Markの資格Hack (税理士試験)

資格試験に四苦八苦しないための資格Hack(シカクハック)情報 税理士試験のここでしか見れない情報を発信しています

「令和元年度(第69回)税理士試験出題のポイント」が更新 試験委員の違いが顕著

10月1日(火)、国税庁サイトの「税理士試験出題のポイント」が更新されました。


下記は去年の記事。

目次

「税理士試験出題のポイント」とは

税理士試験出題のポイントとは、国税庁ウェブサイト上で毎年10月1日以降の平日に発表されるその年の税理士試験の科目ごとの問題の解説です。各問の正解や配点、採点基準など、一切が公表されていない税理士試験において、主催者側から公式に発表される試験問題についての見解としては、唯一のものとなります。

webarhiveで確認できるものとして、平成14年度(第52回)のものが最も古いものとなります。



出題者(採点者)が問題において重要と考えている箇所であり、言及のあった箇所に重点的に点が振られている等と噂されていますが、定かではありません。問題に解釈の余地があり、解答が割れるような問題であった場合には、出題のポイントで出題者の意図が分かり正解の推測の参考になるとも言われていますが、問題文に書いてあることを繰り返しただけで何の参考にもならない代物であることもあります。出題のポイントの文量や、どのような形式かも、試験委員の裁量に任されていると考えられ、力の入れようも当該の委員次第です。例えば、酒税法では、第二問の解説が毎年同じ内容のコピペで、何の情報も出していないのに等しいです。


出題のポイントは、試験委員が試験問題作成の時期に同時に行っているため、受験者の答案を採点した上での評価や、採点の基準が変えられたとしてもその情報は反映されていないようです。*1そうであれば、なぜ試験実施から発表まで約2ヶ月も開ける必要があるのか疑問に感じます。試験委員によって情報量に差があり、毎年コピペである等、品質が保たれていないことも問題です。

注目のポイント

相続税法

今年の出題のポイントを一通り眺めて、特徴的だったのが、相続税法の第一問(理論問題)です。出題の趣旨というか、制度改正の背景をダラダラと何行にも渡って説明しています。

問1

 相続時精算課税は、平成15年度税制改正において、高齢化の進展に伴い、相続による次世代への資産移転の時期が従来よりも大幅に遅れてきていること、高齢者の保有する資産の有効活用を通じて社会経済の活性化にも資するといった社会的要請などを踏まえ、将来において相続関係に入る特定の親子間の資産移転について、生前贈与と相続との間で、その時期の選択に対する課税の中立性を確保することにより、生前贈与による資産移転の円滑化に資することを目的として創設された。同時に相続時精算課税の贈与者の年齢要件を緩和した住宅投資促進のための「特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例」も創設された。
 また、平成25年度税制改正においては、被相続人の高齢化が進み、相続又は遺贈による若年世代への資産移転が進みにくい状況ともなっていることを踏まえ、若年世代への資産の早期移転を促進する観点から、1贈与者の対象年齢を65歳から60歳に引下げ、租税特別措置法により、2受贈者に孫を追加する等の相続時精算課税の対象範囲を拡大することとされた。
 さらに、平成30年度税制改正においては、中小企業の円滑な世代交代を集中的に促進し、生産性向上に資する観点から、10年間の時限措置として創設された「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」の利用を一層促す観点から、当該特例の適用を受ける場合には、贈与者の推定相続人又は孫以外の者であっても相続時精算課税の適用を受けることが可能となった。
 令和元年度税制改正においても、上記と同様に「個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除」の利用を一層促す観点から、当該特例の適用を受ける場合にも、贈与者の推定相続人又は孫以外の者であっても相続時精算課税の適用を受けることが可能となった。

相続税法|国税庁

近年、このような社会情勢があって相続時精算課税制度が注目されている、だから出題するよ、という国税庁試験委員の動機はわからんでもないです。ただ、ここまで前置きを長く書くのは他の科目、年度でもあまり例がないです。昨年もそこそこ長かったですが、予備校予想によると、今年は新任の試験委員とのことです。で、肝心の試験問題についての言及はというと、

 本問は、近年の税制改正を踏まえた相続税法及び租税特別措置法に規定する相続時精算課税の適用要件等について、説明を求めるものである。

一行でした。何の捻りもない「説明せよ」系の個別ベタ書き理論問題ですからね。私が税理士試験で最も嫌う速記マシーンとなることを強いられるタイプの問題です。問2も同様です。

問2

 災害により損害を受けた者に係る相続税については、従来から、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災害減免法」という。)により、相続等により取得した財産について、その価額は、物理的に被害を受けた部分の価額を控除した金額とするといった措置が講じられていた。
 他方、阪神・淡路大震災及び東日本大震災については、その被害の規模や性質を踏まえ、それぞれ震災特例法を制定し、震災に基因する地価下落といった経済的な損失についても対応するための更なる特例措置が設けられていた。平成29年度税制改正においては、平成28年4月の熊本地震をはじめ近年災害が頻発していることを踏まえ、被災者の不安を早期に解消するとともに、税制上の対応が復旧や復興の動きに遅れることのないよう、租税特別措置法において「特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例」など災害に対応する特例が常設化された。
 このように、災害減免法及び租税特別措置法において規定されている災害があった場合に適用が可能な相続税の課税価格の計算の特例は、平成30年7月豪雨や平成30年北海道胆振東部地震など近年も引続き災害が頻発している状況を踏まえると非常に重要な特例である。
 本問は、これらの特例の内容について、説明を求めるものである。


もうちょっと理解力を問うタイプの問題を出して頂きたいと思います。

所得税法

一方、所得税のこの問題は、個別的事例における関連する複数の規定を答えさせる、良い問題であると考えます。予備校では未対策論点であったようですが。

問1  平成31 年3 月某日、税理士であるあなたは、旅館業を営む居住者A(個人事業主・青色申告者)から「昨年の地震の影響により経営不振が続き、取引銀行Bから債務の免除を受けるべく手続を進めている。仮に、Bから債務の免除を受けることができた場合、私に対して何らかの課税関係は生じるのか。」との相談を受けた。
AがBから債務の免除を受けた場合におけるAに対する所得税の課税関係について、考えられる取扱いを説明しなさい。


第69回税理士試験 所得税法 試験問題 第一問

この問に対する出題のポイントが以下です。

問1

 本問は、事業所得者が、取引銀行から債務の免除を受けるという事例を通じて、債務の免除を受けた個人の所得税の取扱いについての理解を問うものである。その主なポイントは次のとおりである。

(1) 事業所得者が、取引銀行から債務の免除を受けた場合における債務免除益については、原則として、その者の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入されること
(2) 事業所得者が、破産法の免責許可の決定又は民事再生法の再生計画認可の決定があった場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合に取引銀行から債務の免除を受けたときは、債務免除益については、その者の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないものとすること。
 ただし、債務免除益のうち次に掲げる金額の合計額に相当する部分については、その者の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入されること
その免除を受けた日の属する年分の事業所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合のその損失の金額
純損失の繰越控除により、その免除を受けた日の属する年分の総所得金額等の計算上控除する純損失の金額がある場合におけるその控除する純損失の金額
(3) 事業所得者が、一定の債務処理計画に基づき取引銀行から債務の免除を受けた場合(債務免除益について、上記(2)の措置の適用を受ける場合を除く。)において、その事業の用に供される減価償却資産等の価額についてその債務処理計画に定められた方法により評定が行われているときは、その減価償却資産等の評価損の額を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すること


所得税法|国税庁


出題者が書いて欲しいと考える論点が、簡潔に書いてあり、これぞ「ポイント」と呼べる内容になっていると思います。


このように、出題のポイントを見るだけでも、試験問題、試験委員の質の違いが顕著に表れているのがわかります。試験委員一人の属人的な性質により問題の傾向が左右されるのは望ましくなく、複数の試験委員共同の作問により質の向上を図っていくべきです。また、出題のポイントでなく、模範解答の公表を引き続き求めていきたいと考えます。

*1:「試験委員は、例年1月〜4月にかけて試験委員間で協議を行いながら、試験問題及び出題のポイントを作成している。」平成30年(行情)諮問第351号 国税庁・理由説明書