Markの資格Hack (税理士試験)

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税理士試験不適切問題集 平成30年度(第68回) 簿記論

「税理士試験適正化」に賛同頂いている簿記講師の方のご協力で簿記論の不適切問題集を公開することができました。ありがとうございます。


不適切問題として、5つの論点を挙げました。
うち、3つの論点(本支店会計、新株予約権付社債、投資有価証券)は、問題から解答を一意に特定することができず、予備校の模範解答でも解答が割れている明らかな不適切問題です。試験委員の意図した正答も、どのように採点されるかもわかりません。予備校は、「どちらの解答でも正解になる」などと楽観的な見解を言うことがありますが、試験委員の模範解答が発表されていないのだから何の根拠もありません。
外貨建預金と賞与引当金の2つについては、私が設定した「不適切カテゴリ」で(矛盾資料だが解答は可能)としています。外貨建預金は、会計的に正しくない処理が解答となり、賞与引当金は、問題に与えられた資料と残高が合いません。一応、一つの答えを導くことができるという点で、解答は可能です。しかし、通常あり得ない処理であるため、受験者を混乱させ、余分な確認の時間を使わせ、他の問題を解く時間に影響を与えるという点で、不適切ということができます。



この記事は、kuroneko様(某予備校簿記講師)の投稿に基づき、Markが編集しました。

目次

はじめに(不適切問題をまとめる意義)

税理士試験では、軽微なものを含めれば毎年のようにどこかで問題の不備(出題ミス)が確認されています。受験生や予備校の側でも、不備があることが当たり前のように認識されています。しかし、本来、厳正で公正に行われるべき国家試験において、これは異常なことです。重要なのは、作問者が完全に不備を防ぐことは難しいとしても、不備があったことすら認めず、なかったことにされていることです。

私、Markは、具体的に問題の疑義を指摘し文書で国税庁に問い合わせてきましたが、これまでのところ完全に無視されています。他の国家試験では不備があれば、事後に問題の訂正や採点上の措置が発表されますが、国税庁は、試験問題に対する問い合わせには一切対応しないという方針を貫いており、未だかつてされたことがありません。これが、国税庁が隠蔽体質で杜撰な運営を行っていることの証左です。不備を認めないということは、採点も適正に行われていない可能性があり、本来合格できるはずの者が不当な採点によって不合格とされてきた可能性があります。不備が続出し合否判定にも大きな影響を与えたと考えられる最たるものが、平成28年度の法人税法と消費税法の問題でした。

試験に改善の必要があることの根拠として、不備を正確に記録することに大きな意義があると考え、この不適切問題集をまとめました。私は、税理士試験が正常に運営されるようになる日まで、不適切問題を記録し、国税庁に訴えていきたいと考えます。


平成30年度(第68回) 簿記論 試験問題

全体の特徴・総評

毎年恒例ともいえるが、特に第3問において指示不足・不明資料が多く散見される。予備校の解答速報では試験終了後に時間をかけて作成する最適な結論を導き出せるが(それでも解答が割れる問いもある)、2時間という限られた時間の中で1年間をかけて必死に戦う受験生にとって非常に不親切な問題のように感じた。
これは近年の税理士試験全科目に言えることで、仕方のないことかもしれないが、時間内に解答不能な問題量、学問的すぎる会計理論、中途半端な実務処理の出題、非常に稀な租税処理の出題など、受験生にどのような能力を求めているのかが非常に不明確であり、税理士候補を選定する試験として、不適切な問題ではないかと疑問を抱かずにはいられない。


試験問題の例年にない特徴として、問題の年の表記に元号(平成)を使わず、X8年、2018年(西暦)を使用していた。また、第三問の答案用紙が特徴的で、一桁ずつ区切られ千円単位で記入するというものであった。試験委員が採点のしやすさを優先したのか、法人税の事業概況書を模したような形式であった。

第一問

問2 本支店会計

不適切カテゴリ:(矛盾資料あり)

<問題指示>

(A4ページ【資料3】)
①本店から支店に発送した商品7,920千円が、支店に未達である。

(A4ページ【資料4】)
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<不適切な点>
支店の期末帳簿残高21,280千円の中に、未達商品7,920千円(資料3①)が含まれているか否かが不明。
・ 問題文をそのまま読み取れば未達商品が帳簿棚卸高に含まれていることになる。
・ しかし、支店における期末帳簿棚卸高には、通常未達商品は含まれていないはず(未達なので、商品有高帳自体に記録されないはず)。

ここで、単価の面からどちらが適切か以下のようなロジックで検証したい。
① 本店は支店への商品送付時に10%の利益を付加している。
② 当期の本店における外部仕入単価は110千円(資料4②)である。
③ そのため、支店における内部仕入単価は110千円×1.1=121千円程度の金額になるはず(前期分が残っている可能性があるため、完全に一致はしない)。

・期末帳簿棚卸高に未達商品が含まれているとした場合の単価
⑴ 帳簿棚卸高のうち外部仕入分:145個×80千円=11,600千円
⑵ 帳簿棚卸高のうち本店仕入分:21,280千円-11,600千円=9,680千円
⑶ 本店仕入分の単価:9,680千円÷150個=約65千円 
→当期の理論値よりも単価がかなり低く、整合性に欠けている

・期末帳簿棚卸高に未達商品は含まれていないとした場合の単価
⑴ 本店仕入分の期末商品:9,680千円+7,920千円(未達商品)=17,600千円
⑵ 本店仕入分の単価:17,600千円÷150個=約117円
→約117千円÷1.1=107千円なので、当期の理論値とも整合的

商品が多種類あると言い訳されれば納得せざるを得ないが、問題に記載されていない以上それは配慮できない。

これが影響する解答箇所は、設問⑵④、設問⑷⑦、設問⑸の3か所であり、合否にも大きくかかわってくるため、両方の解答を別解として認めなければ不適切だろう。



<予備校の解答>
TAC:帳簿に未達が含まれていると解釈
大原:帳簿に未達は含まれていないと解釈
ネットスクール:帳簿に未達が含まれていると解釈
東京CPA:帳簿に未達が含まれていないと解釈


第二問

問2・設問1 新株予約権付社債

不適切カテゴリ:(別解あり)

<問題指示>

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設問
(1) 【資料2】に関連して、X7年3月31日、B社側において代用払込を受けた社債金額を、解答欄に示しなさい。


<不適切な点>
代用払込を受けた「社債金額」が帳簿価額(償却原価)を示すのか額面金額を示すのかが不明であり、解答が2パターン考えられる。

出題者は、解答が分かれる可能性があることを見越して、詳細に指示すべきであった。

代用払込を受けた「社債金額」 = 資料1の1「社債金額(額面金額)」と決めつけるのは少々強引であり、おそらく別解の存在に気付かず校了されたものと思われるが、予備校で解釈が分かれるような問題はもはや受験生にとっては悪問である。


<予備校の解答>
TAC:額面金額で解答
大原:帳簿価額で解答(TAC公表後に額面金額に変更)
ネットスクール:帳簿価額で解答
東京CPA:帳簿価額で解答


第三問(総合問題)

決算整理前残高試算表及び決算整理事項から、2018年3月31日時点における決算整理後残高試算表を作成する問題

外貨建預金

不適切カテゴリ:(矛盾資料だが解答は可能)

<問題指示>

(A13ページ【資料2】3)
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<不適切な点>
ドル建て外貨預金の普通預金及び定期預金について、通常は未収利息が計上されるはずだが、解答欄に未収利息を記入する欄がない。
そのため、「利払期日が到来する都度、継続的に預金利息を収益計上している」との文章から、甲社は未収利息を計上しない処理を行っているものと判断しなければならなかった。
しかし、この文章はいわば「当たり前の処理」を記載しているにすぎず、「見越計上をしていない」旨の記載が必要だろう。予備校の解答速報作成時には時間があるため、数時間かけて疑問点を解決できるが、通常は得点源になる経過勘定項目でのこの出題は、受験者には大きな負担を強いるものである。

なお、試験はあくまでも学習の延長であるため、発生主義の大原則である「期間損益」を無視した出題は、あまりよい出題ではない。


<予備校の解答>
全校、未収利息を計上しない(解答欄にないため「できない」)処理で一致。


投資有価証券

不適切カテゴリ:(矛盾資料あり)

<問題指示>

(A15ページ【資料2】7)
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(A16ページ【資料2】7)
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<不適切な点>
G社社債は、満期保有目的債権と記載されているが、⑶の最後で「当期末も期末時価を貸借対照表価額に反映する処理を行う」と記載がみられる。満期保有目的債権はどのような場合でも例外なく時価評価は行わないはずである。

出題の意図は、前期末に減損処理を行ったG社社債は、金融商品実務指針274項に記載される満期保有目的債権の要件「信用リスクが高くない債券」に該当せず、その他有価証券に性質(保有目的)が変更される、といったところであろう。

しかしそうであれば、前期末に保有目的がその他有価証券へと変更されているため、「備考」欄にはその他有価証券と記載すべきではないか。

TACは「当期末も(前期末の)期末時価を貸借対照表価額に反映する」と拡大解釈し、当期末の時価評価を行っていないが、当期も満期保有目的として保有している以上、これが最も正しい処理である気もする。

時間が限られる受験生にとっては、かなり不親切な問題であった。


<予備校の解答>
TAC:満期保有目的債権と捉え、時価評価をしていない(時価評価する別解を掲載)
大原:その他有価証券と捉え、時価評価を行う
ネットスクール:その他有価証券と捉え、時価評価を行う
東京CPA:その他有価証券と捉え、時価評価を行う


賞与引当金

不適切カテゴリ:(矛盾資料だが解答は可能)

<問題指示>

(A16ページ【資料2】8)
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<不適切な点>
「賞与引当金」の計上は難しくないが、「仮払金」勘定が問題の指示と整合しない。
「その他人件費」勘定を合わせようと「仮払金」から差し引きで求めると、この金額は期中支払いの法定福利費を含めていない金額となり、問題文にある「法定福利費支払時は「仮払金」処理している。」という説明と整合しない。
一方、前T/Bの「その他人件費」勘定5,300,000は、役員報酬と給与手当の合計に対する法定福利費((12,000,000+28,000,000)×13.25%=5,300,000)と思われ、作問者の想定としても賞与分は含まれていないと考えられる。
期中支払い分の法定福利費は、「仮払金」にも「その他人件費」にも含まれていないことになるが、作問者が単純に期中支払い分の法定福利費の存在を忘れていたのであろうか。考え込めば考え込むほど、確信の持てる答えが出ず、時間を消費することとなる悪問であり、これは作問者に対して怒りを感じる。

①福利費支払時に仮払金処理ならば、当期の支払(見積)額は次のとおり。
16,200,000円(賞与支給額)×14%(見積)=2,268,000円

②当期に支払った福利費と賞与額が仮払金処理されるなら、仮払金残高は次の構成になるはず 。
・賞与:16,200,000円
・福利: 2,268,000円(見積値)
〇合計:18,468,000円
※法定福利費は見積値であるが、実際と大きくズレることはないだろう。

③しかし、実際の仮払金残高(他項目を除く)は16,760,000円であり、②の値と1,708,000円もズレている。

④察するに、仮払金残高は次の内訳だと思うほかない。
・賞与:16,200,000円
・福利: 560,000円
〇合計:16,760,000円

⑤つまり、問題上で仮払金処理されている福利費は、前期に属する賞与(=賞与引当金で処理)に対応する見積部分のみ(4,000,000×14%=560,000)である⇒なぜなのか意味不明。


<予備校の解答>
各校とも解答としては一致したが、期末見積分には法定福利費を計上するが、期中支払分には計上しないという、極めて不自然な処理の解答となり、妥協の産物である。


参考

TACの別解

不適切問題として本文では取り上げませんでしたが、以下の箇所についてTACの解答速報で別解が指摘されています。問題の指示不足だと考えます。

第三問【資料2】5 売掛金

f:id:mark_temper:20180822153153p:plain

TAC 解答一覧 簿記論(PDF) p.25

クレアールの批判

資格合格クレアールが公開している解答解説動画の中で、講師が試験問題について批判を展開していましたので紹介します。

4:00「歴史上稀に見る荒れた本試験」
7:45「第三問の指示は非常に難解」
9:00「2時間の中で試験委員の解答に近づくのは絶望的」
11:50「(第三問について)指示も悪いし、(事業概況書を模した解答欄だったことについて)仕事を国家試験に持ち込むな」
13:25「国家試験としてふさわしいのか?」
26:42「なぜ(廃止が決定している会計方針である)割賦販売を出題したのか?これから実務家になる人に問うべき問題ではない」
39:17「第三問は非常に残念な出題でした」
42:25「商品評価損(洗替え)が難しかった」
43:43「保証率が会計試験で出されたのが衝撃だった」
48:50「売掛金の処理がかなり指示不足」
52:30「G社社債の処理、これはないだろう」

国税庁「出題のポイント」

試験委員

工藤 栄一郎(1年目) 西南学院大学商学部商学科教授
戸田 龍介 神奈川大学経済学部経済学科/現代ビジネス学科教授
豊 憲一郎(1年目) 公認会計士・税理士
岡田 博憲 公認会計士・米国公認会計士・税理士

出典: http://www.o-hara.ac.jp/best/zeirishi/topics/iin/