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意見書part2 税理士試験は詳細な成績を開示する必要性がある

審査会に提出した意見書を何回かに分けて公開していきます。

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目次

この章では、私が行った税理士試験答案の開示請求について、なぜこれを開示する必要があるのかを、税理士試験の詳細を知らない審査会の審議委員にも納得してもらえるよう説明しています。試験委員の採点が書き込まれた答案の全てを開示することには、支障があることから現実的には困難であることを理解した上で、どこまでを開示すべきか、理由とともに明らかにしました。また、平成28年度相続税法の問題について、問題の誤りとまでは言わないものの、疑義の生じた箇所があることを具体的に指摘しています。



以下、本文となリます。

2 審査請求人の主張

2-1 概要

 審査請求人が求める保有個人情報の開示を行うべきか否かについて、委員諸氏が判断を行う前提として、税理士試験の試験問題や求められる解答、試験制度の現状について理解して頂く必要があると考え、以下に説明及び主張を行う。
 国税庁が理由説明書の中でする、税理士試験に関する説明について、以下のように補足する。

2-2 科目合格制であることと評点開示の必要性

 税理士試験は、科目合格の制度をとっている。司法試験や公認会計士試験も科目毎に試験が行われるが、これらの試験が合格に必要な科目を同一の年に同時に受験することを前提としているのに対し、税理士試験はそれぞれの科目が非常に熾烈な競争が行われているため、一科目毎に独立した試験として行われている様相が強い。合格基準は満点の60%であるとされているが、実際には相対評価で受験者の上位10%程度が合格するように絞っているとされている(詳細を4−2で記述する。)。そのため、大半の受験者は一年に1科目ないし2科目を受験し合格するのがやっとという現状にある。よって、税理士試験受験者にとっての一科目の重みは、他の試験に比して格段に重い。
 他の国家試験(司法試験や公認会計士試験、行政書士試験)では科目毎の評点や順位を公表しているが、税理士試験において科目毎の評点の開示が行われたとしてもまだ不十分であり、税理士試験の一科目を他の試験における試験全体と同等に考え成績の開示を行う必要性がある。具体的には、現状の税理士試験で行われている、合格、ないし、不合格A/B/C/Dの大雑把な判定のみでは、あまりに不十分であるのは言うまでもなく、受験者の答案のどこがどう採点されたのかほとんど何の情報も与えていないに等しい。大問(第一問及び第二問)毎の評点や、さらに詳細に区分した評点を開示する必要性がある。また、開示したとして、国税庁の言うような「試験の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」など全く生じないが、この論点については本意見書3で後述する。

2-3 試験問題の構成と傾向

2-3-1 概要

 税理士試験の問題の構成は、科目毎に傾向が異なり、また年度毎に多少の変化があるため一概に言えないが、以下共通的な事項を述べる。
 各科目の試験時間はいずれも2時間で全記述式、ボールペンによる筆記により答案を作成する。税法の科目に関しては、ほとんどが大きく二問構成となっており、第一問では、問われている条件にあてはまる税法・通達を列挙し記述する問題、又は事例に応じて税法を解釈し説明する問題(一般に「理論問題」と呼ばれる。)が出題される。第二問は、与えられた資料からそれぞれの税法の申告書を作成し、課税標準と納付税額を求める問題(一般に「計算問題」と呼ばれる。)となっている。第一問:第二問が、それぞれ50点:50点の配分であることがほとんどだが、これらの解答に当たる時間配分は指定されていない。なお、会計学の科目に関しては、本意見書で取り扱わない。

2-3-2 税理士試験の傾向

 答案の作成にあたって法規集の持ち込みは禁じられているので、基本的に受験者は出題可能性のある全ての法令を暗記して試験に臨み、試験時間の中でひたすら覚えている条文を書き出す性格の試験となっている。計算問題も、ほとんどの科目で時間内には答案の全てを埋めることができない過剰な量の問題が出題されているので、適宜省略し全体の配分を考え1分1秒を争いながら、ミスの無いよう埋めていく高度な事務処理能力が求められる内容となっている。
 この点では、税理士試験の問題から求められているものは、司法試験で求められているものとは性格が異なる。司法試験では、「比較的長文の具体的な事例を出題し,法的な分析,構成及び論述の能力を試すという基本的な方向性を維持することを前提としつつ,過度に事務処理能力を求めるのではなく,受験者の事例解析能力,論理的思考力,法解釈・法適用能力等を適切に判定することができるよう,司法試験考査委員により一層の工夫を求めることとする。」(司法試験委員会決定「平成28年以降における司法試験の方式・内容等の在り方について」)という方針があるが、税理士試験からはそのような傾向が感じられない。司法試験や公認会計士試験の論文式試験のように、論理的な判断力や柔軟な思考力で論述することに評価が与えられるものとは異なり、税理士試験ではインプットした税法や通達の知識を如何に効率良くアウトプットできるかというところが試されている。文章構成が大きく破綻している場合を除き、機械的・断片的でも要件が挙げられていれば得点が与えられていると考えられる。
 国税庁の理由説明書2(1)で、「試験委員は、(中略)自己の専門的知見に基づき、個々の答案について、単に結果のみでなく、解答を導き出す思考過程や計算過程なども十分に考慮することによって、税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定しており、その公平性及び妥当性が確保されるよう十分注意しながら行っている。」としている。これは、税理士試験の現状認識として正確なものではない。現状の税理士試験は、税務の知識に加え、暗記能力と、速く正確な事務処理能力と、膨大な記述欄の内から限られた配点のある箇所を得点する運を持っているかを総合的に評価する試験である。

2-4 平成28年度相続税法の問題について

 続いて本件開示請求の対象となっている平成28年度相続税法の問題について説明する。

2-4-1 第一問(理論問題)

2-4-1-1 概要
 第一問は、問1及び問2の2問構成で、50点の配点とされている。答案用紙は計6枚である。

2-4-1-2 問1
 問1は、相続税の債務控除について説明を求める問題である。(1)は債務控除をすることができる範囲について、相続税法第13条第1項及び第2項を基本に、相続時精算課税適用者について同第21条の15、相続税法施行令第5の4第1項の内容を補って書けばよい。当然ながら、条文を思い出しながら考えて編集する時間的余裕はないので、予め予備校のテキストで編集された条文を基に受験者が暗記している内容をそのまま書き出すだけである。(2)は、債務の意義について、相続税法第14条の内容をそのまま書けばよい。

2-4-1-3 疑義論点
 議論があるのは、(2)の問題文の指定に「ただし、公租公課の税目等については、説明を要しない。」とされていたことが何を意味するかである。相続税法第14条第3項(所得税法に規定する国外転出時課税の適用がある場合)を解答範囲に含むか否かで予備校の模範解答でも解答が分かれた。この条項は、近年法改正が行われたもので、重要であることは多くの受験者が意識していたが、次の理由からあえて解答範囲から外した者も多いと考えられる。それは、①問題文で説明を要しないとされた公租公課に関する内容であること②複雑かつ長い条文であるので書くのに2、3分の時間を要することから、答案全体のバランスから優先順位が落ちること③もともと所得税法の規定の影響を取り込んだものであり、相続税法の本質的な内容から外れること、である。しかし、問題文の但し書きの指定は、法第14条第2項条文中の「被相続人にかかる所得税、相続税、」以下税目が列挙された部分を省略することを意図したものという説もある。もし、作問者の意図として(2)は法第14条第3項の記述をも含むものであったとしたのなら、非常に紛らわしく不誠実な作問であると言わざるを得ない。その他の部分では受験者間でほとんど差がつかないであろうから、結局のところ、この第14条第3項部分の記述の有無によってどう採点が分かれたのか、国税庁は明らかにする責任があると考える。国税庁のウェブサイト上で発表された「出題のポイント」 においても、この点について明かされていない。むしろこの「出題のポイント」は、問題文を見ればわかることを再度繰り返しただけの、出題意図を読み解く上で何の参考にもならない代物であるので、国税庁は求める解答がどういったものであるのか具体的に、もっと誠実に情報開示をするよう努めるべきである。

2-4-1-4 問2
 問2は、被相続人が死亡の時において法施行地に住所を有しない場合の具体的事例を挙げ、相続税法の規定について理解を問う問題である。(1)は相続税の納税地について、相続税法第62条、法附則3を、(2)は相続税の期限内申告書の提出義務者及び提出期限について、相続税法第27条の規定を書けばよい。(3)は、事例に基づき、相続税の期限内申告書の提出先及び提出期限について、相続人乙、丙、丁のそれぞれについて説明を求めるものである。特に考え込むような難解な論点はなく、暗記した条文を如何に速く正確に記述できたかで合否が決まったと思われる。

2-4-1-5 疑義論点
 問2(3)相続人丁の相続税の期限内申告書の提出先については、予備校により解答が分かれた。問題文には、丁は、相続開始の時において日本国内(C市)に住所を有していたが、「平成28年8月1日に納税管理人の届出をせず、ドイツ連邦共和国へ転居し、同日後は、日本国内に住所及び居所を有していない。」とある。この解答としては、原則的には、法施行地に住所を有しないこととなる平成28年8月1日までに住所地(C市)の所轄税務署長に申告書を提出しなければいけないが、申告書を提出しないで出国した場合には、納税地を定めて納税地の所轄税務署長に申告することとなる。問題文に①期限内申告書とあることから出国前の取扱いを問うているように見える(出国後は期限後申告となるため)が、②納税管理人の届出をせず出国とあるのは、出国後の取扱いを問うているようにも見えるし、③その両方について解答を求めているとも考えられる。この点については、問題文から解答すべき範囲を限定できないので、国税庁からその趣旨を明らかにすべきである。

2-4-1-6 開示を求める部分
 全問が記述式で膨大な分量になる税理士試験においては、特に理論問題において試験委員の採点が記入された解答欄の全てを開示することに支障があることは、一定の理解ができるものである。3−1で後述するが、解答を求められる項目は一義的に定まっているとしても、その表現形式が自由である以上、完全に厳密な採点は不可能であることも承知しており、文字の綺麗さなどまで含め、ある程度までは試験委員の主観的な判断で評価せざるを得ない。開示請求を行った複数の受験者間で答案を比較した場合に、なぜこちらの答案があちらの答案より1点高いのかといった微細な事項の照会に、事後的に全ての者が納得のいく説明を行うことは困難であろう。このことから、理論問題の解答欄の全ての開示を求めることはしない。
 しかし、かといって第一問の全体に与えられた評点欄しか開示しないのであっては、あまりに不十分であり、その採点が適正に行われたかについて疑いを払拭できないものとなり、適切でない。もう少し細分化して、それぞれの問毎にどういった評価が与えられたかの開示を行うべきである。
 以上から、第一問(理論問題)は、評点欄に加え、問1(1)(2)、問2(1)(2)(3)それぞれの部分点を開示するべきである。

2-4-2 第二問(計算問題)

2-4-2-1 概要
 第二問は、与えられた問題資料(計12ページ)から相続税の課税価格、相続税額及び贈与税額を求める問題で、全体で50点の配点とされている。答案用紙は計13枚である。
 各問は、相続税法、租税特別措置法、財産評価基本通達等の規定に従って計算根拠とともに財産評価を行い、税額を求めるのであるから、その正解は、各予備校が発表している模範解答とも相違が無いものと思われる。しかし、問題の中には、現行法令通達においてその取扱いが定められていないと考えられる論点を含む問が出題された。その部分が、採点上どのように評価されたか、考えられる2つの解答パターンの内の一方のみが、試験委員の独断で正解とされていないかは、確認される必要があると考える。

2-4-2-2 疑義論点
 取引相場のないM社株式の価額の計算 純資産価額の計算 負債の部(答案用紙 第二問1(2)ロ(ロ))を求めるに当たって、「保険差益に係る法人税等」を計上する。当該金額は、保険差益に37%を乗じて得た法人税等相当額である。これは、国税庁ウェブサイト「質疑応答事例 評価会社が受け取った生命保険金の取扱い」 の通りであるが、この保険差益を求めるに当たって評価会社が支給した弔慰金の額を控除すべきかについては、明確な指針が存在しない。市中の実務書にも、弔慰金を控除している場合としていない場合がある。よって、評価会社が受け取った保険金20,000,000円から保険積立金15,000,000円と死亡退職金3,000,000円の合計額を控除した金額2,000,000円を保険差益とするか、そこからさらに弔慰金500,000円を控除した1,500,000円とするか、どちらも解答として考えられ、予備校の解答例でも両パターンが存在する。

2-4-2-3 開示を求める部分
 税理士試験・税法科目の計算問題とは、申告書を作成し課税標準と納付税額を求める問題である。ある解答欄の数値が後部の解答欄の数値に連繋した一連の問題で、最終的に一つの答え(納付税額)に行き着くはずである。税理士実務の上では、申告書の内容如何で納付税額が変わるということは申告納税制度の仕組み上、多分にあり得るのであるが、少なくとも試験問題上は、一つの事例から一つの納付税額にたどり着くように問題を作成すべきである。また、問題設定の不備により複数の解答が生じるという場合もあるであろうが、その場合もいくつかの別解に限定されるのであり多種多様な解答が無限に生じるとは、通常考えられない。
 そうであるならば、これは司法試験や公認会計士試験でいう短答式試験と同じような性質をもったものと言える。即ち、正解が一義的に定まっているものであり、試験の実施機関から試験後に正解が発表されているものである。税理士試験の計算問題でも、同様に、本来、正解(模範解答)が発表されていて然るべきものである。
 試験委員の採点が記入された解答欄を開示することで、配点箇所が判明してしまい、そのことが今後の試験において、配点のある箇所だけを効率的に解答しようとする者が現れ不公平を招くという指摘が予想される。しかし、近年の相続税法の試験で求められる膨大な量の記述に対し、試験時間内に解答欄の全てを埋めることは合格水準にある者でも不可能であり、既に現実に、配点がないと思われる箇所(相続税の課税価格集計表や、計算過程等)を省略することが解答テクニックとして言われているため、その指摘は当たらない。むしろ、現行の試験は、答案用紙の指定通り丁寧に解答している者と、思い切って省略している者との間で不公平を招いている。相続税法の知識、能力とは関係ない、答案用紙のどの解答欄を埋めるかという選択に、与えられる評点が左右されてしまっている。試験後に配点箇所が明かされることで、受験者が自らの答案とそれに与えられた評点との間に納得感を得られることとなり、試験の透明性は向上し、採点に対する不満も減少する。
 また、開示により配点箇所が判明しても、それは当該年度の試験で当該試験委員の考えるところにより配点を行ったという事実を示すだけであって、将来行われる試験において、同様の規則性に基づいて配点を行うことを拘束するものではない。つまり、配点箇所は毎年変わる可能性があり、そのことから特定の受験者に対し有利な結果を招き不公平が生じることはない。
 以上から、第二問(計算問題)は、評点欄及び計算過程を含めた解答欄の全部について、開示を行うべきである。