中央経済社『税務弘報』2019年1月号記事の誤りを指摘しました(サラリーマンマイカー税金訴訟)
すっかり更新が途切れてしまいました。このところ、メンタルの調子を崩すことが続きあまり余裕がなく、仕事や大学院の課題などに追われておりました。私の近況は、また別の機会に。
さて、中央経済社『税務弘報』2019年1月号を見ておりましたら、ある連載記事が目に留まりました。
ちょっと信じ難いんだけど、というか私が間違って読んでいるのかと思って何度も確認したのだけど、『税務弘報』1月号の税務判例についての連載記事の解説が思いっきり間違っているように思えてならない。本誌見られる方はちょっと見てください。
— Mark / まあく (@mark_temper) 2018年12月27日
目次
『税務弘報』2019年1月号「判決文をスッと読む極意」第4回
本連載は、弁護士による判決文の読み方解説であり、税理士向けに税務判例を取り上げて紹介しています。1月号では、サラリーマンマイカー事件(最判H2.3.23)を扱っていました。この事件は、税理士事務所職員である原告が、自損事故を起こしてスクラップ業者に売却した自家用車から生じた譲渡所得の損失を、給与所得と損益通算して還付の確定申告をしたところ、税務署に否認されたものです。
内容については、誌面でご覧ください。
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編集部に記事の誤り指摘をメール
私の興味のあるテーマでもあったので読み進めていったのですが、争点について解説に書いてあることが、どうも間違っているように思えてなりません。専門家がそれなりの雑誌に書いている記事ですし、事件の根本となる部分を間違うとは考えにくかったので何度も確認しましたが、勇気を出して編集部にメールを送りました。それが以下です。
『税務弘報』編集部御中
税務弘報2019年1月号を拝見しました。
連載「判決文をスッと読む極意」の内容について、
疑問に思う点がありましたので、以下述べます。
著書にお問い合わせ頂けましたら幸いです。
本記事は、サラリーマンマイカー税金訴訟について扱ったものです。
まず、p.106の記述について、
「マイカーが、生活に必要な動産に該当すれば、その譲渡損は損益通算できることになります」とありますが、
間違っています。
(所法9条2項1号により、譲渡損はないものとみなされるため、損益通算できません。)
次に、p.108、上告理由の欄外解説部分に、
「一般的にマイカーが「生活に通常必要な動産」といえることが主張されています。」とありますが、
原告(控訴人/上告人)はそのような主張をしていません。「生活に通常必要でない資産」ではない、と主張していますが。
「生活に通常必要な動産」とも主張していません。
前述の通り、「生活に通常必要な動産」に該当したら損益通算できないからです。原告の主張の肝は、
①生活に通常必要な動産(所法9条1項9号、令25)
②生活に通常必要でない資産(所法62条1項、令178条1項3号) の他に、
③一般資産、なるものがあって、
本件マイカーは③に当たるというものでした。
この訴訟のポイントは、
一審はマイカーを「生活に通常必要な動産」と判断し、
二審は「生活に通常必要でない資産」と判断し、
結論として、どちらも損益通算できないので原告敗訴としたものですが、
一審と二審で理由が異なったところにあったと思います。
連載のテーマとしても、
一審と二審の判決文を並べて比較をすると上記の論点が明確になったと思いますが、
二審と最高裁を並べていたため、その点にも解説で触れていなかった点が残念です。
(ちなみに、最高裁は二審を踏襲して「生活に通常必要でない資産」と判示しましたが、
この判決に反して、国税庁がその後ウェブサイトで公表している見解は、
通勤用自動車は「生活に通常必要な動産」となっているところが、
税務実務に携わるものとしては大変興味深いところです。)
生活用動産の譲渡による所得
家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産の譲渡による所得です。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
記事で論点としてどの部分をとりあげるかは、著者の裁量と思われますが、
最初に指摘した、生活用動産が損益通算できる、と記述している点は明確に間違ったものですので訂正が必要と思われます。
なお、本メールの内容は、後日私のblogにて公開したいと思っています。
以上、よろしくお願いいたします。
<署名省略>
3月号にて訂正記事が掲載
編集部を通して、執筆者の先生に確認して頂き、訂正するとの旨返信をもらいました。2月5日発売の3月号に訂正記事が掲載されました。これにて一件落着です。
自家用車は「生活に通常必要な動産」か?
ところで、上記のメール中でも紹介したように、現在は、国税庁サイトに、通勤用自動車は「生活に通常必要な動産」と記述があります。しかしこれ、自家用車なら何でもいいわけではなく、専ら通勤に使用しているもの、という限定付のようです。
国税不服審判所平14.2.26裁決(裁決事例集No.63 160頁)に類似の事例がありました。本件では、審査請求人は所有の自動車が「生活に通常必要な動産」に当たると主張し、雑損控除の適用を受けようとして争いました。しかし、審判所は、請求人の住所が公共交通機関の使える場所にあるという理由で、自動車は生活に通常必要なものではない、と判断しています。
……本件車両が通勤用に使用されていないこと、請求人の住所地はP市の中心に位置し交通の便が特に悪いとも認められないことなどを総合的に判断すると、本件車両が通常の社会生活を営むのに必要なものであるとはいえず、本件車両は、所得税法に定められた「生活に通常必要な動産」ということはできない。
……何らかの理由により本件車両を仕事に使用したとしても、生活に通常必要なものとしての本件車両の使用ではないといわざるを得ない。
C そうすると、請求人が主張する本件車両の損失の金額2,860,560円は、いずれも雑損控除の対象となる損失の金額に該当しない
これらを見ると、当局の判断する「生活に通常必要な動産」の範囲はかなり狭いものであると言えそうです。
※この記事は法解釈の一事例を示したものであり、閲覧時点での有効性を保証するものではありません。
※ご自身の申告にあたっては、資格と十分な能力を有した税理士にご相談ください。