審査会答申「税理士試験の成績の記録されたファイルを不開示とした決定は、違法なものであり取り消すべきである。」 平成29年度(行個)答申第98号
既にtwitterの方で要点だけ説明させて頂きましたが、平成29年(行個)諮問第120号について、突然、予期していなかった答申書が届きました。こちらからの意見書の提出期限が9月19日とされていて、それを出したばかりでしたので、突然答申が出る意味がわからなかったのですが、答申書を落ち着いて読んでようやく理解できました。
結論を先に書いてしまうと、私が勝った、というわけではありません。これは、審査会で内容を審議して判断する以前の問題で、当初、国税庁が私に出した不開示の決定書が法律に則った形式になっていなかったため、無効(違法)ということです。
目次
これまでの経緯
平成29年(行個)諮問第120号についてのこれまでの経緯は以下の通りです。
平成29年9月19日(平成29年度(行個)答申第98号) 答申書
答申書は、私がスキャンしなくても、既に審査会のサイトに掲載されていました。全文を読みたい方は以下のリンクからどうぞ。
答申日:平成29年9月19日(平成29年度(行個)答申第98号)
事件名:本人に係る平成28年度税理士試験(相続税法)の成績の記録された文書の不開示決定に関する件
第1
審査会の結論「平成28年度(第66回)税理士試験(相続税法)における受験者の成績(点数及び順位)の記録されたファイル(本人部分)(ただし,解答用紙を除く。)」に記録された保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)につき,その全部を不開示とした決定は,理由の提示に不備がある違法なものであり,取り消すべきである。
ご覧のように、国税庁の決定が違法とありますが、その理由は「理由の提示」に不備があるからです。
第5
審査会の判断の理由
1( 略 )
2
理由の提示について
(1)開示請求に係る保有個人情報の一部又は全部を開示しないときには,法18条1項及び2項に基づき,当該決定をした旨の通知をしなければならず,この通知を行う際には,行政手続法8条に基づく理由の提示を書面で行うことが必要である。理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものである。この通知に提示すべき理由としては,開示請求者において,不開示とされた箇所が法14条各号の不開示情報のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならない。(2)そこで,原処分における理由の提示の妥当性について検討すると,当審査会において,諮問書に添付された原処分に係る保有個人情報不開示決定通知書を確認したところ,「開示をしないこととした理由」欄には「開示請求に係る保有個人情報は,電磁的記録として保有しているが,不開示情報を容易に区分して除くことが困難であり,法15条1項の「不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるとき」に該当しないことから,不開示とした。なお,開示請求に係る保有個人情報のうち,順位が記録されたファイルは,作成しておらず,保有していない。」と記載されている。 このうち,順位に係る理由の提示に特段不備があるとはいえないが,点数に係るものについては,上記記載では不開示とする法の根拠条項が明らかではなく,開示請求者において,不開示とされた箇所が法14条各号の不開示情報のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものであるとはいえない。
(3)したがって,原処分については,理由の提示の要件を欠くといわざるを得ず,法18条1項及び2項の趣旨並びに行政手続法8条に照らして違法であるので,原処分は取り消すべきである。
ということです。
国税庁の決定通知書は、上記リンク先の記事に画像を掲載していますが、それが以下の規定に違反しています。
(理由の提示)
第八条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2 前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。
具体的には、行政庁は開示請求のあった情報を開示しないときは、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律14条の1~7号のどれに該当するかを示さなければいけないのです。国税庁は、15条1項に該当しないから、開示しないと書いていたのですが、15条は部分開示をしなければいけない場合を定めている規定であって、開示しないことの根拠に使える規定ではないのです。
当初から国税庁の文書は、言葉足らずでどうもおかしいと思っていました。開示できない理由を直接的に書いていませんから、反論もしにくい印象でした。ですから私の審査請求書の冒頭で「ここでいう不開示情報が何を指すか明確にされていないが、審査請求人以外の他の受験者の個人情報を指すと思われる。」と推測によって補って、以後の論旨を展開しています。
しかし、反論しようとしている元の主張が何かはっきりしないことへの、私のイライラが、「そもそも、法第15条第2項では、「開示請求に係る保有個人情報に前条第2号の情報 〜 前項の規定を適用する。」と明記されているのであるからして、この規定を意図的に無視したとしか思えない処分庁の説明は、甚だ理解に苦しむものである。」という部分に現れています。
国税庁の担当者も慣れない文書を書く作業を法律を調べながらやったのでしょうが、同じように素人である私の方が正しく法律を読めていたようです。
(保有個人情報の開示義務)
第十四条 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない。一 開示請求者(第十二条第二項の規定により未成年者又は成年被後見人の法定代理人が本人に代わって開示請求をする場合にあっては、当該本人をいう。次号及び第三号、次条第二項並びに第二十三条第一項において同じ。)の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報
二 開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
三 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下この号において「法人等」という。)に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報を除く。
四 開示することにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
五 開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、開示することにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
七 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
(※ 各号の内のイロハ列記部分は省略)
(部分開示)
第十五条 行政機関の長は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合において、不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。
ふりだしに戻る?
おそらくこれは、ふりだしに戻ったのだと思います。国税庁は、答申に従って、当初の決定書を取り消しとした上で、改めて理由の部分を書き換えた不開示の決定を出してくると思います(理由に14条2号を追加してくるでしょうね。)。そして私から、もう一度審査請求をすることになると思います。同じ内容の理由説明書が届き、改めて審査会で審議してもらうことになると思います。とんだ二度手間です。勘弁して欲しいです。
先ほど、審査会事務局と国税庁情報公開室の方に電話しました。どう対応するかは、あくまで国税庁人事課試験係が判断することですので、明快な答えは得られませんでした。試験係に電話で聞いても、どうせ検討中でしょうから、しばらく向こうから何か届くのを待つことになります。