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配当所得、株の譲渡所得を住民税で「申告不要」にするための申告(名古屋市の場合)

タイトルが長くなりすぎるので省略しましたが、この記事の主題をフルで書くと以下のようになります。「所得税の申告で総合課税に入れた配当所得、申告分離を選択した上場株式等の譲渡所得等を住民税で「申告不要」にするための申告(名古屋市の場合)」です。

確定申告期間中は、株の申告について解説した以下の記事へのアクセスが、このblogの中でもトップを争っていました。


確定申告期間は終了しましたが、今からでも申告の参考とされる方のために、あるいは、制度「改正」により複雑かつ面倒な手続きが必要になったこと、自治体によっても必要な手続きが異なったこと、を記録しておくために、この記事を残しておきます。

目次

何のために必要な手続きか?

上場株式等の配当所得については、総合課税・申告分離課税・申告不要制度の3つの課税方式から選択することができます。また、源泉徴収ありの特定口座内の上場株式等の譲渡所得等、特定公社債等の利子所得については、申告分離課税・申告不要制度を選択できます。

「申告不要」とは、源泉徴収がされている上場株式等については、確定申告を省略できるというものです。しかし、課税所得が一定の金額までの人の配当所得については、総合課税を選択して配当控除を受けることにより、源泉徴収分より低い税率とすることができるというメリットがあります。一方で、申告所得に含めると、国民保険料等の算定基礎となる総所得金額等に含まれてしまうため、保険料負担が増大する可能性があるというデメリットもあります。


従来は、所得税の確定申告で選択した課税方式と同じ方式が、住民税の税額計算にも自動的に適用される、というのが「常識」でした。しかし、平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日閣議決定)において、所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることが「明確化」されました。この課税制度の転換は、特段の法律改正が行われたわけではなく、法解釈が「明確化」されたに過ぎません。*1平成29年4月に総務省から地方自治体に向けてこの取り扱いを徹底するよう通達が出されました。実質、平成29年分所得税申告(平成30年分住民税申告)が「改正元年」ということになります。


この「改正」により、メリットを享受できるケースが拡大されました。最大限の節税を実現するには、所得税で申告に含めた所得を住民税で「申告不要」にする必要があるのですが、そのためには、所得税の確定申告とは別に、住民税の申告をしなければなりません。その結果、「住民税で「申告不要」にするための「申告」」という冗談のような手続きが誕生したわけです。

<総務省からのお知らせ>上場株式等に係る配当所得等の課税方式について
2017年4月21日お知らせ

平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日閣議決定)において「上場株式等に係る配当所得等について、〔中略〕所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることを明確化する」と記載されたことを受け、総務省では「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)の一部改正について」(平成29年4月1日 総税市第26号)を各地方団体に通知し、上場株式等に係る配当所得等の課税方式について適切に取り扱うよう要請しています。

具体的には、個人住民税の申告書と所得税の確定申告書の両方が提出された場合において(通常は所得税の確定申告書のみを提出することにより申告実務は完了しているが、別途に個人住民税の申告書も提出された場合が該当する)、個人住民税における上場株式等の配当等について、必ずしも確定申告書を優先して課税方式を決定するのではなく、これらの申告書に記載された事項その他の事情を勘案して決定することとしています。

なお、既に納税通知書が送達されている場合には、当該納税通知書に係る年度分の個人住民税について遡及して課税方式の変更を求めることはできません。

どのような場合に有利(節税)となるか

どのような場合に有利(節税)となるか、ここでは詳しく書きませんが、大和総研のレポートが網羅していますので、ここから税率表を引用しておきます。配当所得を完全に「申告不要」とした場合の源泉徴収税率は20.315%(所得税+復興税+住民税)、これより合計税率が低い場合に有利となります。所得税と住民税を共に総合課税とした場合は課税所得695万円以下、所得税を総合課税・住民税を申告不要とした場合は課税所得900万円以下までです。

課税方式の選択の分析(国内上場株式の配当の場合)

上場株式等の住民税の課税方式の実質見直し 大和総研金融調査部


また、上場株式等の譲渡所得等、特定公社債等の利子所得については、配当所得との損益通算や繰越控除を適用する場合に申告分離を選択しますが、その場合住民税の還付額を国民健康保険料等の負担増加額が上回る可能性があるため、比較検討する必要があります。


去年の今頃に検索した頃は、上記の大和総研のレポートが出るくらいだったのですが、この一年で多数の内容の薄いblog記事等が書かれ、検索結果が汚染されてしまいました。根拠の明確なページを参考にしてください。


名古屋市での申告手続き

申告会場に行ってきた

ここでは、私が自身で経験したことを元に、「申告不要」にするための申告手続き(名古屋市の場合)について説明しておきます。私は、申告期間中に区役所に設けられている申告会場に行って、出張してきている市税事務所の職員に話を聞きながら申告書を作成しました。この時期の税務署の混み様とは打って変わって、会場は空いており、私の他に納税者の方が一人申告書に記入しているだけでした。事前に税務署に提出していた所得税申告書の控えを持って行くと、提出用に職員の方がコピーを取ってくれ、それを参考に住民税の申告書に手書きで記入しました。住民税の申告書を作成したのは私は初めてでした。

提出書類は5点

所得税の申告に入れた所得を住民税で「申告不要」とするためには、住民税の申告書(総合用、分離用、繰越控除用)をそれぞれ作成した上で、さらに、所得税と異なる方式を選択することの申出書に記載する必要があります。ちなみにこの申出書は、名古屋市のホームページ上にありません。


「申告不要」にするため提出する書類(名古屋市)

  • 住民税申告書(総合用)
  • 住民税申告書(分離課税用)
  • 課税方式の申出書
  • 譲渡損失の繰越控除明細書
  • 税務署に提出済みの所得税申告書のコピー

「申告不要」にするため提出する書類(名古屋市)

提出は住民税の賦課決定がされるまで可能

上記の申告書一式は、事前に市税事務所に電話して申告したい旨を伝えたら、郵送してもらうことができました。一応、簡単な記入方法の説明も同封されていましたので所得税の申告書を書き慣れている方であれば、自分で書いて郵送での提出もできるかと思います。


ちなみに、市税事務所に電話で問い合わせたときは、3月15日までに提出するように言われました。住民税の賦課決定があるまでに出せばいいという情報もあるが、と聞いてみたところ、それは災害等のやむを得ない場合の規定で、認められる要件が厳しいので3月15日までに出してください、と言われました。(根拠は地方税法317条の2、317条の3でしょうか。)
ところが、区役所の申告会場で市税事務所の職員に聞いたら、やはり住民税の決定が出るまでなら受け付けるようなことを言っていました。1ヶ月くらいは遅れてもよさそうでした。期限内に出せば言うことないですが、今からでも何とかなりそうな感じでしたのでご参考まで。


後述する東京都港区の申告書には以下の記載があります。5月頃にある納税通知書(課税明細書)の送達が期限のようですが、早めに出すに越したことはありません。

※ 原則として、該当年度の申告期限(3月15日まで)にこの申告書を提出することが必要です。
※ ただし、期限後であっても、納税通知書が届く前までに提出されたものは有効です。
(該当する納税通知書がすでに送達されている場合は、この申告は無効となります。)

手続きはもっと簡略化できるはず

ひとまず、改正元年の名古屋市の対応としては、上記のような手続きが必要だということでしたが、この対応は自治体によって異なります。twitterで頂いた情報では、東京都港区では、住民税申告書の提出も不要で、簡単な紙一枚の申告書を提出すればいいとのことでした。港区のものを見ると、配当所得等、譲渡所得等それぞれについて、申告方式と所得金額、控除額のみを記載すればいい様式になっています。*2名古屋市のものに比べれば、随分と簡単になっています。


さらにいえば、所得税とは別に住民税の申告をすること自体が無駄な労力とも言えます。所得税申告書二表下部の、住民税に関する事項のところに、住民税で選択する方式を記載できるようにすれば、それだけで完結できるはずです。来年の申告ではぜひそのように書式が改正されていることを望みます。


配当所得の課税については抜本的に見直すべき

課税方式を選択できる制度があり、それによって税額を抑えることができる以上は、最も有利な方法を考えるのが会計事務所の使命と思います。しかし、私の勤めている会計事務所では、通常の確定申告報酬で住民税の申告までは請けていません。社会保険料等への影響も考えると考慮すべき事情が複雑で、自治体毎に異なる住民税の申告手続きを行うというのは過大な負担となるからです。


私としては、前述した手続きの簡略化以前に、配当所得の課税については抜本的に見直すべきとの意見を持っています。配当所得が課税方式を選択できることになっている制度そのものが、課税の公平性を損なっています。また、法人税との二重課税を排除するため、という配当控除の制度は論理的に破綻しています。別の記事でも書きますが、配当控除の区分の定義は非常にわかりにくく、私の知っている限りでは、配当控除の控除率を間違って計算している申告も多くあるようです。

複雑過ぎる税制は、租税の三原則(公平・中立・簡素)に背くものであります。また、徴税官吏の事務が増大するという意味で、最小徴税費の原則にも反するものです。これについては、税制改正のための私案を持っておりますので、また別の機会に書くこととします。



※この記事は法解釈の一事例を示したものであり、閲覧時点での有効性を保証するものではありません。
※ご自身の申告にあたっては、資格と十分な能力を有した税理士にご相談ください。

*1:つまり、過去の年度の申告においてもできる可能性があったものですが、そのような申告ができたという話は聞いたことがありません。もしかすると、法解釈を巡り訴えた人がいたのかもしれません。

*2:ただし、特定公社債等の利子所得の欄が区分されていません。配当所得と利子所得の課税方式を区分したい場合に選択できません。そのような申告をする需要はないかもしれませんが。