Markの資格Hack (税理士試験)

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合格率2.0%(±0.3ポイント)の怪・不可解 官報調整も都市伝説ではない!?

「ここがオカシイ!税理士試験」シリーズ01

税理士試験のおかしなところを、わかりやすく短めのネタで紹介していくシリーズ。合格発表日を明日に控えた今、触れておかなければならないのはこちら。

合格率2.0%(±0.3ポイント)の怪

まずは、1枚のグラフをご覧ください。

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税理士試験の過去10年間の合格率を示したグラフです。俗に官報合格と言われる、5科目合格に達した受験者の合格率ですが、2.0%からプラスマイナス0.3ポイント以上乖離した年はありません。ほとんどが1.9~2.2%の範囲に収まっています。受験者は一般に科目ごとの合格率に目が行きがちで、こちらは概ね10~20%と科目、年によって変動もあるのですが、それに比べるとこの5科目合格率の安定感は不自然にも思えます。

ご存知のように、税理士試験は11科目あり、試験で5科目合格、若しくは一部免除を受けて5科目に達したとき、官報合格となります。それぞれの科目は独立していて、どの科目からでも受けることができます。よって最後の科目がどれになるかも人それぞれ。意図的に特定の科目の合格率を調整することができたとしても、5科目合格の合格率は各科目での合否判定の積み上げで決まりますから直接いじることはできません。11科目全体で5科目合格に達する人の合格率を一定に保つことは、自然に任せれば極めて難しいことです。


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もう一つこちらのグラフを見れば、その不自然さは歴然です。青色(5科目合格)の合格率は先ほどのグラフと同じ数字。赤色(延科目数)は、科目ごとの延べ受験者数と延べ合格者数を単純合算して求めた合格率。緑色(含科目合格)は、5科目合格者数と一部科目合格者数を足して求めた合格率です。一人で複数科目を受験する者がいるため、単純合算と異なる数となります。

赤・緑の合格率は年によってバラツキがあるのに、青は収斂しているのがわかります。私は統計学の知識に乏しいですが、自然に任せてこのような数字に落ち着く確率は一体どれほどなのか。どなたか解説をお願いします。

「官報調整」は都市伝説?

税理士試験受験者の間では、俗に「官報調整」が行われていると真しやかに語られています。官報合格がかかった5科目の受験者は、他よりも厳しく採点されるとか、同じ点数で合格ライン上にあったら落とされるとか。4科目合格済のリーチの者は、1年伸びたところで今さら税理士試験からの撤退はできないだろうから、受験者を長く囲うための当局の陰謀だと言われているわけです。

本当にそのようなことがあるのかは誰も根拠を示せていませんから(あったら大問題です。)、結局は所詮、都市伝説だろう、と言うことで落ちを付けるしかないわけです。


しかし、2.0%という、このような不自然な数字を前にすると、強ちありえない話でもないかもしれないと思えてきてしまうのです。5科目合格の合格率を一定に保とうと思ったら、必然的に5科目合格がかかった人の合否を調整するのが一番簡単ですから。

何のために操作が行われているのか

問題は、この調整が一体何の目的で行われているのかが全く不可解なことです。

資格試験を行うにあたって、一つには、英検や漢検の様に、一定の水準に達した人を全員合格にする方針がある一方で、何らかの目的をもって合格者の数を調整する方針の試験があっても別にいいわけです。例えば、医師会は、医学部の定員を増やそうとする動きがあると反対の声明を出します。社会に供給される医師の数を絞ることで、資格の価値を高めたいわけです。ここでその是非を問うつもりはありませんが、十分な数が供給されるという前提があるのなら、まあそれも一つの考え方だと思います。

税理士は、資格(無償)独占業務ですから、税理士試験の合格者の数は、税理士として業務をする人口に直結します。社会の税理士の需要に合わせて、必要な数の合格者を供給するという考え方も、考えようによってはありです。ただ、国税庁が公式にいう「税理士試験は60点取れれば合格」という誰も信じていない基準(実際は点数ではなく上位から人数で決まる)との矛盾にぶち当たるわけですが。

 合格基準点は各科目とも満点の60パ-セントです。
 合格科目が会計学に属する科目2科目及び税法に属する科目3科目の合計5科目に達したとき合格者となります。
国税審議会


しかし、税理士試験で行われているこの調整は、将来に亘って税理士の数を増やそうとか、減らそうとか、何かの目的があって行われているわけではありません。もし仮に2.0%の基準があるとしたら、分子(合格者の数)は分母(受験者の総数)に応じて自動的に決まるわけですから、恣意的に合格者数を操作するのは最も難しいのです。医師国家試験なら全国の医学部の定員が九分九厘そのまま合格者の数になりますから、医学部の定員を調整することで数をコントロールすることができます。

しかし、税理士試験の受験資格は大学を出ていれば誰でも受けられるくらい(詳細はお調べください。)に広くとってありますから、受験者の数を意図的にコントロールすることはできません。一人が一年に何科目受験するかだけでもそこそこ変わってきます。単純に、試験に受かる知識はないが受験だけする人(会場に来て名前だけ書いて帰る受験者)を増やせば、合格者の数はどれだけレベルが落ちようが増えることになるのです。



もし、意図的に、2.0%を保とうという力が働いているとしたら、それはポリシーも戦略もない、不可解な操作ということになります。誰が何のために行っているのかわかりません。国税庁にも税理士会にもそんなことをする動機も必要性も考えられないからです。だから2.0%は、ただの「怪」ではなく「不可解」でもあるのです。


国税審議会は明快な説明を!

以上、作成したグラフの元データの出典は国税庁公式サイトです。


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税理士試験の受験者はこの10年間で3分の1減りました(延べ科目数ベース)。この急激な減少の一因に、税理士試験には不可解・非合理的な点が多く、人生をかけて挑戦するにはリスクが高過ぎることが世に知れ渡ってきたことがあると、私は考えています。

税理士試験を主催する国税審議会のメンバーには、税理士会の代表も入っています。そして税理士会は、税理士試験の受験者の減少に問題意識を持っている様ですが、受験者に戻ってきてもらうには、まずは、この不可解さを説明することからではないでしょうか。