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マイナンバーとクラウドソフトで年末調整の仕事は5年後にはなくなる?

私の事務所では年末調整の準備を始めまして、これから年末まで忙しくなるぞ、という感じです。BIG4税理士法人に勤める友人に聞いたところ、「年末調整?何やるの?」という感じで我々とは世界が違うようです。(BIG4が相手にするような大手企業は、年末調整は自社の総務・経理部門か外注先で完結するため、ほとんど関わることがないようです。)

今回は年末調整に関連して、会計事務所の仕事の今後の話です。

目次

今年(2019年)の年末調整で変わるところ

年末調整で作成する書類について、今年は何か変わったところがあるかというと、昨年からほぼ変わりはありません。

今年の年末調整で一緒に記入することになる、令和2年分の「扶養控除等(異動)申告書」(マル扶)について、2箇所変わったところがあります。

  • 「単身児童扶養者」欄が加わった

未婚のひとり親(シングルマザー・ファザー)が住民税の非課税対象になったことによるもの

  • 「源泉控除対象配偶者」「同一生計配偶者」の所得金額が10万円増えた

基礎控除が10万円増えることによるもの

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詳しくは、税理士・木村聡子さんのページなどを見るとわかりやすいと思います。


年末調整・法定調書の記載チェックポイント(令和元年分)

年末調整・法定調書の記載チェックポイント(令和元年分)

来年の年末調整で変わるところ

来年から、基礎控除が10万円拡大&高所得者は段階式縮小、になるのに合わせて、また新しい申告書ができます。「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というものです。

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変更を予定している年末調整関係書類(事前の情報提供)|国税庁


高所得者の課税を強化する方向性に私は賛成です。また、基準を一律に定めると境界事例で不公平があるので段階的に控除を縮小するという理念も理解はできます。しかし率直に言って、「財務省の役人はバカじゃないのか?こんな細かく複雑な制度に全国津々浦々の国民全てが対応できると思っているの?」と思います。


ちなみに、以下は去年の年末調整で新設された配偶者控除等申告書(マル配)についての私の感想。画像は、私が作成した企業担当者向け年末調整セミナーのスライドです。



ところがこんな複雑で現実的でない制度も、将来の年末調整電子化を見越すと、国税庁が勝手に計算して正確に徴収するようになるから問題ないと思っているのかもしれない、と思うようになってきました。

2020年から始まる年末調整の電子化

来年、2020年から年末調整が電子化します。保険会社等から控除証明書の電子データによる提供が始まり、従業員はマイナポータル等を通じて入手します。それを国税庁が無料で配布する年末調整ソフトに取り込むと、自動で控除額が計算され控除申告書が作成できます。控除データはオンラインでそのまま勤務先(会計事務所)の給与計算(年調)ソフトに提出することができる、とのことです。

ICTの活用による年末調整手続の簡便化のため、年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)(※)を無料で提供します。【令和2年10月導入予定】

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2017/syouraizou/pdf/syouraizo_r0106.pdf

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http://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/pdf/nencho_gaiyo.pdf

(ところで、国税庁の資料にも「いらすとや」がふんだんに使われていますね。恐るべき浸透率。)



これまで会計事務所の年末調整の作業は、従業員一人一人が記入した控除申告書が正しく計算されているか、添付書類が漏れ無く添付されているか、といったことを顧問先企業に指導し、チェックするということに膨大な手間と時間を費やしていました。これが自動化される意味はとてつもなく大きいです。


この時点では、企業や会計事務所の給与計算(年調ソフト)を通して、年末調整データを税務署や地方行政に提出するという流れになっています。しかし、マイナビニュースと日経新聞の記事によると、これをさらに進め、政府認定のクラウドサービス上に給与データ等を置き、税務所等がそこにアクセスする仕組みを2021年度にも行う予定だとのことです。

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中小企業にとってのマイナンバー制度とは?(86) 2021年度、年末調整がなくなる?! | マイナビニュース


これが実現すれば、会計事務所の年末調整の仕事は大幅に負担軽減され、5年後にはなくなると思います。

マイナンバーの本格導入で実現する効率化

マイナンバーの運用は2016年(平成28年)から始まりました。今のところ、マイナンバーで何かが大きく変わったという実感はありません。本格的に運用されるのはこれからです。個人情報の流出という不祥事もあって遅れていましたが、ねんきんネットとの接続もスタートしました。医療費控除は2021年から連携するようになります。

政府の運営するサイト「マイナポータル」にアクセスすれば、マイナンバーに結びつけられたあらゆる情報、所得や、預貯金、医療費、社会保険、運転免許、パスポート等が見られるようになり、そこからあらゆる行政手続きが一元に行えるようになっていくものと思われます。マイナンバーの運用がさらに進めば、行政手続きの効率化と課税の適正化が図られるようになるでしょう。



私の数年前からのマイナンバーに関する考察を以下に載せます。着々と実現が近づいていっています。


確定申告に必要な控除証明書等の情報をマイナポータル経由で一括入手し、そのデータを確定申告書に自動入力できる仕組みの実現に向けた検討を行っています。

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「税務行政の将来像」に関する最近の取組状況~スマート税務行政の実現に向けて~(令和元年6月)

政府の運営するマイナンバーのサイト、マイナポータルがこちら。現在の目玉機能は子育てワンストップサービス(子育てに関するサービスの情報提供)のようです。

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会計事務所の仕事はどうなっていくか

マイナンバーの普及と電子化が進んだ先、この業界の仕事はどうなっていくでしょうか?会計事務所として年末調整に関わる仕事は減っていくでしょうね。今のBIG4税理士法人がそうであるように。生産性の低い煩雑な作業に取られる時間が減るわけで、この流れは歓迎すべきことと考えます。


一方で、電子化の動きについていけない中小企業は紙の作業が当分残ると考えられ、そうした中小のIT化の支援も会計事務所に求められる業務かもしれません。そうなったときに、薄利多売の今までのような報酬で見合うかというと、2倍、3倍にしていかないと割りが合わないと思います。


今でも、ITリテラシーの不足した顧問先の対応に苦慮するという場面が私の周辺では見られます。最近はクレジットカードの明細や携帯電話の請求書等が郵送を廃止して、ネットで見るよう誘導する流れが進みつつあります。しかし、顧問先の中には、ログインの仕方がわからない、PDFの保存・開き方がわからない、プリンターがない等でスムースに資料を入手することができません。スマートフォンでスクリーンショットを撮ったものをメールに貼り付けてもらうまでできるように教えて、妥協していたりします。*1

業務の効率化を進めていくと同時に、そのような流れについてこれない顧客とどう付き合っていくか、(あるいは切り捨てるのか、)というのも、中小零細を相手にする町の会計事務所にとって課題だと思っています。


会計事務所クラウド化マニュアル ~AI時代のサバイバル戦略~

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*1:何ページにもなって見難かったり、不完全だったりするので、あまり効率的ではありません。自力でできないのであれば郵送に切り替えてもらった方が楽だと思うのですが、有料なので渋られたりもして。