Markの資格Hack (税理士試験)

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簿記講師に聞く「税理士試験は、他の簿記試験に比べて不備が多い?」

当blogで先日公開した、税理士試験不適切問題集・簿記論編は、某予備校の簿記講師の先生に協力をお申し出頂き作成しました。簿記講師としての経験から関連していろいろとお話を伺いましたのでインタビューとして掲載します。

目次

今年の簿記論の試験問題について

Mark(以下M)「こんにちは。不適切問題集の作成にご協力頂きありがとうございました。おかげ様で専門的見地からの検証を踏まえたクオリティの高い解説ができたと思います。」
kuroneko(以下K)「いえ。こういった地道な努力を続けられているMarkさんには本当に頭が下がります。本来ならば我々予備校や、大学などの専門機関がきちんと声を上げ、適正化に進まなければいけないところを、本当にお恥ずかしい限りです。」
M「あらためて、今回の簿記論の試験問題や、税理士試験について、いろいろお話をお聞かせ願えればと思います。よろしくお願いします。」

K「はい。よろしくお願いします。」

M「今年の簿記論の問題に触れたいと思います。不適切問題集はK先生に元の原稿を書いて頂いて、私も問題を解きながら、編集させて頂きました。これだけ不備が散らばっていると、受験生は何かしらの影響は受けますね。」
K「そうですね。全員が同じ条件だから平等だなどとは言えないレベルのミスが散見されます。ミス問題に手を付けなかった受験生が正解、などといった不条理が許されるはずがありません。」
M「受験テクニックとしては、不備のある問題には時間をかけず飛ばすのが高得点を取るセオリーですが、本試験で初見でそれができるかというと無理ですよね。特に複数の解答欄に影響する問は。」
K「そうですね。また、ミス問題が多くなると、その問題に触れないテクニックばかり覚えるようになり、肝心の奥深い税務会計知識が疎かになるかもしれませんね。そういう専門的知識がない税理士が生まれるのも時間の問題かもしれません。」
M「第三問の賞与引当金は酷いですね。K先生も力を込めて批判しておられたのですが、意味を理解するのに相当考え込みました。作問者の意図は何かあるのかと思って、様々な処理を検討してみましたが、結局問題に書いてあることの辻褄が合わない。」
K「そうなんですよね。あの問の整合性を取るために時間をかけた受験生も少なからずいたことでしょう。」
M「何が酷いって、整合しないけども、一応答えは出せてしまうことです。問題として絶対におかしいんだけど解答不能とは言えない。だから問題の悪質さが伝わりにくい。」
K「そうなんですよ。一応の解答(らしきもの)が出せてしまうので予備校の批判は免れていますが、到底理解できる処理ではなく、背景が全く分からない。どういった趣旨で出題されたのかを聞いてみたいものです。」
M「「賞与引当金」だけサクッと合わせた人はいいですが、他の勘定も合わせようと深く考えた人ほど深みにはまりますよね?」
K「そうですね。簿記の原理を深く理解している人ほど混乱するようになっている悪問だったと思います。」
M「時間の十分にある試験なら影響はここだけで済みますが、ここで点を取りに行った人は、しっくりいく答えが出ず精神的動揺があり、時間を消費して他の問にも影響します。」
K「まったくその通り。1年間真面目に勉強してきた受験生をあざ笑い、簡単な問題ばかり手を付けるような要領のいい人を合格させるつもりなのでしょうか。要領の良さは大事ですが、これでは1年間誰でもできるような基礎のみを勉強し、あとは無視する勉強法を取ったほうが有利なんですね。しかしそれでは仕事にならない。大きな矛盾をはらんでいます。」
M「受験生は条件は同じだから平等という人がいるのですが、そうではないと思います。過去に書きましたが、どの問を選んだかによって有利不利の運の要素が入ってくるんです。」

K「まぁ、そういった議論の前に、そもそも不適切問題というものがあってはいけないんですけどね(笑)。税理士試験のような国家試験においては特に。」


国税庁の対応

M「今年の簿記論の問題不備は例年に比べても酷いと言える状況だったのでしょうか?」
K「例年に比べて同じくらいのひどい状況ですかね。必ず毎年不明な問題が出題されます。問題の出題に慣れていない人が作っているので、思い込みが先行し、別解の存在に気づいていない可能性が考えられます。 」
M「なるほど。」
K「まぁ、作成時点ではそれでいいのですが、チェックの時点で別解の存在や資料不備などを指摘できる優秀な人材を国税はもっと雇うべきではないでしょうか。バイトとして募集するのはさすがに情報漏洩があるんので厳しいと思いますが。極論ですが、個人的には各校から数名、予備校の優秀な講師を雇うのが一番手っ取り早いと思っています。そうなれば予備校は逆に痛手ですが(笑)」
M「試験問題の不備を防ぐ体制になっていないことが、税理士試験の一番の問題点だと思います。試験委員も人間なので、間違いはあると思います。それがそのままスルーされて本番の試験で出題されてしまう。国家試験としてあまりにも杜撰です。」
K「なんにせよ、国税側の体質が変わらなければ問題不備はずっとそのままだと思います。向こうは不備があると思って出題していないと思いますので。悪い見方をすれば、 「実務(もしくは学問)わかってない連中が何か言っている」程度の認識かもしれませんね。」
M「事前のチェックも、事後の対応も、まともにできていない。他の国家試験でも出題ミスがあることはあるんです。そのときは当然、主催団体から訂正・謝罪や「全員正解にする」とかの措置の発表がありますよ。税理士試験は不備があったことすら認めないでしょう?何が正解とされたのか真相は闇の中です。私が税理士試験をブラックボックスと呼ぶ所以です。」
K「ブラックボックス…非常に適切な表現だと思います。なぜ合格したのかわからない、なぜ不合格なのかわからない、こういった税理士も大勢います。しかし、一度合格してしまえば税理士ですから、受験中のそういった疑問を気にされない方も多いと思います。被害者は、税理士になれる実力があるのに、報われない方々です。」
M「そういう意味でも不備をきちんと記録に残しておくことが必要だと思っています。この不適切問題集は国税審議会にも郵便で送る予定です。」
K「そうなんですね。よろしくお願いします。多額の自費を投じてまで、懸命に努力されているMarkさんの信念というか、執念のようなものを感じます。」
M「相当執念深いと思います(笑)。去年も問題の疑義を問い合わせたんです。*1当然のように返事はありませんでした。」
K「無視ですか。」
M「もしかすると事務局止まりで、国税審議会の場で委員に報告すらされていない可能性があります。今年はもっと実効力のある方法も考えます。」


会計士試験との比較

M「K先生は、簿記の講師でいらっしゃいますが、どういったクラスで教えていらっしゃいますか?」
K「主に税理士受験クラスで会計科目を中心に教鞭をとっています。税理士試験を受験される方々はやる気のある方ばかりで、「この人は合格するな」と思っても、毎回A判定で不合格といった人も多いですね。それでもひたむきに次の1年間を頑張られるので、こちらが悔しくなります。また、過去には日商簿記や建設業経理士、情報系資格などの勉強を教えていたこともありました。」
M「そのご経験を踏まえて、税理士試験と他の簿記試験とを比較して教えて頂きたいと思います。」
K「なるほど。とても重要な比較だと思います。」
M「まずは、会計士試験について。情報公開はかなり進んでおり、税理士試験とは段違いですね。」
K「会計士は短答式と論文式があるのですが、短答式の場合、選択肢ですから、答えが存在しない場合、問題チェックの時点ですぐ分かるのだと思います。ただ、短答式の場合、解答も点数も問題も答案用紙(マークシートですが)も全て無料公表されますので、公式に問題不備があった場合、数年に1回程度、「解なし」と発表されることがあります。 その場合は、受験者に一律正解とする措置が取られていますね。」

平成29年公認会計士試験第I回短答式試験の合格発表について

本日、平成29年公認会計士試験第I回短答式試験の合格発表を行いました。試験結果の概要、合格者の受験番号等は、次のとおりです。

1.試験結果の概要(PDF:56KB)

2.得点階層分布表(総合得点比率)(PDF:71KB)

3.正解、満点及び配点(PDF:39KB)


平成29年公認会計士試験第I回短答式試験の合格発表について:公認会計士・監査審査会


K「論文式は問題公開*2はありますが、解答の公開はありません。この点、論文式は一意の解答よりも受験者の会計解釈や法解釈を重点的に見ているのだと、受験生の結果を見て感じます。決して不都合だから公開しないといった感じは受けていません。試験委員の考え方もあるのでしょうが、それだけで合否を判断しているのではないと思われます。」
M「解答ではありませんが、「出題の趣旨」*3が公表されますね。どういった内容を書けばいいのか、それなりに参考になると思います。」
M「一方、税理士試験は「出題のポイント」を10月に公表しますが、当たり障りのないことしか書いてなく、大雑把過ぎて合否の判断をする上では、ほとんど参考になりません。」
K「そうですね。毎年一応見るのですが、またコピペか…と落胆するので見たくないというのが本音ですね。」
M「会計士試験の成績通知書には、得点だけでなく、得点比率(大問ごとの得点比率)、順位も記載されています。さらに公認会計士・監査審査会に情報開示請求すると、論文式試験の大問ごとの素点・得点比率、採点前答案用紙のコピーが開示されます。」


K「会計士試験制度については、アカスクなどの免除制度についての文句はたまにありますが、筆記試験についての文句はあまり聞いたことはありませんね。非常に透明性が高く、受験生が安心して受けられるよい試験だと思います。」
M「今こうした情報開示が行われているのも、実は過去に開示請求をして戦った方がいたからではないかと思っています。以前にこのblogでも記事にしましたが、会計士試験や司法試験では、受験生が開示請求を行って審査請求や訴訟で勝った歴史があるのです。そして私も今、税理士試験の模範解答の開示を求め審査請求をしている最中です。」


K「会計士も元々は閉鎖的な試験でしたが、透明性の高い試験になったんですね。」
M「2006年から現行の試験制度になりましたが、制度改革にあたって専門家による真剣な議論があったようです。」

[1] 現在の制度においては、著しく受験者の負担が大きくなっていると指摘されており、社会人等を含む多くの多様な人材が受験し易くするとの観点から試験科目、出題範囲等やインターン制度について見直す必要があるのではないか、
[2] 受験者の勉強方法が、ややもすれば、暗記中心となっているとの指摘があるが、公認会計士業務に不可欠な資質である思考能力や判断力を有しているかをより的確に判定できるよう、出題内容、試験実施方法を検討すべきではないか、といった指摘がなされており、試験制度全般について見直しをする必要がある。

以上のような認識に基づき、当小グループでは、8回の会合を開催し、学識経験者、他の資格試験関係者からヒアリングを行いつつ、精力的に審議を進めてきた。

   (中略)

(3)  合格判定基準・配点・模範解答等の公表について
 現在、公認会計士試験においては、合格判定基準、配点、模範解答については、その公表を行っていない。なお、第2次試験の論文式試験については、不合格者のうち希望者に対してはランクにより成績の通知を行っている。
合格判定基準、配点、模範解答等の公表に関しては、資格試験における公平性・透明性を確保する観点等から、基本的には公表することが望ましいと考えられるが、例えば、論文式問題などの考え方を問うような問題における模範解答の公表については、解答が必ずしも一つとはならないことにより却って受験者の混乱を招く可能性もあるなど、その方法等については十分に検討を行う必要がある。

「公認会計士試験制度のあり方に関する論点整理」の公表について

他の簿記試験について

K「日商簿記も、聞いたところによると12人程度のチェック体制をとっているらしく、問題不備どころか誤植すら珍しいような試験です。問題自体の不備はほとんどなく、別解が存在するような箇所には必ず必要な指示が入っていると思います。」
M「実は私の知り合いで、日商簿記の採点をやったことのある人がいます。」
M「C大学の会計科の院生だった人なんですが、その人曰く、日商の試験問題は大学の教授が一人で作られているそうです。」
M「採点は研究室の学生に回ってくるそうなんですが、最初に全員で集まって問題を解いて、別解が出ないかあらゆる可能性を検討して解答例を作成するそうです。」
M「割引率をかけた後の小数点の端数処理とか、通常は問題に指定があると思いますが、解釈が複数取れるような問題が出た場合の採点は全パターンの別解を作るので大変だと言っていました。」
K「そうなんですか。しかし、全経上級はこれが甘く、誤植や問題不備(例:2,000,0000円とか、問題と解答用紙の勘定科目の不整合とか)が多いですね…。ただ、こちら側の意見表明として、解答できない場合は「解答不能」、別解が出る場合は「別解あり」と明確に解答速報で書かせていただいています。」
M「そうなんですね。」
K「というのも、全経協会ともコネクションのある方がおっしゃるには、協会側は必ず専門学校の解答速報で一回自分たちの作った答えを合わせてから、不明点は明らかにして、採点しているようなのです。この点が本当であれば、税理士試験よりはいい採点がされていると思います。」
M「予備校の指摘を考慮して、作問者の独断で不当な採点はしていないと言えそうですね。」
M「日商簿記も点数以外は公表しないとしている点については、税理士試験と同じですね。ただ、税理士試験と違い、予備校の発表する解答速報でかなりの精度で自己採点ができるのではないでしょうか?」
K「そうですね。日商簿記は合格者も不合格者も点数は出ますからね。毎回、予備校側の自己採点の精度を上げるために、本点数が来たらすぐに、自己採点と本点数との比較を行っていますが、自己採点で合格ラインぎりぎりの微妙な方を除けば、ほぼ自己採点通りの合否になっています。」

試験問題の内容および採点内容、採点基準・方法についてのご質問には、一切回答できません。
取得点数は、受験者本人にのみ開示することができることになっていますので、受験された商工会議所にお問合せください。但し、答案の公開、返却には一切応じられませんので、予めご了承ください。

受験に関しての同意事項 | 商工会議所の検定試験

M「日商簿記では、出題の意図・講評を発表しています。講評では、どの問の出来が良かったとか、どこを得点して欲しいとか、採点者の実感が書かれています。」

日本商工会議所では、受験される方々の学習の手助けになるよう、級ごとの「出題の意図・講評」(ネット試験方式の簿記初級・原価計算初級を除く)を作成しております。試験終了後すぐに復習に役立てていただけるよう、まず、出題のねらいや解法のポイントなどを「出題の意図」として公表し、その後、試験結果を踏まえたコメントを「講評」として加えて公表しております。

簿記 出題の意図・講評 | 商工会議所の検定試験


M「全経簿記は、「試験問題、解答及び得点に関する照会には応じられません。」としています。最近、出題の意図が公表されるようになったとか?」
K「全経では、平成19年2月の第152回検定から出題趣旨が公開されていますね。最近は趣旨だけではなく、採点を終えてから再度「採点を終えて」とう名称で講評が公表されます。日商でも、採点終了後に出題の意図のファイルを上書きする形で「講評」が付け加えられていますので、受験生や予備校にとっても非常に参考になる資料になっています。」
K「まとめると以下のようになります。」


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K「要点は、税理士試験が最も不透明だということです。ただ、今年から点数開示が始まりますし、どんどん新しいものになっていって欲しいですね。」
M「よくわかりました。税理士や受験生の間で問題意識を持つ人が増えていけば、きっと変わると思います。」
K「いつまでも閉鎖的な業界ではなく、時代に対応した明るい業界を目指すなら、Markさんのような声を大にして問題点を叫ぶ方が必要です。これからも応援しております。」
M「私が試験の適正化をぶち上げたとき、不思議でしょうがなかったんです。こんなにおかしなことだらけの試験なのに、なんで皆文句一つ言わないのだろうと。誰も言わないんで私が先頭を切って始めたわけですが、主張しなきゃ絶対に変わりませんからね。まぁ、思うのは、大半の受験生は自分の勉強の方が大事なのと、他者から批判されることが恐いんでしょうね。最近やっと受験生が試験の批判を公言できる空気になってきたと思います。」
K「税理士試験は他の試験に類を見ない不適切な問題が散見され、試験のみの問題ではなく、税理士という職業全体にかかわる重大な問題だと私は思っています。大袈裟ですが、未来の会計業界を守るためにも、税理士試験の適正化は本当に必要なことだと思っています。頑張りましょう!」
M「私がどこまでできるかわかりませんが、このように支えてくださる方がいるので続けてこられました。今日はありがとうございました。」
K「ありがとうございました。今後とも、ご協力できることがありましたら微力ですが協力させてください。」





「税理士試験適正化活動」では、「税理士試験不適切問題集」の作成にご協力いただける方を募集しています。これまでに取り上げていない科目や過去の試験問題についても、記事を書けるという方は、Markまでご連絡ください。
また、試験適正化の機運を盛り上げるためのご支援も募っています。税理士講座講師や税理士の方で何らかの形で協力できるという方、私と会って話してみたいという方も是非ご連絡ください。