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国税庁が税理士試験の合格基準60点にこだわる理由が判明 試験の採点方法

税理士試験の合格基準が60点とされているのには根拠がありました。60点でなければならない理由。この記事で私が指摘することは、税理士試験が不透明で閉鎖的な試験である原因の、その核心に迫るものだと自負しております。引用部分も含め1万2千文字以上ありますが、どうぞ最後までお読みください。

目次

合格点は60パーセント

誰も信じていない合格基準

合格基準点は各科目とも満点の60パ-セントです。

国税審議会

税理士試験の概要|税理士試験情報|国税庁

「そうか。税理士試験は60点で合格なのか。」……これをそのまま信じている人は、税理士試験の勉強を続けている人の中にはいませんね。皆無です。予備校でも繰り返し言われます。「税理士試験は競争(相対)試験です。上位10%に入らなければ受かりません。」もちろん公式にはそういうことは言えないのですが、業界では「上位10%」が定説化しています。予備校の一部には試験委員経験者から情報を得ているところもありますし、まず間違いないでしょう。私も予備校で開かれた元試験委員の講演会を中継で見たことがあります。

上位10%が合格、かつ、合格点が60点になる問題を作れないことはないのでしょうが、現状の試験ではまず成立していません。その根拠をこれから書いていきます。


過去にO原で行った講演で
「配点箇所は受験生の実際の解答状況をいくつか見た上で決めている」
と公言されていた元試験委員の先生もいらっしゃったぐらいで、その実情は完全な相対試験です。


税理士試験の合格に必要なのはAランクを合わせる力 | Shimogamo Zeirishi Life


この「60%」という、誰も信じていない合格基準は、もはや常識になっていて、いまさら問題提起するような人もいませんが、事実に反することを試験要綱の中で何十年と謳っているのですから、これは壮大な欺瞞です。

shikaku-hack.hatenablog.com



税理士試験の採点はどのように行っているか


試験委員がどのように採点しているのか、というのは受験者なら誰しも考えたことがあるのではないでしょうか。配点や自分の得点などの情報があまりに開示されていない試験なので、どのように採点しているのか、そしてどのように解答を作成したら高得点を取ることができるか、という予想をし戦略を立てていると思います。

税理士試験は、素直に前から順番に問題を解いているだけでは合格は遠いです。受験テクニックを駆使して、虚実ないまぜの噂を元に思い切った戦略を立てます。例えば、あそこの集計表の部分には点がないので空欄でいい、とか、逆に計算過程を省略したら答えが合っていても0点、とか。ケースバイケースである程度省略せざるを得ない、とか。どの解答方法を選択するかによって運の要素が入ってきます。全部を埋めることができたらいいに決まっていますが、時間的に不可能なのです。そうやって1点でも多く取る工夫をしないと他人に勝てません。そういう試験です。


こちらの税金マニアさんのtweetでは、調整が入っているとはいえ60点という合格基準は守られている、と仰います。しかし、私の考えでは、一部科目は60点には絶対になっていません。その根拠を次の項で。このままいくと、これから訴訟にもなると思います。


税金マニアさん、是非、試験委員になってくださいね。

予備校予想の合格ボーダーは43~92点

税理士試験 合格ボーダー予想 第66回


データの出典:税理士 税理士試験 本試験採点・分析サービス <資格の大原>

TACその他の予備校のボーダーをまとめて送ってくださる方はご連絡ください。


ご覧のように、科目によって試験の傾向も得点圏もバラバラです。私は相続税法と酒税法を受験したことがありますが、この2科目は両極端です。近年の相続税法の問題は、計算が考え込むような難しい論点のあまりない基本的な問題で、とにかく量が多い。絶対に2時間で解ききれる人はいません。前述したような解答テクニックを駆使して解く「速記」試験です。一方で酒税法は、基本的に時間が余ります。ミスがないか見直す時間があります。ですから基本的に精度の高い満点勝負です。最終値まで合わせられます。年によってはどこの予備校も対策していない論点が出て、理論では関連規定から推測して作文が必要になったり、計算では一か八かでどちらかを選んで偶々合っていた人が正解、みたいなバクチ要素が出ることがあります。余談ですが、私が酒税を撤退したのは、このバクチ要素で決まってしまうことがあるというリスクを嫌ったからです。



合格基準が60点には絶対になっていない、と私がいう根拠は、この酒税法です。配点も予備校予想、受験者の報告も自己採点と、予想に次ぐ予想なんだから、実際はわからない、どうにでも変わり得る、という反論があるかもしれません。しかし、満点勝負となる酒税法では基本的にないと断言できます。



2016年度 酒税法 得点分布

データの出典:税理士 税理士試験 本試験採点・分析サービス <資格の大原>



こちらは、大原の採点サービスに結果を報告した人のみの集計ですから偏りがあると思われますが、実際も全受験者の半分以上は80点以上得点しているのではないかと思われます。しかし合格できるのは他の科目と同様、約10%だけですから、ボーダーは90点を超えているのは確実です。(大原予想は92点。)


酒税法の合格者は、基本的に計算は満点です。減点する箇所が一つもないということです。理論も問われる根拠法令はほぼ全部挙げられていて、あとは条文の表現に多少の不足があったり、事例に応じた要件の指摘に不足があり部分的に減点されるくらいでしょう。この酒税法で合格点を60点に無理矢理調整しようと思ったら、「計算の最終値の納付税額、20点」とか、「全体的に字が汚い、20点減点」とかやならいと無理でしょう。そのようにして無理矢理60点に合わせたところで、その採点が妥当でないのは誰の目にも明らかです。



以上が、実際の合格基準が60点ではない証明です。ではなぜ、国税庁はこの有名無実化した「合格基準60点」にこだわるのでしょうか?

国税庁が税理士試験の合格点を60点とする根拠

税理士試験について調べようと、日本税理士会連合会編集の『税理士法逐条解説 7訂版』(平成28年9月30日発行)を読んでおりました。税理士法には、第二章(第5条から13条まで)に税理士試験について書かれています。そして、施行令、施行規則まで調べておりましたら新たな発見がありました。

税理士法

(受験資格)
第五条 (略)


(試験の目的及び試験科目)
第六条 税理士試験は、税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に定める科目について行う。
一 次に掲げる科目(イからホまでに掲げる科目にあつては、国税通則法その他の法律に定める当該科目に関連する事項を含む。以下「税法に属する科目」という。)のうち受験者の選択する三科目。ただし、イ又はロに掲げる科目のいずれか一科目は、必ず選択しなければならないものとする。
イ 所得税法
ロ 法人税法
ハ 相続税法
ニ 消費税法又は酒税法のいずれか一科目
ホ 国税徴収法
ヘ 地方税法のうち道府県民税(都民税を含む。)及び市町村民税(特別区民税を含む。)に関する部分又は地方税法のうち事業税に関する部分のいずれか一科目
ト 地方税法のうち固定資産税に関する部分
二 会計学のうち簿記論及び財務諸表論の二科目(以下「会計学に属する科目」という。)


税理士法

税理士試験の目的は、おなじみの言い回しですね。


科目合格も「免除」扱い

いわゆる科目合格のことを、税理士法7条1項では、「免除」と呼んでいます。免除と聞いて一般的に思い浮かべる、大学院で修士論文を書く、いわゆる「院免除」は7条2項と3項に、税務署職員等の職歴でされる免除は8条に、それぞれ規定されています。

条文中の「政令で定める基準」が合格基準のことです。

(試験科目の一部の免除等)
第七条 税理士試験において試験科目のうちの一部の科目について政令で定める基準以上の成績を得た者に対しては、その申請により、その後に行われる税理士試験において当該科目の試験を免除する。
【令】第六条
《改正》平13法038


2 税法に属する科目その他財務省令で定めるもの(以下この項及び次条第一項第一号において「税法に属する科目等」という。)に関する研究により修士の学位(学校教育法第百四条に規定する学位をいう。次項及び次条第一項において同じ。)又は同法第百四条第一項に規定する文部科学大臣の定める学位で財務省令で定めるものを授与された者税理士試験において税法に属する科目のいずれか一科目について政令で定める基準以上の成績を得た者が、当該研究が税法に属する科目等に関するものであるとの国税審議会の認定を受けた場合には、試験科目のうちの当該一科目以外の税法に属する科目について、前項に規定する政令で定める基準以上の成績を得たものとみなす。
《追加》平13法038
《改正》平14法118
《改正》平19法096
3 会計学に属する科目その他財務省令で定めるもの(以下この項及び次条第一項第二号において「会計学に属する科目等」という。)に関する研究により修士の学位又は学校教育法第百四条第一項に規定する文部科学大臣の定める学位で財務省令で定めるものを授与された者税理士試験において会計学に属する科目のいずれか一科目について政令で定める基準以上の成績を得た者が、当該研究が会計学に属する科目等に関するものであるとの国税審議会の認定を受けた場合には、試験科目のうちの当該一科目以外の会計学に属する科目について、第一項に規定する政令で定める基準以上の成績を得たものとみなす。
《追加》平13法038
《改正》平14法118
《改正》平19法096
4 税理士試験の試験科目であつた科目のうち試験科目でなくなつたものについて第一項に規定する成績を得た者については、当該科目は、前条第一号に掲げられている試験科目とみなす。
《改正》平13法038
5 第二項及び第三項に規定する国税審議会の認定の手続については、財務省令で定める。



第八条 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、その申情により、税理士試験において当該各号に掲げる科目の試験を免除する。
(略)


税理士法

試験の細目等

(受験手数料等)
第九条 税理士試験を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の受験手数料を納付しなければならない。
【令】第六条の二
【則】第四条
《改正》平13法038
2 第七条第二項又は第三項の規定による認定を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の認定手数料を納付しなければならない。
《追加》平13法038
3 第一項の規定により納付した受験手数料は、税理士試験を受けなかつた場合においても還付しない。
《改正》平13法038


(合格の取消し等)

第一〇条  (略)


(合格証書等)
第一一条 税理士試験験に合格した者には、当該試験に合格したことを証する証書を授与する。
【令】第六条
2 試験科目のうちの一部の科目について政令で定める基準以上の成績を得た者には、その基準以上の成績を得た科目を通知する。


(試験の執行)
第一二条 税理士試験は、国税審議会が行う。
《改正》平11法160
2 税理士試験は、毎年一回以上行う。



(試験の細目)

第一三条 この法律に定めるもののほか、税理士試験(第八条第一項第十号の規定による指定を含む。)の執行に関する細目については、財務省令で定める。
【則】第二条 ・第三条 ・第四条 ・第五条 ・第六条 ・第七条
《改正》平11法160



税理士法


13条にあるように、試験の細目は財務省令(=施行規則)で定める、としています。

税理士法施行規則(昭和二十六年六月十五日大蔵省令第五十五号)

   第一章の二 税理士試験


(受験手数料等)
第四条  法第九条第一項 の受験手数料又は同条第二項 の認定手数料は、それぞれ第二条の四第一項の税理士試験受験願書又は同条第三項の研究認定申請書若しくは前条第二項の研究認定申請書兼税理士試験免除申請書に収入印紙を貼つて納付しなければならない。


(試験実施地)
第五条  税理士試験は、北海道、宮城県、埼玉県、東京都、石川県、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、熊本県、沖縄県及び国税審議会の指定するその他の場所において行う。


(試験実施の日時及び場所等の公告)
第六条  国税審議会会長は、税理士試験実施の初日の二月前までに、税理士試験実施の日時及び場所並びに税理士試験受験願書の受付期間その他税理士試験の受験に関し必要な事項を官報をもつて公告しなければならない。


(試験合格者等の公告)
第七条  国税審議会会長は、税理士試験に合格した者及び法第七条 又は第八条 の規定による税理士試験の免除科目が法第六条 に定める試験科目の全部に及ぶ者の氏名を官報をもつて公告しなければならない。


税理士法施行規則

上記のように、受験手数料や官報公告についても施行規則に定めてあります。金額については施行令に。

(受験手数料等)
第六条の二 法第九条第一項に規定する政令で定める額は、受験科目の数が一である場合にあつては三千五百円、受験科目の数が二以上である場合にあつては三千五百円と千円に一を超える受験科目の数を乗じて得た額との合計額とする。
《改正》平9政093
《改正》平12政082
《改正》平13政330
2 法第九条第二項に規定する政令で定める額は、八千八百円とする。
《追加》平13政330

税理士法施行令

受験手数料については別の記事でも触れました。

政令で定める基準は、満点の六十パーセント

税理士法施行令(昭和二六年 六月一五日政令第二一六号)

(試験科目の一部の免除の基準)
第六条  法第七条第一項から第三項 まで及び第十一条第二項 に規定する政令で定める基準は、満点の六十パーセントとする。
《改正》平13政330

税理士法施行令

ここにありました。「60%」というのは、単に内規で定めるだけでなく、施行令(政令)に書いてあったのですね。ですので、国税庁としてはこの基準を遵守しなくてはいけないし、変えるにはそれなりの手続きが必要なのだと思われます。


判明、と今わかったかのように書きましたが、私がこのことに気づいて記事を書き始めたのは1月のことなので、この記事は3ヶ月越しの校了です。

税理士試験の評点を開示できない本当の理由

税理士試験の実施後、合格発表までは、次のような手順で行われれているものと思われます。1.回収された答案用紙は封がされ問題を作成した試験委員の元へ。2.試験委員が答案用紙に採点を行い評点を記入した後、国税庁人事課に答案が渡される。3.国税庁で受験者の点数や順位を管理、複数の試験結果を受験票の個人情報と照らし合わせて合格者の決定や通知を行う。


おそらくは、採点と評点の決定までを試験委員が、そして合格者の決定や合格ラインの調整を、国税庁人事課の職員が行っていると予想します。俗に言う官報調整も、全体の合格率を目標の2%に近づけるために、個々の受験者毎ではなく、科目毎の合格ラインを調整することで行っているのではないかと考えます。

shikaku-hack.hatenablog.com

ですから、そして前述したように、現実には合格ラインが60点にはなりません。そのことは誰よりも国税庁人事課がよくわかっているはずです。


これこそが、前の記事で私が指摘した、国税庁が税理士試験の評点を開示できない本当の理由です。

shikaku-hack.hatenablog.com


開示をすれば、本当の合格点が60点ではないことがバレてしまう。それを明かすことは、国税庁が自ら定めた施行令を守っていなかったことを露呈することになるのです。何を今さらという、税理士試験の関係者みんなが知っていた暗黙の了解ですが、評点を隠し通すことで公式には60点であると言い張ってきたわけです。

こんな基準は変えてしまえばいい

60%にこだわるという非合理

合格の水準を一定に保とうと思えば、合格点を単純に満点の60%と決めることは非合理であることは明らかです。回によって問題の難易度や受験者の出来が変わるので、点に合わせて合格基準を設定すると、合格率や合格者の数が回によって大きく変動することになります。試験の水準を一定に保つことができなくなるでしょう。

他の国家試験では

他の国家試験では、合格基準はどうなっているのでしょうか。会計士試験では偏差値により合格点及び合格率を決定していることを公表しています。司法試験でも論文式試験の答案については、標準偏差を算出し点数の調整を行っていることが公表されています。妥当だと思います。税理士試験もなぜ同じようにしないのか理解に苦しみます。

  • 税理士試験の合格率が2%で安定している不自然さを他の試験と比べてみた(執筆中)

施行令を変えれば全てが動き出すかもしれない

なぜ60%かといえば、おそらく最初にそう決めたからという理由以上のことはないのでしょう。自ら決めた施行令に縛られるというナンセンス。ならばさっさと施行令の方を変えてしまえばいいのです。

それを前例踏襲で、基準の方を絶対的に正しいものとして、合格点が60点であるようにと取り繕うとするからおかしなことになるのでしょう。合格基準60点の建前を隠し通すために受験者の評点を明かせない。評点を推測されてしまうので、模範解答や配点も明かせない。結果として、ほとんどの情報を非開示にせざるを得ない。

合格基準60%という施行令が、疑惑の渦巻くでたらめな問題とでたらめな採点を許す環境を作っている元凶とまで言えるかもしれません。全くナンセンス、馬鹿げています。問題と模範解答、配点がセットで公表されていないから、適正に合否判定が行われたのか外部からはほとんど検証できないわけです。

無責任な試験委員なら、問題作成や採点をいい加減にやってもどうせわからないからいいかと考えるかもしれません。人間はそんなものです。後から検証されるとわかっていたら試験委員も最初から真剣に取り組むでしょう。今までは、能力の高い、責任感の強い試験委員が任命されることでなんとか回っていたのかもしれません。しかし個人の倫理観に頼らないと正常に動かないシステムは、設計として間違っているのです。



国税庁におかれましては、一刻も早くこの施行令を改正されますように、提言します。もしかするとこの施行令を変えることが、全てが情報開示に向かって動き出す端緒となるかもしれません。