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『会計人コース』 10 月号でも税理士試験問題の不適切性が明らかに

目次


中央経済社『会計人コース』2016年10月号(9月3日発売)に特集「第66回税理士試験徹底分析」が掲載されました。今年の税理士試験で、与えられた資料から正解を導き出せないとして特に評判の悪かった、法人税法と消費税法については、解説を書いている講師が記事の中で疑問を投げかけていますので、ここに引用します。

公に出版され記録としても半永久的に残る誌面上で、専門家が実名で批判していることからも、客観的に見て税理士試験問題が如何に不適切な問題であるか、ということが見て取れます。企画の趣旨としては、出題分析と合格への対策ですから、これでもなるべくマイルドに抑えて書いているのではないかと思われます。

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「第66回税理士試験徹底分析」

法人税法

専門学校東京CPA会計学院講師 新山高一

出題の分析

理論問題
問1は、 ( 中略 ) 本試験の答案用紙だと、書き損じをした場合に書き直すためのスペースがない。問1の答案用紙は、余白部分が非常に多いため、そのぐらいのスペース分の行数を増やすことは十分にできるはずである。それにもかかわらず、解答できる行数が非常に少ないことを考えると、試験委員が採点を楽にしたいがために解答スペースを狭くしているとしか思えない答案用紙であった。

『会計人コース』2016年10月号 p.15

解答欄が狭すぎる問題というのは、過去の試験、別の科目でも出題例があります。理論問題では、暗記してきた法律条文をそのまま一言一句書き出すというありがちな解答の作成方法に対し、本当の法令の理解力を問うため、指定した分量での要約を要求するという問題の手法としてならば、良い問題としてありえます。

しかしながら今年の法人税法の問題では、そうではなく、試験委員が採点を楽にしたいがために、わざとミスを誘発するような解答欄を用意し、採点対象者を絞ろうとしている意図が感じられると、解説者は指摘しています。

計算問題
 ( 中略 ) しかし、今年も残念ながら、問題文にところどころ雑な部分が見受けられ、説明不足のため、解答が分かれる箇所がいくつかある。
税理士試験の採点は、単に結果のみではなく、解答を導き出す思考過程や計算過程なども十分に考慮して行っていることから、その「解答を導き出す思考過程や計算過程」を見ているのであれば、複数解も納得できるが、解答スペースを考えると、「思考過程や計算過程」を見ている感じはしない。受験生が混乱するので、解答は1つになるようにしっかりと問題を作成してほしいものである。
 ( 中略 ) 受取配当金は、貸倒引当金が注記で記載されているのか、負債の部に計上されているのか不明である。おそらく、どちらで解答しても採点されるかと思われる。
 ( 中略 ) 前期以前の特記事項は、機械装置が「2.A社との取引」に出てくる機械装置と取得価額が同額であるため、同じものだと思った受験生が多かったが、これは前期以前に取得した機械装置である。ただし、前期以前に取得した機械装置に気付いたとしても、いつ取得したかが不明であるため、未償却残額が算定できず、償却限度額が計算できない。ここで合否が分かれることはないだろう。
 ( 中略 ) デリバディブ取引は、売買目的有価証券に係る評価損の金額が「4.受取配当金」に掲げるE社株式の前期末帳簿価額と当期末帳簿価額の差額と一致するが、当該評価損がE社株式に係るものなのか不明である。ヘッジ自体は繰延ヘッジを適用すればよいが、評価損の処理をどうするかで判断がわかれるところである。

『会計人コース』2016年10月号 pp.15-16

「単に結果のみではなく、解答を導き出す思考過程や計算過程なども十分に考慮して」というのは、「第51回税理士試験財務諸表論の模範解答及び採点基準の分かる文書の不開示決定(不存在)に関する件」として出された「平成15年7月24日(平成15年度(行情)答申第208号) 」の中で明らかさにされた「採点の過程について」という部分で使われた表現ですね。しかし、この問題は、そのような「思考過程や計算過程」を見るにふさわしい問題ではなく、単に試験委員が雑に問題を作ったため、解答が複数生じることになってしまったと指摘しています。

機械装置については、問題の不備により償却限度額が計算できないため、「ここで合否が分かれることはないだろう。」と解説者は言っていますが、希望的観測に過ぎません。このようなずさんな問題を作る試験委員ですから、試験委員の頭の中で想定している答えだけを無理矢理正解にして、他の解答はバツにしている可能性も否定できません。


消費税法

税理士 渡辺章

Ⅰ 全体の特徴

 ( 中略 ) 一方の計算問題であるが、とにかく資料が読み取りづらい。内容以上に解きづらさが際立つ、そんな試験だったのではないだろうか。新設合併と吸収合併が立て続けに行われており、ただでさえ問題設定が複雑であるにもかかわらず、その上さらに資料の与え方がところどころ曖昧ときている。資料の読み取りに時間を費やし、資料不備から判断に迷ってさらに時間を費やす。内容とはかけ離れたところで、ジリジリとしながら戦っていた受験生が実に多かったのではないだろうか。これも含めて試験ということなのだろうが、資料を落ち着いて整理できたかどうかという要素が大きく合否に影響してしまう残念な試験だったように思われる。

『会計人コース』2016年10月号 p.20

消費税法は、異例ずくめの出題だったようです。単に、過去に出題されたことがない設定が出題されたというだけで悪問ということはできませんが、それは試験で問う設定としてはふさわしくないから出していなかったものを、大胆かつ臆面もなく出題してきたということで、本試験で初めて見た受験者は大混乱に陥りました。

Ⅱ 理論問題

 ( 中略 ) ところで、出題された事例(6)については、国税庁のHPにある「輸出物品販売制度の改正に関するQ&A」を元ネタとし、これに少しアレンジを加えたものだと思われる。昨年度出題された事例が、すべて国税庁のHPにある質疑応答事例から何の捻りもなくそのまま出題されるという大変お粗末なものであったことを考えると、今年度に関してはそこまでの手抜きは行われなかったようである。

『会計人コース』2016年10月号 p.20

税法科目の理論問題部分は、国税庁の課長級の職員が作問していると思われますが、去年ほどではないにしろ手抜きだと言っています。ちなみに、昨年の相続税法理論、問2の「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」の事例問題では、国税庁HPにある「結婚・子育て資金の贈与税の非課税のQ&A」に金額までほぼ同じ設定の事例がありました。


Ⅲ 計算問題

本試験では初となる、新設合併があった場合の中間納付税額の計算が出題された。また、新設合併と吸収合併の両方が絡んだ場合の納税義務判定という論点も過去に出題されたことがない。そういった意味では、解答するに当たって斬新な問題設定だったと言えるのかもしれない(実務上、このようなケースに遭遇する税理士はごく希だと思われるが…)。

 ( 中略 ) ただ、意図してのことなのかどうかはわからないが、とにかく曖昧な資料が散見される。比較的丁寧な資料を提供する受験専門学校の試験ではないので、本試験独特の大雑把な表現がなされたとしても、それはそれで割り切るしかない。しかし、その曖昧な表現によって解答が分かれるのであれば、別解を認めてもらわないと受験生としては納得ができないであろう。

『会計人コース』2016年10月号 p.21

この後誌面では、別解の生じる気になる箇所として大きく6つに分けて、疑問を呈している。全部紹介したいところだが、長くなりすぎるのでここでは一部に留めたい。気になる方はページ上部のリンクから本誌の購入を。

(1)マンションAの販売収入
マンションを販売する場合、実務上の常識で考えれば建物部分と土地部分の一括譲渡となる。したがって本問のマンションAの販売についても、問題上は特に指示されていないが、建物部分と土地部分の一括譲渡として処理することになる。
 ( 中略 ) 
ところで、「マンションA(区分所有建物)」という表現が非常に紛らわしい。 ( 中略 ) 試験委員がどのような意図でこのカッコ書きを入れたのかはわからないが、本当に不必要な資料である。

(2)ソフトウェアのリース料
所有権移転外ファイナンスリース資産につき賃借料処理を行っている場合には、その仕入控除税額について、その引き渡し時に一括控除するのか、会計処理に合わせて分割控除するのかはその事業者の選択となる。さて、本問ではどちらを選択するのかの指示がない。
 ( 中略 ) 
問題上の指示がない以上、どちらを選択したにせよ、採点上は差をつけてはいけないものと考える。
ところで、分割控除と考えた場合、リース料のうち利息相当額は非課税として仕入税額控除の対象とはならないわけだが、当課税期間分の利息部分は一体どのように算出するのでああろう?
 ( 後略 ) 

(4)固定資産台帳
資料の与え方や解答用紙のスペースから見て、試験委員は調整対象固定資産に関する調整を論点として出題している。ただ、どこまでを解答すればよいのかがはっきりとわからない。
 ( 中略 ) 
しかし、受験生からしてみれば、目の前の資料を処理することで時間に追われ、そのような試験委員の出題意図までを考える余裕などはないであろう。
 ( 中略 ) 
過去の本試験においても調整対象固定資産の論点については、曖昧な指示のもとに出題された経緯があるが、このような曖昧な指示のもとに出題し、やたらと数だけ多くて、いたずらに時間を浪費させるような出題については到底賛成しかねる。
 ( 後略 ) 

(5)国外移送
パソコンが自己の使用のために海外支店に向けて移送されており、その輸出の事実につき輸出証明もなされていることから国外移送の特例が適用され、そのFOB価格が課税売上割合の分母と分子に計上されることになる。ところが、肝心なFOB価格が問題上どこにも示されていないのである。
 ( 中略 ) 
消費税法に規定がないこのような項目を出題しておいて、消費税法に規定されている重要項目を出題しないというのは一体どういうことなのだろうか!?
 ( 後略 ) 

(6)全額控除方式
これも本試験史上初となるが、計算上は課税売上割合が95%以上、かつ、課税売上高が5億円以下となり、全額控除方式が適用されることとなる。
 ( 中略 ) 
ただ、おそらく受験生のほとんどが、解答上、課税仕入れ等の用途区分を明らかにしていると思われるが、万が一その用途区分が明らかにされていなかった場合、減点するのだろうか?全額控除方式の場合、計算構造上は用途区分を行う必要がないわけで、問題文の指示や解答用紙上の指示もない以上、減点を行うのは酷ではないだろうか。
 ( 後略 ) 

『会計人コース』2016年10月号 pp.21-23

Ⅳ 次年度の本試験に向けて

今年度の本試験もそうなのであるが、問題文の読解能力、解答作成能力、得点すべき箇所の取捨選択、時間配分の巧拙といったように消費税法の内容とは直接関係がない要因が、どうしても勝負所となってしまっている。消費税法の内容を理解しているかどうかを競うのが本試験の本来あるべき姿であり、毎年、本試験を見るたびに理想からかけ離れていくようで悲しい。

『会計人コース』2016年10月号 p.23

解説は「残念な試験」で始まり、不備だらけの問題にヒートアップしひたすら疑問を投げかけ、「理想からかけ離れていくようで悲しい」と締めています。明らかに点の取れなそうなところを捨てて取れるところで点を稼ごうにも、これほど全編に渡って不備だらけでは、避けようにも避けて通れません。受験者は問題の校正をやっているのではないのです。

一年間みっちり勉強をしてどんな問題にも対処できるように仕上げてきて、実際にこのような解答不能な酷い問題を出された受験者の内心たるや、推して知るべしです。

しかし、この記事を読んで「よくぞ言ってくれた」と溜飲を下げ、満足していては全く解決になりません。

この記事を材料に、国税庁、国税審議会に問題の不備を認めさせ、二度とこのような酷い問題を出題させないように約束させなければなりません。



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