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判決「法務大臣は原告の旧司法試験論文式試験の科目別得点を開示せよ。 」福岡地裁判決平成22年1月18日

税理士試験解答用紙の開示請求・審査請求・その後の行政訴訟を見据えて、同種・類似事例での判例を調べていました。参考となる判例を見つけましたので、以下に紹介します。

目次

平成13年度司法試験第二次試験論文式試験の科目別得点の開示請求事件

概要

【裁判所】 福岡地方裁判所
【裁判年月日】 平成22年1月18日
【見出し】 保有個人情報不開示決定取消等請求事件

【概要】

本件は,平成13年度の司法試験第二次試験論文式試験の受験者である原告が,法務大臣に対し,行政機関個人情報保護法に基づいて,法務省が保有している原告を本人とする保有個人情報である平成13年度の司法試験第二次試験論文式試験の科目別得点(以下「本件個人情報」という。) の開示を請求したところ,本件個人情報を開示すれば司法試験事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとして,本件個人情報を開示しない旨の決定を受けたため,本件不開示決定の取消し及び本件個人情報の開示の義務付け(行訴法3条6項2号,37条の3)を求めた事案である。



判決概要・要旨

判決本文

重要箇所のみ抜粋。

判決
主文

1 法務大臣が平成20年6月27日付けで原告に対してした原告の平成13年度の旧司法験第二次試験論文式試験の科目別得点を開示しない旨の決定を取り消す。
2 法務大臣は原告に対し原告の平成13年度の旧司法試験第二次試験論文式試験の科目別得点を開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。




事実及び理由


(2) 本件訴えの経緯
ア  原告は,平成13年度の旧論文式試験を受験したが,不合格となった。原告の同試験における科目別順位ランクは,憲法がB,民法がG,商法がG,刑法がC,民事訴訟法がC,刑事訴訟法がFであり,総合順位ランクは,Fであった(甲5)。
 その後,原告は,平成17年度の旧司法試験に最終合格し,弁護士となった。
 その間及びその後,原告は,原告に係る平成13年度の旧論文式試験の科目別得点(本件個人情報)の開示請求等を繰り返した。


3  争点及びこれに関する当事者の主張
 本件の争点は,本件個人情報が法14条7号柱書(開示することにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの)に該当するか否かである。




第3  当裁判所の判断


2  本件不開示決定の取消しについて

(1) 法14条7号柱書の事務支障のおそれの程度
 法1条は,行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定めることにより,行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ,個人の権利利益を保護することを目的と定め,法14条は,開示しないことに合理的な理由がある情報を不開示情報として具体的に列挙し,不開示情報が含まれない限り,開示請求に係る保有個人情報を開示しなければならない旨定めている。
 このような法の趣旨に照らせば,法14条7号柱書に定める「支障」の程度は,名目的なものでは足りず,実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も,単なる抽象的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が必要とされるものと解すべきである。


(2) 答案のパターン化による旧司法試験の選抜機能の低下について


ウ  被告は,一人の受験者の科目別得点が判明するだけでも,司法試験予備校等は,それが高得点であれば,その者の再現答案に基づき,模範答案を作成することが可能であるし,仮に低得点であれば,低得点となった原因を分析し,他の受験者らによる再現答案と比較するなどして優劣をつけて模範答案を作成し,あるいは,書いてはいけない論述の類を公表するおそれが高まると主張する。
 しかしながら,本件個人情報が開示されたとしても,平成13年度の旧論文式試験の他の受験者の得点はもはや存在しないため,得点を比較することができないから、開示された原告の科目別得点が,既に原告に通知されている科目別順位ランクの中で上の方になるのか下の方になるのかまでは判明しないことに照らせば,本件個人情報が開示されることによって,原告の答案をより分析しやすくなるとは認め難いし,そもそも,科目別順位ランクを利用して再現答案に優劣をつけることが可能である現在においても,司法試験予備校等が模範答案を作成したり,書いてはいけない論述の類をパターンとして公表したりしている事実を証拠上認めることはできず,被告の主張は抽象的な可能性に過ぎない。
 よって,被告の上記主張は採用できない。

オ  同一受験者の異なる科目の答案との比較
 被告は,各科目の点数にバラつきがある場合には,高得点の答案と低得点の答案を比較するなどにより,どのような理由付けや論理の運びをすれば,高得点との評価を受けるかを分析・検討することが可能になるなどと主張する。
 しかしながら,科目別順位ランクを利用して再現答案に優劣をつけることが可能である現在においても,司法試験予備校等が異なる科目の答案を比較して,どのような理由付けや論理の運びをすれば,高得点との評価を受けるかを分析・検討し,検討結果を公表等している事実を証拠上認めることはできないから,被告の主張は抽象的な可能性に過ぎない。
 なお,原告の平成13年度の旧論文式試験の科目別順位ランクは既に明らかであるし,同一ランクの異なる科目である民法と商法,刑法と民事訴訟法の答案の優劣を比較し,被告が主張する分析を行うなどということは,科目が異なる以上問題や論点が異なるから,高度に抽象的な比較にならざるを得ないうえに,同一の受験者の答案であることからすれば,科目を共通して比較可能な文章作成能力等はおおむね近似せざるを得ないから,さして有益な分析結果が得られるとは考え難い。
 以上の点に照らせば,被告の上記主張は採用できない。


(3) 他の受験者に対し不公平となることについて

( 略 )

 なお,上記(2)に述べたところに照らせば,本件個人情報の開示によって,開示を受けた者が特段有利に受験対策を立てることが可能になるとも認め難い。


(4) 他の受験者に対する説明の困難について

ア  苦情対応
 原告に本件個人情報を開示することによって,他の受験者が旧司法試験制度の運営の公平らしさについて疑問を抱くとも考え難い。
 すなわち,本件個人情報を開示する理由には,上記(2)において述べたとおり,平成13年度の旧論文式試験の科目別得点が本件個人情報以外存在しないことも含まれるのであるが,平成13年度の旧論文式試験の科目別得点が本件個人情報以外存在しないに至った経緯は,前記前提事実(3)によれば,司法試験委員会が,法令に従い,開示請求等のあった本件個人情報の保存期間を延長して保存を継続し,他方で,法令に従い,開示請求等のなかった他の受験者に係る平成13年度の旧論文式試験の科目別得点を保存期間が満了したことにより廃棄したというものである。
 このように,法令に従って事務を行った結果であって,職員の恣意や手違いが介在したものではないのであり,そのうえ当該法令は全ての受験者が知り得るもので,平等に全ての受験者を対象とするものであることに照らせば,平成13年度の旧論文式試験の科目別得点が本件個人情報以外存在しないに至った理由は,合理的であり,何ら受験者に疑問を抱かせるものではなく,むしろ旧司法試験制度が公平に運営されていることをうかがわせるものである。
 そうすると,受験者等が今後司法試験委員会等に対し本件個人情報を開示するに至った理由について質問や照会をする可能性はあるものの,平成13年度の旧論文式試験の科目別得点が本件個人情報以外存在しないに至った理由は上記のとおり合理的なものであるから,これをそのまま説明すれば足りるのであって,格別司法試験委員会に困難を強いるものではなく,旧司法試験の事務の適正な遂行に支障を生じさせるおそれは認められない。
 また,旧論文式試験が平成22年度をもって終了し,旧司法試験及び新司法試験の最終合格者枠の大部分は既に新司法試験に移行していることは公知の事実であるところ,そのような現状において,旧司法試験に係る本件個人情報を開示したところで,旧司法試験の受験者からの問い合わせが殺到し,旧司法試験の事務の適正な遂行に支障を及ぼす程度に至るおそれも認め難い。


(5) 情報管理の複雑化について
 本件について上記(4)ア又はイのように説明又は公表した結果,今後,自己の旧論文式試験の科目別得点の開示請求を繰り返す者が生じる可能性は否定できない。
 しかしながら,保有個人情報の開示請求自体は法が認めた権利の行使であるから,単にその対応及び保有個人情報の管理が煩雑であることをもって,旧司法試験の事務の適正な遂行の支障とはいい難い
し,自らが最後の一人になることを目的として数年にわたって開示請求を続けるような者は社会通念上ごく少数にとどまると考えられるうえに,旧論文試験が間もなく終了することからすれば,今後そのような者が多数にのぼる蓋然性は認め難い。
 よって,開示請求が増える可能性はあるものの,旧司法試験の事務の適正な遂行に支障が生じる蓋然性までは認め難い。



3  本件個人情報の開示の義務付け請求について

(1) 行政事件訴訟法37条の3第5項該当性

ア  法14条は,開示請求に係る保有個人情報に不開示情報のいずれかが含まれている場合を除き,開示請求者に対し,当該保有個人情報を開示しなければならないとしており,当該保有個人情報に不開示情報が記録されていない場合に,あえてこれを公開しない処分ができるような行政裁量を認めていない。

イ  また,開示請求された情報が法14条各号に該当するとは認められないにもかかわらず,処分行政庁が当該情報を開示しないときは,処分行政庁が当該情報を開示すべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認めるべきである。
 この点,上記2において述べたとおり,本件個人情報は法14条7号柱書に該当しないし,被告は,その他本件個人情報が法14条各号所定の不開示情報に該当するとの主張立証をしない。
 そうすると,本件については,処分行政庁が本件個人情報を開示すべきであることが,その処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認めるべきである。

(2) よって,行政事件訴訟法37条の3第5項に基づき,法務大臣に対し,本件個人情報を原告に開示すべき旨を命ずる判決をするのが相当である。



判決本文

税理士試験の開示請求でも強力な後押しに

当該判例の重要性は、税理士試験の類似事例である「司法試験論文式試験の科目別得点を開示せよ」という判決が出たことに留まりません。引用中、赤色で強調した部分にある通り、法14条7号柱書に定める「支障」の程度は,名目的なものでは足りず,実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も,単なる抽象的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が必要とされるものと解すべきである。としている点にあると考えます。開示することによって支障が生じることが、よっぽど合理的に予測できることを証明できなければ、開示しなければならないということです。


法14条7号に該当することにより開示しない、という理由付けは、今般私が行っている開示請求でも、国税庁が主張している論点であり、これは当初から想定しており既に反論の根拠を以下の記事でも書いています。

shikaku-hack.hatenablog.com


国税庁の主張する「税理士試験の適正な遂行に支障するおそれ」というのは、私からしてみれば根拠が弱すぎ、これから行われる審査会での審議に耐えられるとは思えません。
さらに私は、既に提出した審査請求書では述べていない「爆弾」を投げるつもりでいます。提出する書面を吟味し、公平に審議して頂ければ、この審査会、勝てる気しかしません。

参考となる他の重要判例

  • 平成20年4月14日 平成20年度(行個)答申第1号 旧司法試験第二次試験ファイルの一部開示決定に関する件(不開示取消)
  • 平成29年3月24日 平成28年度(行個)答申第211号及び同第212号 平成28年司法試験論文式試験の本人の答案の不開示決定に関する件(不開示妥当)

税理士試験の常識に染まった業界人に向けて改めて

このように判例を調べていてわかりましたが、さすがに司法試験では、他にもいくつかの開示請求や行政訴訟の先例が見つかりました。後述するように、税理士試験に比べて遥かに情報公開がされていますし、開示請求も当然のこととして行われています。このような外部からの監視の目があってこそ、試験そのものの規律が保たれ、改革が行われたりしてきたのでしょう。(それでも試験問題漏えいのような事件がありましたね。)


一方で税理士試験。試験に対する不満を抱えている人は山ほどいても、試験の制度そのものに疑問を感じ本気で変えようと批判した人や、開示請求を行ったという例も、近年ほとんどありません。*1正面から批判する人がいなかったから、このような体制が何十年と続いてきたという側面もあるのでしょう。受験生が現状維持を支持するのにも驚きましたが、こうした試験をくぐり抜けてきた税理士が問題意識を持っていないことが残念でなりません。



はっきり言って税理士試験の常識は、世間一般の非常識です。私など、常識は疑ってかかるものだと思っていますし、空気を読まずに異を唱えていきます。税理士試験の歴史を変えようと思っています。


旧司法試験の試験制度

上記の判決文の中で、旧司法試験の制度について説明されていたので引用します。

(1) 旧司法試験制度の概要
ア  旧司法試験の目的
 旧司法試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験であり(改正法による改正前の司法試験法(以下「旧司法試験法」という。)1条1項),司法研修所における将来の法曹としての教育を受ける際に要求される一定の学識及びその応用能力を有するか否かを判定するための試験である。


イ  旧司法試験の実施機関
 平成16年1月1日,改正法1条が施行されるまでは,司法試験管理委員会が旧司法試験に関する事務を担当していた(旧司法試験法12条ないし12条の3)。
 試験問題の作成,試験の採点及び合格者の判定は,司法試験管理委員会の推薦に基づき法務大臣が任命する司法試験考査委員(以下「考査委員」という。)が行うこととされ(同法15条1項),旧司法試験の合格者は,考査委員の合議によって判定される(同法8条1項)。


ウ  旧司法試験の概要

(ア)  旧司法試験
 旧司法試験は,第一次試験と第二次試験とに分かれ,第一次試験は一般教養科目について,第二次試験は法律科目について行われ,第一次試験に合格した者及び同試験の免除者(大学において一般教養課程を修了した者等)が第二次試験を受けることができる(同法2条ないし5条)。
(イ)  第二次試験
 旧司法試験の第二次試験は,短答式試験,論文式試験(以下「旧論文式試験」という。),口述試験とに分かれ,短答式試験に合格した者が旧論文式試験を,旧論文式試験に合格した者が口述試験を,それぞれ受験することができ,口述試験に合格した者が最終合格者となる(同法5条1項,6条1項ないし3項)。
(ウ)  旧論文式試験
 a  旧論文式試験は,平成12年度から現在に至るまで,憲法,民法,商法,刑法,民事訴訟法及び刑事訴訟法の6科目について行われ,試験時間は各科目2時間ずつで,1科目当たり2問が出題される。
 b  採点方法
 旧論文式試験の1科目の得点は1,2問の平均点とすることとされ,1問の採点は40点を満点とし,白紙答案は0点となる。各答案の採点方針は,優秀と認められる答案については,その内容に応じ30点から40点(ただし,その上限はおおむね35点程度とし,抜群に優れた答案については更に若干の加点を加える。),良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ25点から29点,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ20点から24点,上記以外の答案についてはその内容に応じ19点以下(ただし,特に不良であると認められる答案については,9点以下。)とし,採点に当たっては,知識の有無だけにこだわることなく,理解力・推理力・判断力・論理的思考力・説得力・文章作成能力などを総合的に評価することにも努めるものとされている。
 採点に当たってのおおまかな得点分布の目安については,30点ないし40点が5パーセント程度,25点ないし29点が30パーセント程度,20点ないし24点が40パーセント程度,19点以下が25パーセント程度が一応の目安とされているが,考査委員の採点を拘束するものではない。
 同じ問題に対する多数の答案について複数の考査委員が分担して採点するため,旧論文式試験の答案については,標準偏差を算出し,点数の調整を行う(以下,考査委員が採点した得点を「素点」,上記調整後の得点を「調整後得点」という。)。
 合否は,原則として6科目の得点の合計点(以下「総合得点」という。)で決定するが,得点が10点に満たない科目がある場合は,それだけで不合格とされる。(甲7,乙1,2)


エ  成績通知等
 旧論文式試験については,平成14年1月23日,不合格者のうち成績の通知を希望する者に対して,①総合得点,②成績(以下「総合順位」という。),③成績区分(以下「総合順位ランク」という。)及び④科目別成績区分(以下「科目別順位ランク」という。)を通知することになり,その後,平成16年2月23日,合格者のうち成績の通知を希望する者に対しても,同様の通知をすることになった(乙5)。
 平成13年度の旧論文式試験の受験者は6596名であり(乙5),そのうち1024名が旧論文式試験に合格した(乙8)。
 平成13年度の旧論文式試験における科目別順位ランク及び総合順位ランクは,1位から2000位までをA,2001位から2500位までをB,2501位から3000位までをC,3001位から3500位までをD,3501位から4000位までをE,4001位から4500位までをF,4501位以下をGとしたものである(乙5,弁論の全趣旨)。


判決本文

司法試験制度(新司法試験)

司法試験制度改革があり、平成18年から新司法試験が行われています。詳しくは別記事で調べて書くこととして、ここでは簡単に紹介します。


司法試験では、マークシート方式である短答式と、長文の具体的事例問題である論文式の試験が行われます。短答式では、正解及び配点、得点分布(全受験者の得点)が公表されています。論文式では、模範解答こそ公表されていないものの、数十ページに渡る「出題の趣旨」や科目毎の「採点実感等に関する意見」が公表されており、情報量は十分。税理士試験の、わずか数行、科目によっては毎年使い回しの「出題のポイント」等とは比べ物にならない情報開示が行われています。

司法試験の成績開示

そして、個人情報開示請求を行えば、科目毎の得点、順位も全て開示されます。法務省のサイトには開示請求をするための書式があらかじめ案内されています。ここでも税理士試験とは方針が根本的に異なっています。

*1:模範解答と採点基準の開示を求めた請求はありました。後日紹介します。