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税理士試験免除の大学院を特定支出控除の対象外とする国税庁解釈はおかしい

「給与所得者の特定支出控除」(所法57の2)という制度があります。改正で平成25年分から、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も含まれることになりました。この制度について国税庁が質疑応答を公表していますが、そこで示されている「税理士試験一部科目免除のための大学院の費用が特定支出に含まれない」とする法令解釈について疑問があります。



目次

「 給与所得者の特定支出控除」制度の概要

この制度について改正の経緯等が、税理士伴洋太郎さんのblogにまとめられていますので、まずはご覧ください。


続いて、国税庁の情報。

特定支出控除の改正

 給与所得者の特定支出控除について、範囲の拡大等が行われ、給与所得者の実額控除の機会が拡大されました。

《範囲の拡大》
 弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費、勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費等)が特定支出に追加されました。


給与所得者の特定支出控除の改正について|国税庁

国税庁解釈「税理士試験免除のための大学院は特定支出とならない」

平成28年に国税庁からより詳しい法令解釈情報が出されました。

問題の解釈はこれです。

5資格取得費(法科大学院の費用)
問 勤務先より弁護士の資格を取得するよう命令を受け、法科大学院(ロースクール)に通うことになりました。この法科大学院に係る支出は、特定支出となりますか。

(答)
法令の規定に基づきその資格を有する方に限り特定の業務を営むことができることとされている弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師などの資格を取得するための支出でその方の職務の遂行に直接必要なものであることについて給与等の支払者により証明がされたものは、特定支出となります。現在、基本的には法科大学院で一定の学位を取得しない限り司法試験の受験資格が得られず、弁護士の資格を取得するための一般的な手段が法科大学院を修了する方法であると考えられることなどから、法科大学院に係る支出は、資格取得費として特定支出となります。

(注)
会計大学院(アカウンティングスクール)に係る支出については、会計大学院は、それを修了することにより、公認会計士試験の一部科目を免除されますが、法科大学院とは異なり、受験資格を得るための支出ではないため、資格取得費としては特定支出とはなりません。また、税法や会計学に関する研究により修士の学位を取得するための支出についても、これにより税理士試験の一部科目を免除されますが、同様に資格取得費としては特定支出とはなりません。

別冊3【第2質疑応答編】(PDF/292KB) p.16


法科大学院の学費 ◯
会計大学院の学費 ×
税理士試験免除の大学院の学費 ×
と、国税庁は解釈しています。

名指しで税理士試験免除の大学院はダメ、と言っていますが、その理由がよくわかりません。「受験資格を得るための支出ではないため」資格取得費にならないと言っていますが、受験資格を得るために必須かどうかが、資格取得費としての判断基準として妥当とは考えられませんし、そのような要件は法律にもありません。*1

仮に大学院と税理士資格の取得が直接関連していないことを言っているのだと考えても、法科大学院も卒業したからといって司法試験合格=法曹資格取得が約束されているわけではない点では同様です。法科大学院は卒業しても司法試験に合格するのが一部であるのに対し、税理士試験の場合は修士論文の形式を満たしていればほぼ確実に認定されることを考えると、むしろ資格取得に直結しているのは税理士の方だと言えます。

大学院本来の目的が学問のためであったとしても、その者(納税者)が資格取得を主な目的として進学している以上、その支出(学費)について職業上の必要性が認められるべきだと私は考えます。


なお、「資格を取得するための支出」であればよく、結果として資格取得ができなかったとしても特定支出になることは、国税庁も言っています。

結果として資格の取得が出来なかった場合であっても、資格を取得するための支出については、特定支出となります。

別冊2【第1解説編】(PDF/317KB)

法令にはそんな要件は書いていない

上記の解釈は、あくまで国税庁が考えている解釈です。ここで法律の条文を見てみると、そのようなことは書いていないのがわかります。

所得税法

(給与所得者の特定支出の控除の特例)
第五十七条の二 居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。
2 
(略)

三 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(人の資格を取得するためのものを除く。)であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののための支出
四 人の資格を取得するための支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの


e-Gov法令検索


所法57の2第2項3号に研修費、4号に資格取得費が定められています。「その者の職務の遂行に直接必要なもの」で「給与等の支払者により証明がされたもの」であれば対象になるとするのが条文です。上記の様に、法律にない要件を課税庁が勝手に加える様な解釈を行い適用を制限するのは、租税法律主義の観点から許されるものではありません。



研修費としてなら特定支出に該当するか

3号の「研修費」としての該当性については、「人の資格を取得するためのものを除く」と条文に書いてあるのが気になりますが、仮に「資格取得費」として否定されるのであれば「研修費」と考える余地はあるように思います。


どちらも「職務の遂行に「直接」必要な」とあるのが、どこまでを「直接」と考えるかで曖昧な規定ぶりではありますが、そのために勤務先の証明を申告時に必要としていることを考えると、勤務先が認めればOKという考え方でいいのではないかと思います。ちなみに勤務先の証明は、以下の様な書式が公表されており、勤務先の理解があれば比較的容易に整えることができそうです。

特定支出(資格取得費)に関する証明の依頼書


給与所得者の特定支出控除に関する証明書の様式等の制定について|国税庁

速やかな解釈見直しを要望します

以上見てきたように、法科大学院の学費が特定支出に該当し、税理士試験免除のための大学院が該当しないとする国税庁の解釈には、合理的な理由がありません。なぜわざわざ税理士試験免除の大学院を名指しして、一貫性のない解釈を公表したのか、大いに疑問を感じます。


今まさに私は大学院で税法の勉強をしているところですが、課税庁が、公表していた解釈通達をある日急に削除したり、全く違うものに変更したりということを行った例は多数あります。*2専門家として、基準とするべきはあくまで法令であり、通達とはきちんと区別しなければならないということを学んでいます。


この件は、税理士資格にも関係することですので、速やかに見直しを国税庁に要望するように、日税連にも意見を送付しておきました。

*1:また、この理屈で言うと、多くの税理士が特定支出の対象だとしている、税理士受験予備校の授業料もダメということになります。

*2:例:ストックオプションの所得区分、住所の意義