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税法を学ぶ者が押さえておくべき一冊 木山 泰嗣『教養としての「税法」入門』

今日の記事は本のレビューです。著者の木山泰嗣先生は弁護士で、この本にも書かれていますが、戦後最大の税務訴訟と呼ばれるストックオプション訴訟で原告代理人の主任を務めた方で、現在は青山学院大学法学部の教授です。著書のとても多い先生で、私も既に5冊ほど持っていますが、最近なかなか本を読む時間がなく「積ん読」の山に入っていました。この本は税務クラスタの間でも評価の高い一冊ですが、もっと早くに読んでおくべきでした。

目次

この本を読むべき人

この本は一般書として書かれており、狙い通り多くの一般の読者に読まれているようです。しかし、税務・会計業界で長く仕事をしている人の中にも、本書に書かれている税法の基本が部分的に抜け落ちている人は少なくないように思います。

税務・会計業界で働いて思うのは、法学部出身の人が驚くほど少ないこと。かくいう私もその一人で、法律・法学の知識は、本やインターネットで独学で学んでいるまだまだ勉強中の身です。経営や商学を学んだ人が会計業界に来るのは自然なことですが、税務をやろうと思ったら法律は切っても切れないものです。課税関係の判断から、税務上の諸手続きをするにも、法律を読むということが基本であるはずなのです。しかし、税理士受験予備校のテキストや実務解説書で「この場合はこうする」という解答をパターン的に覚えて対処している者が大多数で、税法から演繹的に結論を導き出せるレベルまで理解している者は一部に限られると思われます。また、実際のところ、大部分の仕事はそれで済んでしまうということも原因ではあります。


この本は、次のような人に特にお薦めしたいと思います。

  • これから大学で租税法を学ぼうという人
  • 未経験で会計事務所に入って2〜3年目の人
  • これから税理士試験で税法の勉強を始める人
  • 税理士試験に合格したけど基礎的な法学の学習経験のない人
  • 自分の払う税金について根本から理解しておきたい人


逆に、税金について今まで何の興味も関心も持ってこなかった(税金を払ったことはあるけど、その仕組みについて考えたこともない)一般人が本当の一冊目として読むには、少々基礎知識が足りなくて読み進めるのが大変なのではないかと思われます。


この本を薦める理由

税金全般についてやさしく解説している

世の中に税金や会計について書かれた本は多く、所得税の本とか、消費税の本、あるいは、経理や節税に役立つ本などたくさんありますが、税金(税法)全般について書かれた一般書というのはなかなかありあません。

また、租税法の入門書や専門書となれば今度は定番書が無数にありますが、研究をしたいわけでもない人にとって、学術的でなかなかハードルが高いものと思われます。この分野の基本書である「金子『租税法』」は、調べ物の端緒として非常に役立つ虎の巻ですが、1000ページ以上あり、何の予備知識のない者が1ページ目から読んでいくのは現実的でありません。

この本は、平易な文章でわかりやすく書かれてありながら、根拠に基づいてきちんと書かれたものを読みたいという方に、あるいは「金子『租税法』」を読む前のイントロとしても、適しているのではないかと思います。

注釈が充実している

注釈が充実していることも、この本が税務業界の人にお薦めできる理由の一つです。根拠条文、判例をきちんと参照しているため、単なる著者の見解でなく信用できる情報源であることが確認できます。注釈だけでもかなりの分量になるため、取っつきづらい方は、まず本文だけを読んで一周するというのもありでしょう。税務専門家であれば、この本に出てくる基本的な条文、判例は全て原文に当たって確認しておくべきと思います。

内容紹介

それでは、この本の内容について、章別に簡単に紹介しておきます。

序章 巨額の課税は税法で決まる ーーー武富士事件
第1章 税法の歴史とは?
第2章 税法の判決にはどのようなものがあるのか?
第3章 税法とはそもそも何か?
第4章 税法の基本原則を知ろう
第5章 税法の解釈とは?
第6章 税法の制度を押さえよう
第7章 不服申立て・税務訴訟とは?


まず序章で、武富士事件を題材に、税法とは解釈が非常に重要であることを説いています。税法上の住所概念については一筋縄でなく、私もとても興味があります。最近も税大ジャーナル(税務大学校の編集する論文集)に武富士事件の最高裁判決を否定する結論の論文を見つけました。*1

第1章は、本書のタイトル通り、実務的に即効性のある使える知識というより、「教養として」知っておくべき部分の一つでしょう。私もこれを読んで知ったのですが、現行の所得税法の大本となる所得税法が制定されたのは、何年かご存じでしょうか?それは民法(1896年)や商法(1899年)、刑法(1907年)よりも前の1887年です。なんと、明治憲法の1889年にも先立つものであることは驚くべきことです。国家の礎となる税がいかに重要であるかを物語っています。ちなみに他の税法は、相続税法が1905年、法人税法がぐっと下って1940年です。私が最近学習して、『国税徴収法精解』の前書きを読んで知ったのですが、*2国税徴収法も1889年と古い法律です。全ての税法に共通する手続法である、国税通則法も国税徴収法から分離して作られました。

第2章はこの本の肝です。判例がなぜ重要かがわかります。

大学で租税法を学ぶなら第3章と4章を真っ先に読んで覚えるべきでしょう。第6章は、青色申告、源泉徴収、年末調整、税務調査、各種附帯税、予定納税、住民税の特別徴収など、業界で働いていれば常識となっているはずの知識ですが、判例や法的な側面から説明されると「なるほど」と思うこともあると思います。働き始めたばかりの人で十分な研修制度のない事務所だと知らないこともあるかもしれません。

第5章と7章は、意外と税理士でもわかっていない方が少なくないんじゃないかと私は思っております。超重要で基本的なことにも関わらず、税理士試験の勉強では教えずにすっ飛ばしてしまうからですが、ピンとこない方は今すぐ読むべきです。法解釈の類型と税法における適用の方法、不服申立て措置の概要を説明しています。



この本を読んで、税法をしっかり読んで仕事をする人が増えて欲しいと思います。