間違っているのです。税理士会は、問題発見と解決のプロセスにおいて、根本的な認識を誤っていると言わざるを得ません。税理士のブログやニュースサイト等でも皆一様に「税理士志望者が減っている、大変だ」という論調で書いています。が、現に税理士の総数は増えており、試験合格・修士号免除・会計士を合計した割合も増えているのです。(減っているのは国税OBです。)少子化で個人・法人企業の数も減り、経済活動が縮小へと向かって行く日本において、税理士の数がこのまま増え続けていけば、むしろ後々問題となるでしょう。


もちろん、若者向けの広報が全く必要ないとは言いません。税理士の人気や認知が低下すれば、志望者の質も下がり、長期的に見て業界全体の地位が低下するでしょう。ですから、日税連の広報活動の全てが無駄とは言いませんし、一定の効果はあるでしょう。しかし、先の『税理士界』のコラムでも自ら書いているように、「先日実施した対外広報活動の効果測定では、他士業との比較において名称の認知はトップクラス、業務内容の認知は弁護士に次ぐ高いレベルではあったものの、税理士イメージの向上にまではつなげられていないことが課題となっている。」ということは、認知度は既に十分ということではないでしょうか。認知度とかイメージ向上とかの広報活動に資源を投じるよりも、会員に労働基準法の遵守を徹底させた方がよっぽど業界のイメージ向上に繋がるのではないかと思います。政府の「働き方改革」の声も喧しいことですし。


税理士会が行うべきは、試験制度の改革

繰り返しますが、税理士の認知度が低いから、税理士試験の受験者が減っている、なら、広報活動で認知度を上げれば回復するでしょう。現状は、税理士の認知度は十分あるけど、あるいは、税理士になるのもいいけど、税理士試験を受けるのはやめておこう、というのが若者の判断なのです。誤った命題に基づいて広報活動を行っても、税理士試験の受験者増加には繋がらないと考えます。税理士会は、「税理士試験の受験者が減っている ⇒ 税理士試験制度に問題がある」と考え、そちらの対策を行うべきです。



税理士会が試験制度について議論すると、大抵が科目の是非、免除制度、会計士への資格付与等の問題が中心で、税理士有資格者を絞って現税理士の利益を確保することにばかり関心が向いているように感じられます。肝心の試験の中身が適正であるか、どういった内容であるべきかという議論をしているのを見たことがありません。下記の記事の後段で述べたように、税理士会は税理士試験に真剣に向き合うべきです。


私が一年以上かけて調べて判明した事実を資料に添付して、国税庁に訴え、税理士会に訴え、受験予備校に呼びかけしてきたのですが、今のところ、組織としてはどこも連絡をくださりません。受験生、税理士、予備校講師の方で個人的に連絡をくださった方は多数いらっしゃるのですが。私の知る限り、税理士志望者が減っていないことをデータを示して指摘した人は今まで誰一人いません。私の見方が間違っていたらどうか教えて下さい。この記事を書くのにも、私自身の勉強時間を犠牲にして、2ヶ月前に書き始めて、20時間以上はかけて書きました。そろそろ、税理士試験の問題について税理士に動いてもらいたいと思っております。皆様も、私の主張に理があると思って頂けたなら、このページのURLを添えて、日税連のご意見受付へ直接送って頂きたいと思います。よろしくお願いします。


www.nichizeiren.or.jp